滅びの前のシャングリラ 原作:凪良ゆう(青春アドベンチャー)

格付:AA
  • 作品 : 滅びの前のシャングリラ
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AA
  • 分類 : SF(日本)
  • 初出 : 2022年9月19日~9月30日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 凪良ゆう
  • 脚色 : オカモト國ヒコ
  • 音楽 : 小林洋平(テーマ音楽)
  • 演出 : 佃尚能
  • 主演 : 鈴木福

ネットニュースで拡散された情報「1カ月後、小惑星が地球に衝突し、人類は滅亡する」。
米国政府がこれを首肯したことにより世界は大混乱に陥った。
東京でもすぐにそうなるだろう。
そんな中、スクールカースト最底辺の高校生・友樹は広島から旅立つことを決めた。
東京へ向かうクラスメート雪絵を守るためだ。
母、静香は友樹に包丁を渡しながら言う「殺されるくらいなら殺してでも生き延びろ。惚れた女は命がけで守れ。それで絶対にあたしのところに戻ってこい」。
自分の人生の期限を定められたときに人はどう生きるのか。
日常生活を保つのか、日常生活では満たせなかった欲望に溺れるのか。
理性を保ち続けるのか、獣性をむき出しにするのか。
友樹と、彼と同様に不器用な人生を生きてきた4人の最後の1カ月が始まる。



本作品「滅びの前のシャングリラ」は、2021年本屋大賞第7位を受賞した凪良ゆう(なぎら・ゆう)さんによる同名の小説をオーディオドラマ化した作品で、NHK-FMの青春アドベンチャーで放送されました。

ティザームービー!

演出を(恐らく企画自体も)担当したのはクリエイティブディレクター・映像監督の佃尚能さん。
「真田丸」や「西郷どん」のOP映像を手掛けられておりNHKと縁はありますが、外部の監督さんです。
青春アドベンチャーでは2007年の「僕たちの戦争」以来久しぶりのディレクションで、今回はその特技を生かしなんと放送前に本作品のティザームービーを公開されました。
多分、青春アドベンチャーでは初めての試みだと思います。

その他にも…

その他、音楽自体は通常の青春アドベンチャーと同様に黒田賢一さんが選曲(既存のサントラ等を採用)しているものの、テーマ音楽を小林洋平さんが作っているほか、女性4人組のロックバンド「LAZYgunsBRISKY」と女性5人組のアイドルグループ「notall」の曲をテーマ曲として効果的に使う試みも新鮮。
2022年のアニメ「パリピ孔明」の成功を見るまでもなく、音楽ものは音楽をある程度キチンとつくらないと話になりません。
この辺も佃さんの差配なのでしょう。
そして脚本に「砂漠の王子とタンムズの樹」(脚色)、「人喰い大熊と火縄銃の少女」(オリジナル)と、原作付き・オリジナルの双方で青春アドベンチャーでは定評のあるオカモト國ヒコさんを迎え、さらに鈴木福さん、鈴木梨央さんといった名子役から脱皮中の若手俳優を演者として据えたこの作品。
期待は高まるのですが、さてその出来は如何に…

終末もの

まず作品の内容ですが、雑に言うといわゆる「終末もの」、特に巨大隕石の落下が確定した人間社会で起こる物事を題材にした作品です。
このテーマは、NHK-FMのオーディオドラマでも過去、多数の類例があります。
このブログで紹介したものとしては「ひとめあなたに…」(1982年)、「終末のフール」(2010年)、「マナカナの大阪WORKERS」の中の「バナナケーキ」(2011年)、「夜のストーリーボックス」の中の「世界の終わりのカレーライス」(2019年)、「ノストラダムスと冷静な航海士たち」(2020年)といったところ。
青春アドベンチャーとは関係ありませんが2022年江戸川乱歩賞の「此の世の果ての殺人」も同じテーマですね。

過去、最も殺伐とした雰囲気

同じテーマですが、作品内の雰囲気は、かなり殺伐とした「ひとめあなたに…」から、静謐な「世界の終わりのカレーライス」まで様々です。
私見ですが、これは「終末が公表されてから終末までの期間」(先行きが短いと殺伐としがち)と「発表からの経過期間」(一定時間を経過していると落ち着く傾向)といった時間設定に連動しているように感じます。(※追記をご覧ください)
本作品は、公表から終末まで1カ月と短く、しかも公表直後が舞台、というパターンです。
つまり、高校生が主人公でありながら、これらの作品の中でも最も殺伐として最もバイオレンスな部類に入る作品です。

