負け犬たちのミッドナイト・バス 原案:サレンダー橋本、脚本:蔭岡翔(青春アドベンチャー)

格付:AA
  • 作品 : 負け犬たちのミッドナイト・バス
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AA-
  • 分類 : 幻想(日本/ライト)
  • 初出 : 2021年2月1日~2月12日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原案 : サレンダー橋本
  • 脚本 : 蔭岡翔
  • 演出 : 石川慎一郎
  • 主演 : 栗原類

2年前のあの日、結局、一花を引き止めることはできなかった。
そりゃそうだ、シンガーソングライター志望と言ったって所詮はプー太郎。それどころか母親が死んでからは単なる引きこもり。
結婚して大阪に行く幼なじみを引き止めるようなめんどうくさいことができるはずない。
でも、今、電話口で一花は泣いている。「私、もう無理かも」
やっぱ、めんどくせえ。
でも今度こそ何かしないといけないねえんじゃないか。

居ても立ってもいられなくなった俺は大阪行きの夜行バスに飛び乗った。
しかしこの深夜バス、何だか妙な雰囲気だ。
乗客がやけに少ないし、運転手の顔は…ねずみ?!
その運転手、もとい「運転チュ」が話し始めた。
「たった一度の人生をしくじったお客様。もう取り返しのつかないお客様。恥に恥を重ねて、重ねた恥にまた恥を重ねて月まで届きそうなお客様。ルーザーラット高速バス、ギフトオブクリスマス、あっと驚くミッドナイトドリーミング号、出発します!」



本ラジオドラマ「負け犬たちのミッドナイト・バス」はNHK-FMで放送されたオリジナル脚本のラジオドラマで、脚本は蔭岡翔さんが担当されています。

蔭岡翔さん2作目の脚本

オリジナル脚本と書きましたが、「原案」として漫画家のサレンダー橋本さんの名前が挙げられている変則的な形式。
青春アドベンチャーの四半世紀の歴史で「原案」がクレジットされているのは、「タイムスリップ源平合戦」以降のタイムスリップシリーズ以外には「光の島」くらいのはず。
一体どういう経緯で「原案:サレンダー橋本、脚本: 蔭岡翔」と表記されるに至ったのか気になるところではあります(原案作品を整理しました。詳しくはこちらの記事をご参照ください。)。
なお、本作品は蔭岡翔さんの2作品目の脚本作品(1作品目は「なにわ純情ナイトメア」)なのですが、あくまで個人的な意見ですが、最近、オリジナル脚本の長編の場合、その脚本家の2作品の作品に私の趣味にあった作品が登場する確率が高いように感じます。
人喰い大熊と火縄銃の少女」(オカモト國ヒコさん脚本)や「元中学生日記」(鹿目有紀さん脚本)も2作品目でした。
まあ例外もたくさんあるのですが。

どこかで聴いたような?

さてそれはさておき、本作品は、ダメ人間のフリーター・山田太郎をはじめとする負け組のみなさんが、不思議な深夜バス「ミッドナイトエクスプレス号」に乗って過去を旅するお話しです。
山田太郎が、同じ負け組の同乗者と一緒に過去を改変する時空を超えた冒険をすることを通じて自己を見つめなおしていく、という成長物語です………?
なんだろう、なにか妙な既視感が………
………!そうだ!

12月向きの作品

ここまでの文章、ひとつ前に書いた「輪廻転Payうた絵巻」の紹介記事とよく似ているじゃないですか!
そもそも「輪廻転Payうた絵巻」の記事では、さらにその少し前に再放送された「クリスマス・キャロル」との類似性について書きましたので、なんと短いスパンで似たような構成の作品が3作品も続いたことになります。
正直、いくらなんでも同じような作品が続きすぎ!という気もするのですが、実はこの3匹目のドジョウ「負け犬たちのミッドナイト・バス」の出来がなかなかよかったため、あまり気にならずに聴くことができました(ただこの作品こそ12月放送がふさわしかった気がしないでもない)。

