- 作品 : 光の島
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA+
- 分類 : 少年(幼小)
- 初出 : 2003年7月21日~8月1日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 尾瀬あきら
- 原案 : 森口豁(かつ)「子乞い 沖縄 孤島の歳月」
- 脚色 : 原田裕文
- 演出 : 松本順、真銅健嗣
- 演出 : 上村祐翔
照屋光(てるや・ひかる)は東京に住む海が大好きな男の子。
小学校への入学を間近に控えた光のもとに、ある日、唄美島(うたみじま)に住む伯父の洋平が尋ねてきた。
父の故郷でもある唄美島は、沖縄本島の南、八重山諸島の西表島からさらに南にある南国の孤島で、近年、急速に過疎化が進んだ結果、島の人口は40人しかいない。
しかも、島でたった一人の小学生が転校することになり、島の小学校は廃校の危機にあった。
光のもとを訪れた洋平は海の大好きな光に唄美島への移住を熱心に誘う。
もちろん光の両親は大反対したが、最終的には子供を「島の宝」として待ち望む島の人々の強い思いと、なにより光自身の希望を受け入れて、唄美島に渡ることを認める。
青い海と島の独特の文化、温かい島の大人達、そしてたった一人のクラスメートとともに過ごす光の唄美島での日々が始まった。
漫画家・尾瀬あきらさんの原作のラジオドラマです。
尾瀬あきらさんに関しては、この「光の島」を紹介する前に「青春アドベンチャー化して欲しい作品」として「とべ!人類」の紹介をしています。
その記事で尾瀬さんの作品傾向などは既に紹介済みですので、そちらもご参照下さい。
今回の記事では、順序が逆になった気もしますが、改めて既に青春アドベンチャー化している、この「光の島」を紹介します。
少年アドベンチャー?
さて、上記の粗筋のとおり、本作品は小学1年生の少年が主人公であり、特別な大冒険に巻き込まれるようなストーリーでもありません。
小学生が主人公の青春アドベンチャーの作品としては2013年放送の「光」があります(そういえばタイトルも似ていますね)。
「光」も少しだけ昔の日本の田舎を舞台にした日常生活を描く作品でしたが、終盤にある事件が発生するなど、小学生なりの大冒険が繰り広げられます。
ごく日常的
しかし、本作品は離島への移住という点を除けば本当に日常の物語だけの内容です。
まさに「青春」でも「アドベンチャー」でもない作品であり、素直に見てNHK-FMのもうひとつのラジオドラマ枠であるFMシアターこそが向いている作品です。
ただ、青春アドベンチャーが取り上げる作品ジャンルは多彩であり、中にはこのようなものもあっても良いと思います。
とはいえ、このような作品ばかりになってしまうと私の趣味・趣向からはちょっと困るのも確かではあります(私の趣味に合わないにも関わらず、意外と気に入ったその他の作品はこちら)。
強いメッセージ性
さて、本作品の内容は、NHKらしい、また尾瀬さんらしい、メッセージ性の強いものです。
孤島の村の過疎化と地域文化の継承の危機、都会暮らしと田舎暮らしのどちらが幸せなのか、といった問題が作品のバックボーンにあります。
しかし、この記事を書くにあたって調べてみると、本ラジオドラマは主に原作全8巻のうちの3巻までの部分から構成されており、原作でも社会派の色が濃くなるのは4巻以降らしく、本作品はその色は薄いようです(ちなみに本ラジオドラマ放送時点での最新刊は5巻でした)。
このラジオドラマ版ではどちらかというと、光を島に呼ばざるをえなくなった大人達の葛藤と、島での光の成長を通して、家族との絆や島の人たちとの絆を描いており、素直でちょっとセンチメンタルなストーリーになっています。
エピローグの余韻
物語の最後には、たっぷり時間を使って27歳になった約20年後の光の様子を描いており、作品を感動的にまとめ上げる良いエピローグになっています。
