夢胡蝶~羽州ぼろ鳶組 原作:今村翔吾(青春アドベンチャー)

格付:AA
  • 作品 : 夢胡蝶~羽州ぼろ鳶組
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AA+
  • 分類 : 歴史時代(日本)
  • 初出 : 2022年10月17日~10月28日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 今村翔吾
  • 脚色 : 丸尾聡
  • 演出 : 真銅健嗣
  • 主演 : 筧利夫

目を覚ますと隣に女が寝ていた。
あぁ、なんでこうなっちまうのかねえ。姐さんにまた怒られちまう。
組のみなは俺のことを女好きというがそんなことはねえ。
女の頼みを断れねえだけだ。
…半鐘の音が聞こえる。場所は吉原か。
火事なら駆けつけるしかねえ、俺は火消だからな。

私にとってここは苦界。
父や母に会いたかった…
上野の桜が見たかった…
評判の小諸屋さんのお蕎麦が食べたかった…
世の女たちが囃し立てる火消の活躍が見たかった…
そして、みんなと同じような恋がしたかった…
見た目は煌びやかでも吉原では何一つ願いはかなわない。
でも、炎に包まれる妓楼に突然現れたその男はこういった。
「その願い、全部俺が叶える。だから生きろ。」


今年2022年秋も青春アドベンチャーに「ぼろ鳶組」が返ってきました。
2018年に最初の作品「火喰鳥 羽州ぼろ鳶組」が放送されてから4年。
第5弾の名前は「夢胡蝶~羽州ぼろ鳶組」です。

直木賞作家・今村翔吾さん代表作

2021年当ブログアンケートで1位を取った前作「菩薩花 羽州ぼろ鳶組」で江戸の闇に踏み込んだ松永源吾率いる新庄藩火消組(通称「ぼろ鳶組」)ですが、本作からしばらくは物語の縦糸の進展はやや控えめになり、横糸ともいうべきぼろ鳶組の銘銘伝が多く語られることになります。
第1弾がぼろ鳶組の纏師(まといし)彦弥を準主人公とした、この「夢胡蝶」です。
来年以降もこのシリーズが続いているのであれば、鳥越新之助が大活躍する「玉麒麟」(ぎょくきりん)や、加持星十郎をフィーチャーした「双風神」(ふたつふうじん)も控えていますので、おふたりのファンの方は是非、続編のリクエストをNHKにしてくださいね(注:2023年6月に「玉麒麟」が放送されました)。

彦弥主役回!

さて、本作品の中心となる彦弥といえば、ぼろ鳶組イチのイケメン。
纏師という特に火事場で目立つ役回りを担当していることもあり、江戸の女性からの人気は絶大。
色男としても名をはせているのですが、とびきりの女性を厳選して侍らせるタイプではなく、タイプを選ばず手当たり次第というオリビエ・ポプラン(銀河英雄伝説)あるいは諸星あたる(うる星やつら)系。
幼馴染との恋に破れ、源吾の男気に惚れて新庄藩火消組に加入した経緯は「火喰鳥」をお聞きいただきたいのですが、彼の心の底に何があるのかは本作品をお聞きいただく楽しみとしましょう。

ミステリー風味

それにしても彦弥はいつからこれほど火事を憎むようになっていたのか。
ぼろ鳶組加入時点ではそれほど火消としてのプロ意識はなかったはずですが、本作品では自ら率先して吉原の連続放火事件に首を突っ込んでいきます。
本作品の特に前半は今までの作品の中でも特にミステリー色が強く地味な探索と推理が続く内容です。
彦弥は前半のシーンでも尋問役としてなかなかの手腕を見せ、中盤以降、アクションシーンでも大活躍。
作中ではとかくオンナ好きを揶揄されがちな彦弥ですが、本作品は実は火事と女性に対して真摯に向き合っている彦弥の爽やかさこそが印象に残ります。

キャストはもちろん継続

さて、本作品の主役、松永源吾を演じるのは今までの4作品と同様に筧利夫さん。
青春アドベンチャーとの縁は古く、30年近く前の1994年に「紅はこべ」で主演されています。
そして何より本作品の良いことはキャストが変わらないこと。
個性の強いキャラクターたちにピタリと合った配役が本シリーズの売りのひとつだと思いますので声が変わってしまうと違和感は半端ではないと思います。
特筆すべきは久しぶりに登場する家老・北条六右衛門もちゃんと廣田行生さんが続投されていること。この辺、嬉しいですね。

