紅いハンカチ 作:藤井香織(FMシアター)

格付:B
  • 作品 : 紅いハンカチ
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : B+
  • 分類 : 日常
  • 初出 : 2013年8月3日
  • 回数 : 全1回(50分)
  • 作  : 藤井香織
  • 演出 : 大海紀子
  • 主演 : 平幹二朗

俺は今年も広島へ向かう。
辛くても忘れないこと、死ぬまで。
それが罪滅ぼしだと思ってきたからだ。
しかし、浪子さんとの約束を果たそうとは思ってこなかった。
「もしまたいつか会ってくれるなら…」
浪子さんはどういう思いでそう書いたのだろう。
今年、俺はこの女性と初めてこの海を渡る。
浪子さんと約束した弥山の消えずの火をみるために。



本作品「紅いハンカチ」は中四国ラジオドラマ脚本コンクールに入選した藤井香織さんの脚本をオーディオドラマ化した作品です。

藤井香織さんの初期作

2017年「また、桜の国で」、2022年「六人の嘘つきな大学生」、2023年「うるはしみにくし あなたのともだち」など、青春アドベンチャーで原作付きのエンタメ作品の脚色で力を揮っている藤井香織さんですが、この作品はそのキャリア初期の作品です。
テーマは原爆差別とそれへの悔恨でしょうか。
これがテーマになっているのはもちろん中四国ラジオドラマ脚本コンクールへの出展作品だからだと思いますが、藤井さんは広島出身ですのでそれなりの思いがあっての脚本なのかも知れません。
ちなみに本作品の終盤の舞台になる広島・宮島の弥山(みせん)の場所は以下のとおりです。
厳島神社の裏山的な位置にあります。

なんと主演は平幹二朗さん

さて、広島出身ということでいえば主演の平幹二朗さんも同様。
平幹二朗さんといえば本作品放送の約3年後、2016年に亡くなられた日本を代表する俳優さんですが、実は広島市ご出身。
しかもご母堂は原爆を生き延びたものの後遺症で苦しみながら平さんを支え続けたそうです。
平さんも思うところがあってのご主演だったのかもしれません。

2つのパート

さて、本作品は2つのパートから構成されています。
ひとつは、平幹二朗さん演じる元国語教師の老人・水野浩三と、朝倉あきさんが演じる25歳の藤村遥が登場する現代パート。
もうひとつは、辻本祐樹さんが演じる若き日の水野浩三と、渋谷はるかさんが演じる浩三の幼馴染の佐野浪子が登場する戦中・戦後パート。
後者も主な舞台は千葉であり原爆そのものの被害はほぼ描かれないのですが、その性格上、どうしても深刻なものにならざるを得ません。
しかし、前者の朝倉あきさん演じる遥の性格が彼女の演技と相まって適度な軽さがあるため全体的に救いのある話になっています。

朝倉あきさん!

朝倉あきさんといえば、青春アドベンチャーの「放課後はミステリーとともに」、「風の向こうへ駆け抜けろ」、FMシアターの「想い出あずかります」、「また逢う日のうた」など多くの作品に出演されている常連女優さんです。
本作品はFMシアターではかなり初期の出演作になりますが、この2013年は本作のわずか2か月後に同じFMシアターの「イジメの彼方」にも出演されています。
独特の軽さと健気さを併せ持つ声、演技は本作品でもよくあらわれていますね。

いかにもFMシアター

さて、原爆被害の悲惨さ自体を描くというより、それと取り巻く人々の考え方からその悲劇を描くというのは「夕凪の街 桜の国」に少し近い形です。
いかにもFMシアターらしい真っ当なテーマで、脚本や演技も過度に暗くならない範囲で真摯に描いておりこれはこれで、あるべき作品だと思います。
正直、あまりにFMシアターらしく特別な工夫感は感じられなかったものの、そういったものを期待すべき作品ではないのだとは思います。
少なくとも「ピカは感染する」といわれ差別の対象とされたことなど、知らないでいてよい話でもないでしょう。
似たような話は今でもある訳ですし。


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