小袖日記 原作:柴田よしき(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : 小袖日記
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A
  • 分類 : タイムトラベル
  • 初出 : 2011年4月4日~4月15日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 柴田よしき
  • 脚色 : 堀田りえこ
  • 演出 : 木村明広
  • 主演 : 木内晶子

不倫相手に別れを告げられた29歳の“あたし”は、公園でヤケになって騒いでいるときに雷に打たれてしまった。
そして、ふと気がつくと、見知らぬ時代、見知らぬ場所にいることを知る。
彼女は平安時代にタイムスリップ、それも「小袖」という女官の体の中に精神だけタイムスリップしてしまったのだ。
小袖は中宮の家庭教師をしている才媛である香子(こうし)という女性に仕えているという。
仕方なく小袖として生活を始めた“あたし”だったが、実は香子は後生に「紫式部」として知られることになる女性だった。
こうして、小袖と香子はコンビを組んで、後に「源氏物語」としてまとめられる様々な物語の元ネタとなる事件に取り組んでいくことになるのだった。



柴田よしきさんの小説「小袖日記」を原作とするラジオドラマです。
柴田さん原作の作品は、1998年の「レッドレイン」以来、10年以上ぶりの登場になります。

2011年はタイムスリップ流行り

さて、本作品は、冒頭の紹介文のとおりタイムトラベルを題材とする作品です。
青春アドベンチャーでは、実は多くのタイムトラベル作品が取り上げられています。
本作品は放送された2011年は、特にタイムトラベル作品が多かった年で、本作品以外にも鯨統一郎さん原案の「タイムスリップ大坂の陣」、三木卓さん原作の「ほろびた国の旅」、伊佐治弥生さん作の「珊瑚の島の夢」と3作品も放送されました。

その他にも様々な作品

その他、過去には宮部みゆきさんの「蒲生邸事件」や、ハインラインの「夏への扉」などの有名なタイムトラベル作品も青春アドベンチャー化されています。
ちなみにタイムトラベル系と言っても、本人の意思で時間旅行をするのか否か、本人が実体ごと時間移動するのか精神だけ過去に行くのか、頻繁に戻ってくることができるのかできないのかなど、色々なパターンがあります。
本作品は、完全に本人の意思と関係なく時間移動し、精神は過去に生きっぱなしになるものの体は現地人の体を利用、というパターンです。

実はミステリーでもある

ところで、本作品がタイムトラベル系の作品であるのは確かなのですが、小袖と香子が扱う、夕顔、末摘花、六条御息所、明石の君、紫の上に関するそれぞれの話はちょっとした謎とその解明がセットになった物語です。
サブカテゴリーを付けるならば推理系とすべきミステリー的な作品でもあるわけです。
ちなみに、香子がホームズ役、小袖がワトソン役です。
このふたりが事件の解決に乗り出すのですが、個々の回は殺人事件などシリアスな話もあります。

あくまでライト

しかし、主人公である「小袖」の中身がお気楽な現代人なので、湿っぽさは適度に抑えられた作品になっています。
なにせこの「小袖」(として振る舞っている“あたし”)、最初に不倫の破綻というシリアスな場面から始まるものの、基本的に平和ぼけのアラサー女性。
「小袖」の体の中に入った際に、小袖の平安時代に関する知識や言葉を受け継いでいるという都合の良い設定になっていることもあり、タイムスリップというとんでもない目に遭っていながら、悠々と平安時代に適応して、しかもその生活を楽しんでいる様子です。
彼女の独白(ナレーション)も、「香で臭い」だの「おかめばっかりだが美人のおかめの区別が付くようになってきた」だの、常に適当で前向きです。
こののんきなワトソンと才媛の香子が実によいコンビで、気軽に聴ける楽しい作品になっています。
「源氏物語のこの巻は実は…」という構成もなかなか楽しめました。

とはいえタイムトラベラーの苦悩も

さて、物語は第9話で急展開を迎えます。
タイムトラベルものに限らず、異世界や秘境を冒険する話は、「帰ってきてから」のエピローグが読後感に大きな影響を与えると思います。
蒲生邸事件」や「レディ・パイレーツ」、「北壁の死闘」などはとてもエピローグが美しい作品です。
本作品はその点で少しあっさりしすぎているようにも感じましたが、一見、のほほんとしてはいても、心の底では不安を抱えていた“あたし”にどんな結末が待っているのか、その辺は、聴いてのお楽しみとしたと思います。

木内晶子さんと純名里沙さんの名コンビ

主役の小袖役は女優の木内晶子(きのうち・あきこ)さん。
小袖こと“あたし”を軽やかに演じていらっしゃっており、楽しく聴けます。
また、もう一人の主役である香子こと紫式部を演じているのは宝塚出身の女優の純名里沙(じゅんな・りさ)さん。
1994年のNHK朝の連続テレビ小説「ぴあの」の主人公を演じられた方です。
とても1000年前の女性とは思えないほど理知的で、かつ情にもあふれた香子を好演していらっしゃいます。
朝ドラ主演女優の青春アドベンチャー出演については、こちらの記事をご参照ください。

堀田りえこさんの脚本も好印象

また、脚色の堀田りえこさんは青春アドベンチャーでは本作品と「スーツケース・キッド」の2作しか担当されていませんが、両作品ともなかなかテンポの良い作品になっており、とても好印象です。


■タイムトラベルもの一覧
青春アドベンチャーの一大勢力「タイムトラベル」ものの作品を整理した記事はこちらです。
是非ご覧ください。



コメント

  1. コン より:

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    楽しく聴けました。どこかで聴いた馴染んだ声かと思ったら「NISSAN あ、安部礼司〜BEYOND THE AVERAGE」の姫川皐月役で有名な平田裕香さんが出演されていた作品だったですね。Hirokazuさんは「NISSAN あ、安部礼司〜BEYOND THE AVERAGE」というラジオドラマをご存知ですか?
    安部礼司でもそうですが、タイムスリップってラジオドラマの「定番メニュー」みたいなものですよね。あの時代にも同性愛が存在したって新鮮だったし、今の時代もそうかもしれませんが、女性の立場が圧倒的に弱い時代に人生を男に左右されて時には浮気されて苦しまれる時代かと思うとちょっと切なくなりました。女性の立場が昔よりよくなったとはいえ、日本はまだまだですよね。
    ちなみに私が聴いたのだと、小袖が雷に打たれた音がした後終わってしまったんですが、続きはあったのですか?

  2. Hirokazu より:

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    コンさま

    コメントありがとうございます。
    「NISSAN あ、安部礼司〜BEYOND THE AVERAGE」はごく一部を聞いたことがあるくらいなのですが、脚本の北阪昌人さんがラジオドラマに手慣れた方であることもあり、よくできた作品だと思います。

    同性愛はむしろ昔の方が普通だったと思います。
    戦国武将でみれば織田信長×森蘭丸を初めてとしていくらでも例がありますし。
    儒教道徳が浸透した江戸時代以降に廃れた(とはいえ歌舞伎役者などにそのにおいは濃厚に残りますが)ものと認識しています。
    男女の力関係も同様で、明治以降、天皇を家父長とする国家体制を作る中で一層、女性蔑視が進んだのだと思います。
    とはいえ、江戸時代以前にとくに女性が活躍していたわけではないようですが。

    終わり方についてはちょっと確認してみますね。

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