新キャラも続々

さらに今回、番付火消としては以下の3名が初登場したのですが、番付火消全体の中でも有数に出自の怪しい日名塚要人(ひなづか・かなめ)と、短編ですが主役の話が用意されている鮎川転(あゆかわ・うたた)は(シリーズが続けば)今後も再登場が見込めます。
彼らのキャストも是非とも継続して頂きたいものです(火消番付はいつもどおり安永二年版です)。

  • 東の前頭十四枚目「小唄(こうた)」矢吉(吉原火消):手塚祐介さん
  • 西の前頭八枚目「唐笠童子(からかさどうじ)」日名塚要人(麹町定火消):シライケイタさん
  • 西の前頭九枚目「天蜂(てんほう)」鮎川転(本城藩):松田洋治さん

待ってました!津田英佑さん

もちろん本作の真の主役ともいうべき彦弥は引き続き津田英佑さんが演じています。
津田さんは2000年のミュージカル「レ・ミゼラブル」でマリウス役を演じて注目を集めた方で、アニメ・ゲームなどの声優としても活躍されています。
本作のホームページでは出演者の1行目に書かれていないのがちょっと気の毒(筧利夫さん、山田キヌヲさん、山口馬木也さん、大沢健さんの次)だと思ったのですが、放送ではちゃんと前の方(大体、筧利夫さんの次)でコールされています。
また、とかく男性陣の熱演がクローズアップされがち(深雪役の山田キヌヲさん除く)な本シリーズですが、本作品は2人の花魁、花菊と時里を演じた楊原京子さんと斉藤沙紀さんの熱演にも注目。
特に時里を演じた斉藤沙紀さんは役柄的に再登場の機会は少なそうですが本作品でやり切っている感を受けました。

濃厚さという点では…

また、スタッフも脚色:丸尾聡さん、演出:真銅健嗣さんなどいつもどおり。
本作品は舞台が吉原と特殊なこともあり用語の解説が非常に多く、シナリオが滞りがちなのは少し残念。
シナリオという面では源吾が東の大関とされていたり、終盤いつの間にか田沼意次の指示があったことになったりと若干腑に落ちない点があるのは残念なところ(脚本化の際にやむを得ず省略したのでしょうか)。
そもそも横糸の充実に入っている局面ですのでシリーズ全体でのストーリー進捗という点で、スピード感がやや劣るのはやむを得ない所ではあります。
その点では「火喰鳥」の濃厚さがむしろ異常だったのだと思います。
本作品の魅力はとにかく彦弥のカッコよさ。
まずはそれを堪能するのが吉だと思います。


(補足)
途中からシリーズをお聞きになる皆様に向けて、ぼろ鳶組内部の人間関係をお互いの呼び方という切り口でこちらの記事に整理しました。
作品聴取にあたっての予習・復習にご利用ください。


(補足2)
当ブログ主催の2022年青春アドベンチャー・人気アンケートで、当作品が第3位の得票を得ました。
詳しくは別記事をご参照ください。


■ぼろ鳶組シリーズ一覧
松永源吾とぼろ鳶組は今日も火事と戦う、ただ江戸の街を守り、人々の命を救うために。

  1. 火喰鳥 羽州ぼろ鳶組
  2. 夜哭烏 羽州ぼろ鳶組
  3. 鬼煙管 羽州ぼろ鳶組
  4. 菩薩花 羽州ぼろ鳶組
  5. 夢胡蝶~羽州ぼろ鳶組(本作品)
  6. 玉麒麟 羽州ぼろ鳶組
  7. 襲大鳳 羽州ぼろ鳶組
  8. お互いの呼び方で解説する新庄藩火消組
  9. 通称・異称で紹介する江戸の火消たち
  10. オーディオドラマ化から漏れた作品を補完する

■約260年に及ぶ江戸時代。
当ブログで紹介した江戸時代を舞台にした作品が、細かく見るとどの時代設定を背景としているのか?
この作品とこの作品はどちらが先?
実は同時期を描いている意外な作品とは?
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