- 作品 : 蜩ノ記
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA
- 分類 : 歴史時代(日本)
- 初出 : 2012年6月18日~6月29日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 葉室麟
- 脚色 : 小林克彰
- 演出 : 真銅健嗣
- 主演 : 寿大聡
城内で刃傷沙汰を起こしてしまった庄三郎は、切腹を許される代わりに、家老から戸田秋谷(しゅうこく)の手伝いをするように命じられる。
秋谷は藩の歴史を記す「家譜」(かふ)を編纂するために必要な期間だけ切腹を猶予されている男であり、庄三郎に課せられた真の任務は秋谷の監視であった。
しかし秋谷と身近に接し、その人となりの清廉さ、見識の高さを知った庄三郎は疑問を持ち始める。
秋谷は切腹せねばならない如何なる罪を犯したというのか…
なぜ家老は秋谷とその仕事である家譜編纂に警戒を示すのか…
当時では希少な時代もの
青春アドベンチャーでは非常に珍しい本格的な時代小説を原作とした作品です。
伝奇小説的なものを除いた時代ものとしては、清水義範さん原作「尾張春風伝」や飯嶋和一さん原作「風になった男」(原作タイトル「始祖鳥記」)程度しか思い浮かびません。
著名な原作を基にした作品という面では、アドベンチャーロード時代の「おろしや国酔夢譚」(井上靖原作)まで遡りますが、これはどちらかというと歴史小説。
蜩ノ記は一般社会から見ると直木賞受賞作という超メジャーな作品ですが、青春アドベンチャー的にはかなり冒険的な作品チョイスだったのかも知れません(その後の青春アドベンチャーにおける時代ものの増加については記事の末尾をご覧ください)。
主演のふたりがよい!
ラジオドラマとしてはかなり丁寧なつくりです。
主演のふたり、壇野庄三郎役の寿大聡(じゅだいさとし)さんも戸田秋国役の小市漫太郎(こいちまんたろう)さんもなかなかのはまり役。
特に小市さんは特徴的な渋い声調で、若山富三郎か細川俊之か、といったら言い過ぎかも知れませんが、独特な雰囲気を持っています。
一方の寿大さんは「失われた地平線」や「スペース・マシン」でも、比較的似た若者の役を演じおり、いずれも役の雰囲気にあった演技です。
また、スタッフに「文語言語指導」が入っていることからも真摯な作り方をしていることが窺えます。
様々な魅力のある作品
青春アドベンチャーの宿命として10話×15分の枠がありますので、どうしてもおなか一杯という感じにはなっておらず、ごく軽くではあるのですがミステリー的な要素もあり最後まで飽きさせません。
また、武士の覚悟というものは私には正直理解できない部分もあり、醜くてもしつこく足掻き続ける生き方を選んでも良いのではないかとも思うのですが、秋谷のような透徹した覚悟もまた見事なものと感じさせられます。
武士の生き方
なお、青春アドベンチャーで「生きられる時間を区切られたときどう生きるべきか」というテーマの作品としては他に「終末のフール」があります。
FMシアターの「世界から猫が消えたなら」も似たテーマかもしれません。
一方、本作では登場人物たちが武士というエリート階層に属する人物であること、秋谷に後事を託しうる人物がいること等の要素があり、これらの現代日本を舞台にした作品とはかなり雰囲気が違います。
原作者の小説を読んでみたくなる
私は葉室麟さんの小説を読んだことはないのですが、この作品は久しぶりに原作者の他の作品に当たってみる気を起こさせる作品です。
最初に書いたように青春アドベンチャーとしてはやや異端の作品かもしれませんが、この路線、私は大好きです。
是非続いてほしいものです。
(補足)
本作品については、2015年の再放送時に、当ブログが年末に実施した2015年のリスナー人気投票で第3位の得票を得ました。
本作品のほかに人気だった作品にご関心のある方は別記事をご参照ください。
■約260年に及ぶ江戸時代。
この記事を書いた後、比較的、時代ものの作品が多く制作されるようになりました。
それを受けて、当ブログで紹介した江戸時代を舞台にした作品が、細かく見るとどの時代設定を背景としているのかを一覧の記事にしてみました。
詳しくはこちらをご覧ください。
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