火星ダーク・バラード 原作:上田早夕里(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : 火星ダーク・バラード
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B
  • 分類 : SF(その他)
  • 初出 : 2024年2月12日~2月23日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 上田早夕里
  • 脚色 : 大河内聡
  • 音楽 : 和田貴史
  • 演出 : 吉田浩樹
  • 主演 : 桐山漣

地球歴2200年。
理想郷を夢見て開拓された火星は、人種間の争いや貧富の差から犯罪が多発するミニ地球と化していた。
故郷である地球を捨て火星にたどり着いた水島烈も火星治安管理局の捜査官に身をやつし犯罪者を追う日々を送っていた。
そうした中、ようやく捕まえた猟奇殺人犯の護送中に、信頼する同僚の捜査官、神月璃奈を殺害されてしまう。
管理局の上層部から彼自身がその犯人と疑われた水島は独自の捜査を開始するが、彼の前にアデリーンというダークブロンドの少女が現れる。
彼女は極秘の遺伝子操作により生まれた新たな人類で「超共感性」という特殊な能力を持っているというのだが…


上田早夕里さんは2011年に「華竜の宮」で日本SF大賞を受賞されたSF作家さんで、そのデビュー小説が本オーディオドラマの原作である「火星ダーク・バラード」(2003年)です。

舞台は火星の人類社会

内容としては人類が移住している未来の火星を舞台にしたSFであり、青春アドベンチャーの先行例としては「トリガー」(霞田志郎さん原作、1999年)が近いでしょうか。
ただし、完全にテラフォーミングが済み、地球との行き来も普通にできる状況ですので、終盤で軌道エレベーターや衛星フォボスがでてくいるまではSFの「Science」的なネタである部分あまりなく、どちらかという退廃的でアンニョイなサーバーパンクSFに近いイメージです。
その意味では「レッドレイン」(柴田よしきさん原作、1998年)に近いでしょうか。

特徴その1:雰囲気SF

ところで「レッドレイン」の記事の中でわたしは「雰囲気先行」と書いたのですが、正直なところ本作品も同様の印象を受けました(ちなみに「雰囲気先行」は全くディスっていません。「レッドレイン」は格付け“AAA-”です)。
敢えてSF的なネタを上げればえば唯一のSFネタである「超共感性」と「プログレッシブ」でしょうか。
「人間が持っている直感を遺伝子操作で鋭くしたもの」らしいのですが、簡単にいっちゃうとガンダム世界におけるニュータイプみたいなものでしょうか(どちらかというと強化人間?)。
単なるテレパスあるいは千里眼的なものが基本なのでしょうが、強力になるとある程度現実世界に影響を及ぼしうるあたりもニュータイプっぽい。
何より人類の宇宙進出に必要とされているという点で共通しています。
なぜそのような能力が宇宙探検に必要なのか判然としないのもまた…

雰囲気重視は良いのだけど

しかし先述べたようにこういうSF設定より雰囲気こそが魅力だと思います。
本作品も和田貴史さんの音楽自体の魅力に加え、それをSEと組み合わせて使うことによって、このやや暗めのストーリーを効果的に演出しています。
ただ、全体のストーリー進捗が遅く、前半5回にこれといった進捗がないのはさすがに残念。
また、原作がそうなのかオーディオドラマ版の脚色・演出のせいなのかわかりませんが、冒頭バディが殺されてスタートする割にはハードボイルド的な展開はあくまでマイルド。
個人的には「サラマンダー殲滅」(1991年)や「カムパネルラ」(2018年)くらい破滅的でもいいのですが。
また、アデリーンってかなり周りを不幸にする系の相棒ですよね。
そういう意味では「高天原探題」(2018年)や「ギルとエンキドゥ」(2018年)くらいの不幸な終わり方でもよかった気がします。
…って改めて考えると2018年の不幸っぷりってすごいな…
なお、本作品全10回のサブタイトルは以下のとおりです。

  1. 最高のバディ
  2. プログレッシブ計画
  3. ダークブロンドの少女
  4. 超共感性
  5. 裏切り
  6. 救出
  7. 逃避行
  8. グレアムの過去
  9. 脱出
  10. 地球へ

特徴その2:キャスト

さて音楽・音響効果をとおした雰囲気づくりと並んで本作品のもうひとつといえばキャスト。
主役の水島烈(みずしま・れつ)を演じるのはイケメン俳優として有名な桐山漣さん。
2009年に「仮面ライダーW」で菅田将暉さんとW主演した方ですが、青春アドベンチャーでは「北海タイムス物語」(2019年)、「イレーナの帰還」(2020年)に出演されたあと、オムニバス作品の「ふれるストーリボックス」(2023年)の多くの回で主演。
本作品で初めて完全な主演ということになります。
またヒロインのアデリーン役は元乃木坂46の井上小百合さん。
主演された「世界から歌が消える前に」(これも共演者が強烈だった)ではあまり感じなかったのですが声が少し幼げでアデリーンによくあっています(ご本人29歳なんですけどね)。

往年の名声優さん

また声優ジャンルから井上和彦さんと銀河万丈さんという大御所がふたりも参戦。
銀河万丈さんは最近ナレーションで起用(柳生非情剣とか)されることが多く、「シャドー81」ではニクソン大統領役(ほぼギレン・ザビでした)をやってたりもしましたが、井上和彦さんは本当に久しぶり!
1990年代には「BANANA・FISH」と「ランドオーヴァー」の2大シリーズに出演されていました。
そういえば「BANANA・FISH」もやたらと共演者が豪華だったな(ただし当時は若手舞台役者)。

コメント

  1. きまぐれ より:

    こんにちわ

    私はこの作品、文庫版を読みました。
    あとがきによりますと、この作品は単行本から文庫化される際、作者の意志で大幅な改稿を行ったそうです。私は文庫版しか読んでないので何がどう変わったかはわかりません。

    小松左京賞を取ったのは単行本バージョンで、それから作者の意志で改稿したのは勇気のいる事だったと思います。

    昨今、原作がドラマ等制作側に変えられたとかで、問題になってます。
    一人のファンの立場からすると原作者と製作者の対立は悲しいの一言です。

    何はともあれ作品を楽しんでいきたいと思います。

    • Hirokazu Hirokazu より:

      きまぐれさま

      コメントありがとうございます。
      わたしも違いを知らないのですがオーディオドラマは文庫版準拠だそうです。

      脚色の件は悩ましい問題ですね。
      NHKのオーディオドラマは原作に忠実な脚色が多いですが、なかには改変が効果的だったものもあります。
      今話題になっている作品の場合は原作者がはっきりと改変を拒否しているのに改変してしまったようなので論外だとは思いますが。

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