少年漂流伝 作:松本雄吉(青春アドベンチャー)

格付:C
  • 作品 : 少年漂流伝
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : C
  • 分類 : SF(その他)
  • 初出 : 1998年5月11日~5月22日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 作  : 松本雄吉
  • 音楽 : 内橋和久
  • 演出 : 吉田努
  • 主演 : 田辺泰志

2199年のオオサカシティ。
荒廃したスラム街で生きる少年タケルは、ある日、モンゴル人の少年・テムジンの心の声を聞く。
中国マフィアに誘拐されたテムジンを助けることを決意したタケルと仲間たちは、タケルとテムジンとの間のテレパシーを頼りに彼の姿を探し始めるが…


ラジオドラマ番組としては異例の長寿を誇る青春アドベンチャーにおいても、他に類を見ない怪作が本作品「少年漂流伝」です。

大阪局制作だが…

本作品、演出の吉田努さんは「ふたり」や「南の島のティオ」など多くの青春アドベンチャー作品を担当した方で、その他のスタッフも基本的にはNHK大阪局の方のようですが、脚本や音楽、そして出演者が「劇団維新派」の方々で固められているという強烈な特徴があります。

劇団維新派に丸投げ?

具体的には、作(脚本)の松本雄吉さんと音楽の内橋和久さんが、劇団維新派で活躍されている方ですし、出演陣もそう。
西風の戦記」(夢の遊民社)や「怪人二十面相・伝」(プロジェクト・ナビ)のように、希にキャスト紹介に劇団名も入る作品もあるのですが、本作品は出演者のお名前より先に、まず劇団名がコールされており、個々の出演者よりも劇団名が前面に出る異例のキャスト紹介になっています(肝心の主演の田辺泰志さんが維新派の方なのかはよくわからないのですが)。

ヂャンヂャン☆オペラ

で、問題なのはこの劇団維新派。
調べてみると「公演ごとに劇団員が自ら建設した野外劇場で公演」、「台詞を単語に分解してリズムに乗せて語る“ヂャンヂャン☆オペラ”という形態で公演」など、とにかく独特な劇団のようです。
そして本作品「少年漂流伝」も、この「ヂャンヂャン☆オペラ」のスタイルをラジオドラマに取り入れるという実験的というか前衛的な作品になっているのです。

何とも形容しがたい

具体的には、一部には確かに普通の台詞も織り交ぜられるのですが、基本的には強いイメージを持つ言葉を言葉遊びように連ねて、これをチンドン屋(若い人はわからないかな?)風の音楽に乗せて出演者の方々が掛け合いながら語っていくというの基本スタイルです。
たまにある普通の台詞も韻文調のモノローグが多い。
いわゆるミュージカルともちょっと違います。
一言で言うと、「土俗的なチンドンラップ」といったところでしょうか。

実はもう1作

こんな作品、当然、青春アドベンチャーに他にはない、といいたいところですが、実は類似の要素を持つ作品が一つだけあります。
それは、本作品のわずか3ヶ月前に放送された「電気女護島~エレクトリック・レディランド」。
両作品は「近未来の大阪」、「退廃的な雰囲気」、「音楽重視」、「台詞は大阪弁」、「よくわからないストーリー」と多くの点で似ています。

聴く人を選び過ぎる

ただし、「電気女護島」もかなり振り切れた作品でしたが、それと比較してもこの「少年漂流伝」はもう、完全にイってしまっていると言って良い出来です。
この作品、第36回のギャラクシー賞優秀賞を受賞しているらしいのですが(青春アドベンチャーでギャラクシー賞を受賞しているのは本作品と「光の島」くらい)、正直、ストーリーはさっぱりわからないですし、全体を覆う異様な雰囲気も私には全くなじめませんでした。

むしろすごい

しかし、これをつくるために通常のラジオドラマを超える膨大な手間と工夫が詰め込まれているのはわかります。
私のような俗物には理解できないことの方が制作陣には名誉だと思います。
今回は制作陣に敬意を込めて、敢えて格付け“C”を進呈したいと思います。

1998年の青春アドベンチャー

それにしてもこの短い時期にこんな怪作品を連発するなんて、この時期の青春アドベンチャーはどうしちゃっていたんだろうと思います。
そして実は1998年はそれだけではなく、正当サスペンスドラマの傑作「着陸拒否」や、青春アドベンチャーが誇る超大作「封神演義」の第1作が制作された年でもあります。
ちなみにこの年初出の作品で、今まで本ブログで格付け“AAA”をつけている作品は、「着陸拒否」と「分身」と「封神演義」の3作品もあります。
また、格付け“C”をつけている作品も「路地裏のエイリアン」と「ぼくは勉強ができない」と本作品の3作品もあるという不思議な状況。
振り幅、大きすぎです。

似たタイトルの作品

なお、このブログで次に紹介するのは「少年探検隊」(1994年)です。
こっちも本作品と同様にタイトルから想像される内容と実際の内容が全く異なる作品。
初期の青春アドベンチャーは現在以上にバラエティーに富んだ番組でした。

これが普通ではない

なお、本作品は横浜市にある放送ライブラリー(公益財団法人放送番組センター)で聞くことが出来る数少ない青春アドベンチャー作品です。
他には、「光の島」と「アクア・ライフ」(第4話と第7話が欠)だけです。
放送ライブラリーでたまたまこの作品を聞く方がいらっしゃった場合、青春アドベンチャーはこのような作品ばかりなのではないかと誤解されてしまいそうで、ちょっと心配です。


コメント

  1. コン より:

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    タイトルから想像される内容と実際の内容が全く異なる作品でしたね。「漂流」という言葉からジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』のような物語かなと思いましたが、完全に期待を裏切る作品でした。ただの仲間を助けるために奔走する物語でした。

    とにかく訳のわからないうるさい掛け声には嫌気が差しました。よく言えば前衛的な作品でしたが、僕もHirokazuさんと同じように全くなじむことができませんでした。

  2. Hirokazu より:

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    私がこの作品を好きかと聞かれれば好きとは言えません。
    ただ、嫌いという訳ではなく「わからない」というのが正直なところです。
    少なくとも駄作だとは思っていません。
    万人受けはしなさそうですが、一方、Twitterで今でもこの作品について言及する方を見かけます。
    そもそも挑戦しないと2022年の「あたふたオペラ「からめん」」のようなとんがった作品は生まれないでしょう。
    そういう意味で格付けCを付けた作品を作られた方は格付けBの制作者よりも実は尊敬していたりします。

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