- 作品 : 深夜プラス1
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : B+
- 分類 : アクション(海外)
- 初出 : 2023年7月3日~7月14日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : ギャビン・ライアル
- 脚色 : 池谷雅生
- 演出 : 吉田浩樹
- 主演 : 古河耕史
第二次大戦時の戦友メルランが持ちかけてきた“運び”の仕事。
ノルマンディーからリヒテンシュタインまで。期限は72時間。
依頼人であり輸送対象でもあるのはカスパル社の社長とその秘書だという。
レジスタンスの英雄と呼ばれた元イギリスの情報部員も今はしがない民間エージェント。
今の俺には似合いの仕事だ。
ただ、この仕事、本当に受けて大丈夫なのか。
メルランや依頼人、そして相棒となった元シークレットサービスのハーヴィーは信頼できるのか。
いや、一番信用できないのは自分自身だ。
大戦終結から16年。
あの銃声、あの死、あの悲惨、あの憎悪。
俺は今でもあの頃に囚われているのだから。
本作品「深夜プラス1」はイギリスの冒険小説家ギャビン・ライアル原作の同名の小説を原作とするオーディオドラマです。
温故知新?
ギャビン・ライアルは1960年代から1990年代に活躍した作家で、青春アドベンチャー系列の番組では「もっとも危険なゲーム」(1984年、FMアドベンチャー)、「裏切りの国」(1985年、アドベンチャーロード)が取りあげられていますが、いずれも1980年代。
この「深夜プラス1」も1965年に発表された作品(邦訳は1976年)ですので2023年にオーディオドラマ化されるのはやはり異例でしょう。
演出したのは2020年に冒険小説の古典「鷲は舞い降りた」のオーディオドラマ化に成功した吉田浩樹さん。
2023年にはやはり相当古い「シャドー81」もオーディオドラマ化しており、シリーズ化している観もあります。
1960年代とは
さて、本作品の舞台となる時代は第二次世界大戦後16年ですので1960年代初頭。
原作が書かれたのとほぼ同時代です。
もちろん冷戦真っただ中で、世界大戦こそなかったものの、世界は東西陣営に引き裂かれ、加えて中東の紛争やアイルランド独立運動など紛争の種には事欠かない時代でした。
世界全体が薄い雲のように緊張感に包まれており、フィクションの世界でもスパイやテロリストといった題材が多く取り上げられていました。
例えばイギリス諜報部のスパイ、ジェームズ・ボンドを主人公にした大人気映画007シリーズは1962年(007は殺しの番号)から1989年(消されたライセンス)までほぼ2年に1作以上のペースで公開されています。
本作品の原作小説もそんな時代の空気を如実に反映した冒険小説の傑作とされているのですが…
微妙な違和感
「シャドー81」のように中途半端なコメディ要素というわかり安い違和感の原因はないのですが、例えばカーアクションが目立つ点で本作と類似性を有する(途中で古城に立ち寄るのまで似ている)1987年放送の「A-10奪還チーム出動せよ」と比較すると、聴いていての感触がなにか違う。
展開が速いのは良いのだけど
敢えて理由を探してみると、まず最初から最後まで展開が速いのは良いのですが割と均質にバタバタと展開していく。
前半で主人公の過去と導入を丁寧に描いて、後半スピードアップした「A-10~」とはずいぶん違います。
また、ケインのルート選択の納得性があまり感じられない。
「A-10~」のように状況に流される展開なら違和感はないのでしょうが、本作ではケインの判断で色々と寄り道をするのですが展開を急ぎ過ぎたのかイマイチ判断の理由がわからず、リナダンとか行く必要あったのかな?と感じてしまいました。
洋画風の音響効果が良かった
また、音響や効果が今風なのは良いのですがテーマや主人公たちの考え方はあくまで1960年代なのであまりフィットしていなかった気がする。
なぜか第9回のBGMが少し昔の洋画風に感じたのですが全体がアレだったほうが私は好みでした。
やっぱり昔の作品は、昔風の触れれば切れるような緊張感のあるコテコテの演出や演技の方があうと思います。
時代は流れた
後はやはり演技ですかね。
全般的に切実さが足りないというか、大沢在昌さん的にいうと惻隠の情が足りないというか。
今思えば1980年代の作品に出演されていた役者さんは戦中や終戦直後、そして冷戦の雰囲気をよく知っていたわけで、戦争に関する姿勢が違った気がします。
まあこれを言ってしまうとこれからこの種の作品は作れないということになってしまうのですが、名優ツダカンさんですらフィットしないとすると今後のスパイものは厳しいなあ。
まあ、「A-10~」で悪役を演じたのは大塚周夫さん、飯塚昭三さん、八木光生さんなので比較対象が悪すぎる気もします。
いつもの吉田組
さて、本作品で主役のルイス・ケインを演じるのは俳優の古河耕史さん。
「柳生非情剣」での柳生友矩役がある意味、強烈過ぎた(家光と衆道に関係にある役でした)のですが、本作では陰はあるものの典型的な主人公キャラです。
また相棒のハーヴィー・ラヴェル(冒険小説史上に残る人気キャラとか)を演じるのはツダカンこと、津田寛治さん。
こちらも「北海タイムス物語」の権藤役があまりに良かったのでこれを超えるのはなかなか難しいですね。
その他、山崎たくみさん、朝倉伸二さん、長森雅人さん、そしてナレーションの銀河万丈さんなど、吉田浩樹さん演出作品に良く出演される皆さんが出演されており雰囲気がよく似ています。
山崎たくみさんはやっぱりこういう(←最終回をお楽しみに)役が面白いですよね。
サブタイトル一覧
なお、各回のサブタイトルは以下のとおりです。
色々書きましたが後半はやはり冒険ものの傑作を原作とするだけあってなかなかワクワクする展開でした。
そもそもあくまで個人の感想なのでお気を悪くされた方がいらっしゃいましたらご容赦くださいね。
それにしても、こういうサブタイトルを設定するのは吉田浩樹さん演出、池谷雅生さん脚色作品の定番ですね。
- ロンドンから来た男
- 死の商人マガンハルト
- 墓標の村リナダン
- ヘレンの叫び
- 戦争の犬たち
- ジネット・ド・マリス
- スイスへ
- フェイ将軍
- 要塞
- リヒテンシュタイン
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