原作を確認していないのですが、このラジオドラマの制作時期を考えると、このエンディングはラジオドラマ版のオリジナルなのではないかと思います。
やはり物語のエンディングは読後(視聴後)感へ大きな影響を与えますね。
共感できない
ただし、聴いていてどうしても気になったのが、光の周りの大人達の考え方、やり方。
洋平は結局、小学校を存続させることが出来れば島に連れてくる子供は誰でも良かったわけです。
それは洋平の言動を見れば一目瞭然で、島を守るという発言ばかりで、光の幸せのためにどうしたらよいかという発言が全くありません。
これは洋平だけではなく島の大人はすべてそういう描かれ方をしています。
本作品では、光自身も島に行くことを望んでいますし、結果として、島での生活が光の一生を豊かにしたことは間違いありませんが、それは結果論。
もちろん、洋平なりに甥っ子の光のことを気に掛けてはいるのですが、それ以上に島の存続が大事で、それを恬淡として恥じるところがありません。
聴いていて苦しい
終盤で、大人達の思惑が絡み合った結果として、光が精神的に追い詰められてしまう場面がありますが、その状況をつくった原因は大人達にあるハズなのに、その大人達が悲しくなってみんなで泣いちゃうのってどうなんだろうと思います。
特に、本作品では登場する子供達がこれがまた素直ないい子ばかりで、大人達の身勝手っぷりが際だってしまいます。
これはもう価値観の違いとしかいえないのかも知れませんが、都会暮らしに染まってしまって地域共同体への帰属意識が薄い私としてはどうしても違和感を禁じ得ませんでした。
あの作品もあまり好きではない
ちなみにこの件について考えていたときにふと思いついたのは、有名なテレビドラマの「北の国から」。
名作ドラマですが、個人的には「我が儘な中年男に従って北海道に移住させられ苦しい生活を余儀なくされる子供達」が気の毒に見えて仕方がありませんでした。
それに比べると本作品の大人達の行動は感情的に共感しかねる部分があるものの、理性的にはある程度、理解はできますし、「北の国から」と違って?光が幸せだったのも確かだと思います。
スタッフ紹介
本作品のスタッフは脚色が原田裕文さん、演出が松本順さんと真銅健嗣さん。
冒頭に書いたように本ラジオドラマは原作の一部をクローズアップして作った作品です。
以前、別の記事で「じんのひろあき」さんの脚本(「北壁の死闘」など)に関連して書いたように、集中して聴いていないと聞き逃してしまうというラジオドラマの特性を考えると、ラジオドラマの脚本は詰め込みすぎないことがとても大切だと考えます。
原作の3巻までに集中(この時点ではここまでだった?)したうえで、そこまでの間の物語についても原作の登場人物、エピソードなどをかなり切り捨てているようです。
このような思い切った構成を取ったことによってこの作品は成功していると思います。
脚本の原田さんは青春アドベンチャーでは4作品程度しか担当していないのですが、上記で比較した「光」も原田さんの脚色でなかなか好感のもてる展開した。
演出も、ベテランの松本さんと多くの癖のある作品を担当している真銅さんで万全の体制。
その他、効果音や音楽もとても効果的です。
ギャラクシー賞
第41回ギャラクシー賞(※)の優秀賞受賞というのも納得です。
エンターテイメント性が高い青春アドベンチャーの番組がギャラクシー賞を受賞するのは異例で、他には第36回の「少年漂流伝」(優秀賞)、第34回の「イッセー尾形のたゆたう人々」(奨励賞)くらいでしょうか(ちゃんと調べてないので漏れがあるかも知れません)。
(※)放送批評懇談会からテレビ・ラジオに関連した番組・個人・団体に与えられる賞でwikipediaによれば「事実上、日本国内のテレビ番組作りの最高の栄誉」とのこと。
上村祐翔さん、当時9歳
出演は主役の光役は劇団ひまわり所属の上村祐翔さん。
放送当時は9歳でしたので、実際の光(6歳)より少しだけ年上でした。
