スペース・マシン 原作:クリストファー・プリースト(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : スペース・マシン
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B
  • 分類 : SF(その他)
  • 初出 : 2015年11月30日~12月11日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : クリストファー・プリースト
  • 脚色 : 大河原聡
  • 演出 : 真銅健嗣
  • 主演 : 寿大聡

1893年、イギリスはヨークシャー。
自動車運転用のゴーグルのセールスマンをしていたエドワード・ターンブルは、アメリア・フィッツギボンという令嬢と出合う。
アメリアは大発明家であるレナルズ教授の秘書をしているという。
彼女の美しさに一目ぼれし、また、彼女を通じてレナルズ教授にゴーグルを売り込めれば一儲けできると考えたエドワードは、アメリアへの接触を図る。
しかし、アメリアはエドワードが思っていたよりずっとお転婆で、しかも、レナルズ教授はエドワードが想像していたよりずっととんでもないものを発明していたのだった。



本ラジオドラマ「スペース・マシン」の原作を書いたクリストファー・プリーストは、1960年代から活躍するイギリスのSF作家で、日本では主に創元SF文庫から翻訳版が出版されています。

珍しい海外原作3作品

近年、外国作家の原作作品が少ない青春アドベンチャーですが、本作品が放送された2015年は、「カモメに飛ぶことを教えた猫」(ルイス・セプルベダ(チリ)原作)、「アグリーガール」(ジョイス・キャロル・オーツ(アメリカ)原作)、そして本作品と、珍しくも3作品も海外の原作作品が取り上げられました。

19世紀にタイムマシン?

さて、本作品の舞台は19世紀末。
今から100年以上前ですが、天才レナルズ教授の手により、ひそかにタイム・マシンが作られているという設定です。
途方もなくオーバーテクノロジーなのですが、敢えて「昔のSFが想定してた近未来」的な雰囲気を再現するやり方は、懐古的といってしまえばそれまでではありますが、SFでは割と良くある趣向で、とても楽しいものだと思います。

ヴェルヌ風の世界観

そういえば、本作品の舞台となる時代は、SFの元祖ともいうべきジュール・ヴェルヌ(1828年~1905年)が生きていた時代でもあります。
本作品の雰囲気を一言で言えば、ヴェルヌの「海底二万里」みたいな雰囲気、といったところでしょうか。
ちなみに、過去多くのSF作品や古典を取り上げてきた青春アドベンチャー系のラジオドラマ番組ですので、当然、SFの元祖ともいうべきヴェルヌの作品も2度取り上げています。
しかし、この2作品とは「皇帝の密使」と「アドリア海の復讐」であり、なぜかSF色は薄いラインナップです。

「タイムマシン」じゃない?

少し脱線してしまいましたが、話をストーリーに戻しますと、本作品はちょっと気弱なセールスマン・エドワードが、令嬢風な割には暴走気味かつやけっぱち気味のアメリアとともにタイムマシーンで冒険の旅に出る、というか出てしまう話です。
「タイムマシーン」に乗るはずなのに本作品のタイトルは「スペース・マシン」、ついでにこのブログでの分類も「タイムトラベル」ではなく「SF(その他)」というあたりから想像がつくと思いますが、彼らは確かに一時、時間旅行もするのですが、冒険の主な舞台となるのは「過去または未来」ではなく「ある場所」。
青春アドベンチャーでいえば「最後の惑星」や「昔、**のあった場所」(←ネタバレ注意)と同じ場所です。

スケールの大きな展開

その場所だからこそ、本ブログでの分類はSF(その他)としたのですが、実は物語の終着点、いってみれば決戦場所からいうとジャンルはSF(海外)としても良いものです。
このように次々と趣向が変わるスケールの大きさがこの作品の魅力の一つでしょう。

ただ少し大味

一方、物足りない点を挙げると、どの舞台も荒唐無稽で場面転換も雑であること。
クラシカルな雰囲気を出すためだとしても19世紀にタイムマシンを持ってくるあたりから色々無理がありますし、本作品が書かれた1970年代には**にあのような文明がないことはわかった上で意図的に書いているとしても**での冒険は子供向けの内容と感じてしまいました。

終盤がいい作品は良作

個人的にはあまり乗れずに終盤まで聴いていたのですが、第9回あたりから急に伏線がつながりだします。
敢えてタイムマシンを出したことも重要な伏線ですし、エドがゴーグルのセールスマンであったこともちょっとした伏線になっていたりします。
実在の歴史上の人物(演:手塚祐介さん、ネタバレ注意)が登場することを含めて、一気に盛り上がりました。
終盤が良い作品はやはり印象が良いですね。

寿大聡さん主演

さて、本作品で主役のエドワードを演じるのは、無名塾出身の俳優・寿大聡(じゅだい・さとし)さん。
青春アドベンチャーでは、「失われた地平線」や「幻坂」などにも出演されていますが、一番印象的なのは、やはり本作品と同じ真銅健嗣さん演出の「蜩ノ記」(檀野庄三郎役)でしょうか。
本作品はエドワードとアメリアの掛け合いで進むシーンがとても多いのですが、寿大さんだけではなく、アメリアを演じる渋谷はるかさん(レディ・パイレーツヘウレーカなど)も常連の出演者さんですので、安心して聴けます。

スペース!マシマシマシーン!

また、「開運!なんでも鑑定団」のナレーションで有名な銀河万丈さんが語りをしているのは、懐古風の味付けをするための工夫なのかもしれません。
本作品では、各回冒頭のエコーのかかった「すぺーす、んましーましーましーん」というタイトルコールがとても印象的です。
また、青春アドベンチャーでは脚色(「精霊の守り人」、「レッドレイン」、「翼はいつまでも」など)も手掛ける丸尾聡さん率いるプロジェクトMがキャストとしてコールされており、丸尾さんご自身も出演されています。
脚色の大河内聡さん、主演の寿大聡さんと併せて、なぜか「聡」が多いスタッフ・キャストです。
どうでもいい話ですが。


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大英帝国の最盛期である19世紀から20世紀初頭にかけてのイギリスを舞台にした作品を整理しました。
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