リズミカルな展開

構成は単純なもので、いくつかのイベント(過去改変)を繰り返しつつ進行し、最後に主人公にとっての大イベントが発生。
何もかもが「めんどうくせえ」としか捉えられなかった主人公が、主体的に人生を生き始めるようになりハッピーエンド、というもの。
ただ、そのイベントの発生タイミングがリズミカルで、各イベントに合わせた登場人物たちの造形も個性的であることから、なかなか飽きさせません。

わかり安いキャスト

主要な登場人物としては主人公「山田太郎」(演:栗原類さん)のほか、酔っ払いの中年親父「板東」(演:八田浩司さん)、キャバ嬢風の金髪女「ユリ」(演:篠原真衣さん)、ガリ勉&アニメ声のバカップル「まーくん」(演:南川泰規さん)と「まいまい」(演:桜井ういよさん)という乗客に、どぶねずみの「運転チュ」(演:堀川りょうさん)を加えたバスの同乗者が最も主要なキャスト。
他には、幼なじみの一花(演:内田理央さん)とその夫・城之内(演:納谷健さん)あたりも主要なキャストです。
結構絞られたキャストがこの作品のわかりやすさの原因…と書こうと思ったのですが、改めて考えると結構、多いですね、主要キャスト数。
それにもかかわらず聞きていて少し混乱したのはユリと一花くらい。
混乱が生じないのは、イベントごとに中心となる登場人物が異なる構成と、出演者さんたちの演技のお陰でしょう。
そういった意味でもとても聞きやすい作品でした。

栗原類さん、いいじゃないですか

さて、主要なキャストは上記のとおりですが、やはり一人を挙げるならば主演の栗原類さん。
ご存じのとおりハーフのファッションモデルで、「笑っていいとも!」などのバラエティではネガティブキャラで注目を浴びましたが、ADD(注意欠陥障害)をカミングアウトしている方でもあります。
俳優業とADDの親和性について私は語るべき専門性をまったく持っていないのですが、少なくとも本作品についてはとても役にあった演技だと思いました。
というか肉体派だと思っていた佐野岳さんの演技(「元中学生日記」)が素晴らしかったのと同様に面白いと思いました。

堀川りょうさんが嬉しい

また、「運転チュ」を演じた堀川りょうさんもちょっと嬉しい配役。
こういったファンタジー色の強い配役にワンポイントで声優さんをあてるのは他の青春アドベンチャー作品でもみられる傾向なのですが、「ドラゴンボール」のベジータ、「銀河英雄伝説」のラインハルト、「機動戦士ガンダム0083」のコウ・ウラキなどで知られる(当時は「堀川亮」名義でしたね)堀川さんをコメディリリーフで配役するのは面白いですね。
堀川さんは2020年のFMシアター「極楽プリズン」に続いての登板。
1980年代に「マージナル」や「黄昏のベルリン」に堀川さんらしい繊細な若者役で出演されていたことを知る者としては、今の老成された堀川さんの声に昔の繊細な若者声の面影を探すのはなかなか趣深いものがあります。

勢いのある展開を是非

さて、ここまでストーリーについて詳しく書くことは控えてきました。
というか難しいストーリーでもないのであまり書いてしまうと楽しみが半減してしまうので避けたというのが実際のところです。
一度は超速で行けた大阪にもう一度行こうとしたら現実と同じ時間が掛かるなど、よくわからない展開もあったりはするのですが、勢いのある展開と選曲に押し流され、細かいところはどうでもよくなるのもこの作品のよいところ。
その勢いを感じて欲しく、最後に各回のタイトル(ただし漢字等は違うかも)をご紹介して本記事を終わりにしたいと思います。

  1. クソめんどくせえ
  2. 無理だ、無理無理
  3. なんかすごいこと口走られた
  4. ナンパなんて出来ねえ
  5. やっぱだめでふ
  6. こんなことやっている場合じゃねえんだけど
  7. 夢はもうねえな
  8. ドブネズミみたいに
  9. 俺の愛をあげる
  10. めんどうくせえなんて言ってらんねえな

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