イカロスの誕生日 原作:小川一水(青春アドベンチャー)

格付:AA
  • 作品 : イカロスの誕生日
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AA
  • 分類 : SF(日本)
  • 初出 : 2000年10月30日~11月10日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 小川一水
  • 脚色 : 井出真理
  • 演出 : 保科義久
  • 主演 : 桑島法子

イカロスとはこの世界において15万人に一人生まれる翼の生えた人間。
イカロスは翼と同時に、束縛を嫌う独立不羈の心を持って生まれるため、普通の人間社会では生きにくい存在でもあった。
高校卒業を控えていた主人公・自在はるかもイカロスのひとり。
しかし、管理された社会を理想としイカロスを排除することを目指す一派が蠢動し、はるかは大学進学すら拒否されてしまう。
そしてその後もイカロスへの締め付けはエスカレートして行く。
イカロス達の運命はどうなるか、そしてイカロスの存在の意味とは何なのか…



小川一水さんとは

原作者の小川一水さんは星雲賞3度受賞の本格的なSFの書き手ですが、もともとはライトノベル出身の作家さんで、本作も科学的な考証を重視しないライトノベル寄りの作品です。

SF要素が薄くなったのは残念

それに加えてラジオドラマでは、イカロスの飛行の技術的側面など数少ないSF的要素が省略されているため、一段とライトな雰囲気になっています(ただし舞台設定からあくまでジャンルはSF(日本)としました。ジャンル分けはこちらをご参照下さい。)。
そのため本作の終盤の、ある重要なSF的要素(ネタバレになるので書きませんが)が原作以上に浮いた感じとなり、エンディングからエピローグにかけてもやや冗長な印象が残りました。
その部分で損をしている感はありますが、私が小川一水さんのファンであることを差し引いても、単純な冒険もの・アクションものとしてテンポの良いラジオドラマになっていると思います。

独立不羈の精神

また、束縛を嫌うイカロスの行動を通じて、全体主義的な考えに対するアンチテーゼを示すような内容は、初期の田中芳樹さんの作品に通じる部分があり、そのような作品が好きな方にもお勧めです。
ただし、本作におけるイカロスの行動には「単なる我が儘じゃね?」と感じられる部分があったり、イカロスを迫害する側が極端に戯画的な描かれ方をされていたりして、素直にイカロスに共感を覚えられない部分もありました。
なお、小川一水さんの作品には他にも魅力的な作品や「青春アドベンチャー向きだなー」と感じる作品があります。
これについては別記事にて書いてみました。

アニメ声優の出演多し

主演は桑島法子さん。
私は詳しくないのですがアニメを中心に活躍されている声優さんのようです。
ネットを見ていると青春アドベンチャーの出演者にどのようなジャンルの人が望ましいかは色々議論があります。
これに関する私の雑感は別の記事で書きたいと思いますが、本作の桑島さんに関してはアニメ声優ならではのややオーバーな表現がむしろ作品に良くマッチしていると感じました。
ちなみに、桑島さんは現在放送中の「二分間の冒険」にも出演されていますが、こちらはかなり抑えた演技です(その後「タイムライダーズ 紀元前6500万年からの逆襲」にもご出演)。

ガンダム色

また、ナレーションを担当するのは、アニメ・機動戦士ガンダムの主人公のアムロ・レイ役やアニメ・巨人の星の星飛雄馬役で有名な古谷徹さん(機動戦士ガンダムの声優の青春アドベンチャーへの出演はこちらの記事参照)。
古谷さんは「カーグラフィックTV」のナレーションを長い間務めており、ナレーションも手慣れたものです。
また同じガンダムでも、「機動戦士ガンダムMS08小隊」で主役シロー・アマダを演じた檜山修之さんも出演されています。
その他、宮川洋一さん、堀勝之祐さん、安原義人といった洋画系の声優さん(「成層圏ファイター」・「最後の惑星」などアドベンチャーロード時代からのお馴染みの方々でもあります)が脇を固めており、安心して聞けるのも魅力だと思います。

こちらもお薦め

なお、2018年には同じ小川一水さん原作の「時砂の王」が青春アドベンチャーでオーディオドラマ化されました。
こちらの記事もご覧ください。


【保科義久さん演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
名作、迷作、様々取りそろっています。
こちらを是非、ご覧ください。


【30周年記念全作品アンケート】
2022年に当ブログが独自に実施した、青春アドベンチャー30周年記念・全466作品アンケートにおいて、本作品が11票を獲得して9位タイとなりました。
リスナーの感想等の詳細はこちらをご覧ください。



コメント

  1. コン より:

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    桑島さんの歌声と大分違ったのでその違いを楽しみながら聞きました。
    ただ、イカロスの肩を持つ社長が一方では敵と手を組んでいたとは意外でした。しかし、敵との話がうまくいかないとすぐ裏切る。社長という人は信用できない人だと思いました。

  2. 鬼灯 より:

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    イカロスが我侭に感じられるのは、彼女達の「自由にさせろ」という主張が徹底して自分と仲間の欲求を満たすだけ(飛びたいというのは欲求であって、飛ばなくたって別に困ったりはしない)のもので、それ以外の人達や社会に与える影響あるいは迷惑を全く視野に入れていないからかも知れませんね。
    主人公が人類全体に呼びかけた言葉も結局は「私達の居る場所においで」であり、自分達が現行の社会に歩み寄るという姿勢がゼロでしたし。
    というか、新しい人類と比較するならその対象は古い人類、つまり普通の人々であるはずなのに、妙なデストピア思想の持ち主を持ってきたせいでテーマが消化不良を起こした上に落とし所が「イカロスは超スペックです」では物語として稚拙に過ぎたかも知れません。
    「僕達の宇宙船」なんかもそうですけど、青春アドベンチャーのシナリオはテーマを掲げる所までは良いのに風呂敷を畳む段階で整合性を投げ出して観念的な主張に走ってしまう作品が多いような気がします。

  3. Hirokazu より:

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    鬼灯さま

    コメントありがとうございます。
    SFって割と哲学的・観念的な結論に迷いこむ作品が多いのですが、この作品の場合ラジオドラマとしての娯楽性・わかりやすさを重視した結果、一層説明不足になってしまった感じ。
    原作からして娯楽性重視だった「時砂の王」の方がラジオドラマとしての出来は良いと思います。
    なお、「僕たちの宇宙船」は劇作家の方のオリジナル脚本なので、作家性が前面に出てしまうのは、ある意味仕方がないのかも。

  4. Hirokazu より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    コンさま

    コメントありがとうございます。
    桑島さんは青春アドベンチャーでは継続的に起用されている数少ない専業声優さんですよね。
    最近では「タイムライダーズ 紀元前6500万年からの逆襲」にも出演されていました。

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