なくしたものたちの国 原作:角田光代(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : なくしたものたちの国
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B+
  • 分類 : 幻想(日本/ライト)
  • 初出 : 2011年12月19日~12月23日
  • 回数 : 全5回(各回15分)
  • 原作 : 角田光代
  • 脚色 : 田中摂
  • 音楽 : 中野カリン
  • 演出 : 木村明広
  • 主演 : 高橋理恵子

成子は8歳まで、身の回りの様々なモノ -生き物だけでなく生き物でないものも- と話すことができた。
この物語は、そんな成子が人生の折々にであう不思議な話。
人は成長していく過程で、様々なものをなくしていく。
でもそれは本当はなくしたのではなく、なくしたものたちの国に移動しただけなのだ…



直木賞作家でベストセラー作家の角田光代さんの小説を原作とするラジオドラマです。

なぜか代表作は少ない

青春アドベンチャーでは結構、旬な作家さんを取り上げることも多いのですが、その作家さんの超代表作を取り上げることはあまりありません。
例えば、道尾秀介さんは「」(2013年)、三浦しをんさんは「神去なあなあ日常」(2010年)、篠田節子さんは「ロズウェルなんか知らない」(2008年)、石田衣良さんは「エンジェル」(2000年)、東野圭吾さんは「分身」と「虹を操る少年」(1998年)。
微妙に「ずらした」作品選択です。
しかも、宮部みゆきさんや伊坂幸太郎さんのように何作品も青春アドベンチャー化されるベストセラー作家さん(こちらの記事をご参照下さい)もいることはいるのですが、基本的に1作しか取り上げられないことが多いのです。
このメジャーとマイナーの境目くらいの原作選択が、青春アドベンチャーらしいところです。

イラストがモチーフ

さて、本作品の紹介に移ります。
本作品は小説といっても、松尾たいこさんのイラストをモチーフに描かれたというちょっと変わった連作短編小説です。
そのため、例えば「八日目の蝉」(檀れいさん・北乃きいさんでテレビドラマ化、井上真央さん・永作博美さんで映画化)などの角田さんの代表作とは違い、絵本や童話の臭いのする、とてもファンタジックな作品です。

予想外の展開

第1話のスタートは正にファンタジックなもので、「私は8歳までいろんなものと話すことができた。動物や草花、それから家の玄関のドアノブまで。世界はとっても賑やかだった。」というモノローグから始まります。
そして、純粋な少女だけが感じることができる不思議な世界の話が開始されるのですが、実は動物やモノと話すことが物語の中心であるのは第1話のみ。
第2話では、既に成子はすでに高校生になっており、この「動物やモノと話すことが出来る」というシチュエーションは第1話だけですっぱりと捨てられ、新しいファンタジーの話になります。
そして、第3話に至っては不倫の話、第4話は子供の話(しかも***な子供の話)です。
当初予測したのとは違う展開で少し驚きました。

実はちょっと苦手なジャンル

ところで、私はそもそも「幻想系」の作品が苦手です。
当初紹介した100作品を分析したこちらの記事でも、自分が付けた評価が、平均で最も低かったのは「幻想系」の作品群でした。
不思議なことに出会うのは子供の特権ですので、幻想系でも主人公が子供である「ミヨリの森」などは「となりのトトロ」などと同じようにあまり違和感がないのですが、「大人の女性がファンタスティックな出来事にあって癒される」的な作品は特に苦手です。
以前、紹介した「幻想郵便局」も主演の朝倉あきさんは好印象なものの、作品自体はあまり馴染めませんでした。
そのため、本作品は「自分に合わない作品かなあ」と思いながら聴いていたのですが…

作家・角田光代の力を感じる

いやー、確かに聴かせますね、角田光代さん。
正直言って、成子が大人になるに従い、少しずつ違和感は生じました。
しかし、上に書いたとおり事前の予想を超える展開で最後まで楽しめたのも事実です。
確かに長年生きていると、大切だったはずのものをいつの間にかなくしてしまうものです。
そして、何を亡くしてしまったのか自体も忘れてしまい、何か胸が痛くなるような思いだけが残る。
そんなことを思い出させてくれる作品でした。

主演3人体制

さて、本作品において主人公の成子役は、彼女の年齢に応じて、松浦愛弓(あゆ)さん、宮本侑芽(ゆめ)さん、高橋理恵子さんの三方が演じていらっしゃいます。
各話のサブタイトルと各話で成子を演じる方は以下のとおりです。

  1. 晴れた日のデートと、ゆきちゃんのこと(演:松浦愛弓さん(宮本侑芽さん))
  2. キスとミケ、それから海のこと(演:宮本侑芽さん)
  3. なくした恋と、歩道橋のこと(演:高橋理恵子さん)
  4. さようならと、こんにちはのこと(演:高橋理恵子さん)
  5. なくしたものたちのこと(演:高橋理恵子さん)

田中摂さん初脚色

また、本作品を脚色している田中摂さんは、2009年、NHK名古屋放送局の脚本コンクールで佳作を受賞した方で、FMシアター(2011年「メロディ・フェア」)でも脚本を書いていらっしゃるようです。
青春アドベンチャーでの担当作はこの「なくしたものたちの国」1作だけのようです(注)。

(注)2016/5/5追記
2016年3月に田中摂さんの2作目の脚色作「クラバート」が放送されました。

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