荒んだ主人公達

そもそも主人公・秀樹は日常生活の段階でいじめられており、その描写がまずキツイ。
そして「発表」以降も人の悪意に直面する結構な展開。
母親の静香もすぐに手が出る元ヤンだし、ヒロインの雪絵も冒頭から訳ありげな雰囲気。
そして第3回から主役となる信士に至っては現役のやくざで、その過去の事績を念入りに描写。
終盤にでてくる「裁く奴なんておらん」とか「どうせ1カ月しかない。みんな好きにしたらええね。」というセリフからも感じたのですが、全般的に原作者の発想自体が荒んでいる気がしてなりません。

ある意味、拍手

そもそも電気供給やインスタやらが最後まで何とか使用可能なのは、好き勝手をしないことを選んだ人たちが必死に支えているからではないのかな。
その人たちの努力の上に維持されている社会を、好き勝手してよい「シャングリラ」ととらえる主人公たちの行動には何となく釈然としない思いが残りました。
ただ、この辺の、現代日本人の緊急時における悪意をきちんと描いた作品は最近の青春アドベンチャーでは少なかったのでその意味では拍手を送りたいと思います。

各回サブタイトル

本作品の各回のサブタイトルは以下のとおりです。
「○○編」は「終末のフール」ほど独立してはおらず概ね大きな筋に従って(一部戻りますが)進んでいきます。

  1. 友樹編・前編
  2. 友樹編・中編
  3. 友樹編・後編
  4. 信士編・前編
  5. 信士編・後編
  6. 静香編・前編
  7. 静香編・後編
  8. 路子編・前編
  9. 路子編・後編
  10. 雪絵編

原作小説では各編についてそれぞれ「シャングリラ」、「パーフェクトワールド」、「エルドラド」、「いまわのきわ」、「イスパハン」という章タイトルが付いています。
…とここまで書いて原作ファンの方は気づかれたと思いますが、原作では初回限定特典スピンオフとして封入されていた小冊子まできちんと網羅している内容です。
その内容についていろいろ書きたいのですが、これこそ本当にネタバレなので諦めることにします。
あくまで私個人の感想してはこれでよかった、これを踏まえてこそのこの格付けと思っています。

マル・マル・モリ・モリ!

さて、本作品で全体の主演とされているのは友樹を演じる鈴木福さん。
青春アドベンチャーでは2021年の「世界から歌が消える前に」にも出演されていましたが、今回は堂々の主役です。
鈴木福さんが2011年にフジテレビ系のTVドラマ「マルモのおきて」で、姉役だった芦田愛菜さんと一緒に一世を風靡したのはもう10年以上前になります。
ちなみに「マルモのおきて」での役名も友樹でした。
現在は18歳で高校生!なんだそうです。
ちなみに芦田愛菜さんの方は2019年にFMシアターの「エンディング・カット」に主演され、出来の良さからTVドラマ化もされるという離れ業を実現しています(TVドラマ版も同じ役で出演)。

高校生になった鈴木梨央さん

またヒロイン役の鈴木梨央さんも数々のドラマに出演した名子役ですが、青春アドベンチャーでは2018年に初放送(2022年に再放送)された「さよなら、田中さん」での快活な花実役が忘れられません。
今回は花実とは打って変わった蔭のある役です(それにしても妹に「真実子」と名付ける親の行動にはドン引きです)。
しかしあれからもう4年なんですね。
当時小学生を演じた鈴木梨央さんが高校生を演じているのに驚いたのですが、4年という歳月を考えれば当たり前のことではあります。
ただもう「さよなら、田中さん」の続編はやってもらえないかなと思うと残念な気持ちもあります。

その他の出演者

その他、友樹の母の静香を演じる渡辺真起子さんとやくざの信士を演じる渋川清彦さんが前半から中盤の重要キャスト。
静香と信士のやりとりは本作品の荒れた雰囲気を象徴するようなキツイ言葉の応酬ですが、実は渡辺さんと渋川さんの演技はそうでもなく、本当に強烈なのは若き日の2人を演じた田島亮さんと上原実矩さんの演技だったりします。
また、終盤の路子編の主演は、歌姫LOCO(ロコ)こと路子を演じる蒔田彩珠さん。
君を探す夏」でも主演されていました。
「君を探す夏」でも蔭のある役でしたが、本作品ではそれ以上に大人社会の荒波にもまれちゃう役で、荒んだ(この表現ばかりですみません)演技が痛々しい。
なお、路子編2話は全体を締める話なのですが、蒔田さん演じる路子の軌跡が鮮烈であるからこそ、その前までの7話とシームレスにつながらず少し浮いていると思いました。
最終的に雪絵編の存在が全体をまとめる最後のピースになっていると感じます。



※2022/10/3追記
…などと書いていたら以下の記事を見つけました。
凪良さんも1カ月という期間を意識して書いたそうです。

(外部サイト)「滅亡まで一ヶ月という「中途半端」の面白さ」

それにしても「ひとめあなたに…」も「終末のフール」も読んだうえで書いてるんですね。
そりゃそうですよね。

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