ちなみに上村さんはこの作品の10年後の20歳の時に別の青春アドベンチャー作品である「僕たちの宇宙船」でも主演されています。
三村ゆうなさん、13歳
また、光の島でのただ一人のクラスメートになる小学二年生のヒロイン?大浜由美役の三村ゆうなさんも放送時点で13歳でした。
NHKらしくプロの女性声優を使うのではなく、役の実際の年齢に近い子役を使った配役です。
ちなみに三村さんは本作の約4年後に青春アドベンチャーの別作品「一瞬の風になれ」にも出演されており、こちらでは高校生(16歳)の役を演じています。
子供の成長は早いものです。
沖縄出身者で固めたキャスト
その他、光の両親を演じる新納敏正(にいろうとしまさ)さんと「きゃんひとみ」さん、光の伯父で島での親代わりの洋平を演じる藤木勇人さんなど主要キャストが沖縄出身者で固められています。
本気で沖縄言葉や島言葉で話されたら、我々ヤマトンチュ(大和人)には意味が通じないと思うので、手加減しながらの演技だとは思うのですが、さすがに本場の人が話すと雰囲気が出ます。
ちなみに光の両親及び伯父夫婦の4人の中で、伯母役の吉村実子さんだけが沖縄出身ではないのですが、違和感を感じさせないのはさすがベテラン女優といったところでしょう。
そして、本作の語りであり、かつ27歳になった光を演じるのは中島陽典さん。
この人、1960年生まれ?本当?
落ち着いた声ではありますが、十分20台の声でした。びっくり。
同じ原典から2つの方向性
なお、この作品、ノンフェクションである「子乞い 沖縄 孤島の歳月」が原案とされています。
同じ作品を原作としてつくられたテレビドラマが「瑠璃の島」(日本テレビ系列、2005年)です。
私は見ていないのですが、成海璃子さん、竹野内豊さん、緒方拳さんなどが出演していたドラマだったようです。
同じ原案から出発した両作品ですが、それぞれ違うアレンジがなされ、特に「光の島」はラジオドラマ化で再度アレンジがなされているため、ラジオドラマとテレビドラマはかなり雰囲気が違っているようです。
機会があればテレビドラマも見てみたいものです。
コメント
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自分の生活の維持のために子供を食い物にしてしまっている事が島の現実なのかもしれませんがちょっと悲しいですね。
そこで拒否感をもってしまうと綺麗な音楽や雰囲気の「沖縄は素晴らしい場所だ」という演出がかえって偽りな感じがして抵抗がありました。
原作後半が「田舎への美しい幻想」を壊し島の現実を語るお話なら、してやられたという感じです。
中島陽典さんの声の若さにびっくりです
でも滑舌がちょっと気になりました。
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この島だけではないと思います。コロナでデジタル化が進み、一極集中が少しずつ緩和されてきていますが、過疎地の苦境は計り知れないでしょう。
この物語の分岐点は光が帰省した時。光は母親を案じて島に帰らないで東京に留まろうとするが、光が島の踊りを踊ったことを聞かされてそれまで光を東京に留めようとしていた母親は手の平を返すように息子を手放してしまいます。この急展開にちょっと怪訝な気持ちになりました。ある意味ダンスの力ってすごいですね。
結局光は大人たちの事情や思惑に翻弄されたのでしょうか。いずれにせよ、島は光のその後の人生に大きな影響を与えたのではないかと思います。
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コンさま
コメントありがとうございます。
「光の島」を聞いたのがかなり前なので細かいストーリーがうろ覚えなのですが、展開に釈然としない思いが残ったのははっきりと覚えています。
子どもは大人の思い通りにしてはならない。
建前かもしれないけど建前を忘れると本音はどこまでも堕落しますよね。