芥川賞受賞作家つながり

ゆるゆるつながり

【特集:青アド・ポーカー15】芥川賞受賞作家つながり

このコーナーは、NHK-FMのラジオドラマ番組「青春アドベンチャー」(系列番組を含む)で放送されたラジオドラマ間における緩やかなつながりを見つけて楽しもうという趣旨のコーナーです。
今回は、原作として取り上げられた芥川賞受賞作家を紹介します。
先日、記事をアップした「霧隠れ雲隠れ」の三田誠広さんで、3人が揃いましたので、ポーカー風にいうとスリーカード成立となります(後日、松村栄子さん、津村記久子さん、村田喜代子さん、高橋揆一郎さん、畑山博さん、嵯峨島昭さんを追加)。

純文学の賞なので

ところで芥川賞(正式には「芥川龍之介賞」)は、先日、第158回において「火花」でお笑い芸人の又吉直樹(ピースの又吉)さんが受賞したことで脚光を浴びました。
しかし、一般的には「純文学の新人賞」という性格上、「大衆文学の中堅・ベテラン作家向け」の直木賞と比較して、受賞者の知名度は高くないことが通常です。

ごくわずかですが

エンターテイメント作品枠である青春アドベンチャーの原作という側面で見ても、直木賞の受賞作家は枚挙に暇がないほど取り上げられているのですが、芥川賞の受賞作家を取り上げた例はごくわずかです。
その貴重な9名の方を紹介します。

池澤夏樹さん「氷山の南」・「南の島のティオ」

1988年に、FMシアターでラジオドラマ化もされた「スティル・ライフ」で芥川賞を受賞された池澤さんは、2011年まで芥川賞の審査委員も勤められていました。
氷山の南」はビルディングスロマンという点で、「南の島のティオ」はファンタジー要素が強い点で青春アドベンチャー向きの作品でした。
なお、実娘の池澤春菜さんは「これは王国のかぎ」に主演されている声優さんであることは、こちらに書いたとおりです。

井上靖さん「おろしや國酔夢譚」

「天平の甍」、「敦煌」などで歴史小説のイメージも強い井上靖さんですが、芥川賞を受賞してしばらくは恋愛小説、社会小説が中心の書き手でした。
青春アドベンチャーの全身番組であるアドベンチャーロードで採用されたのは歴史小説家としての代表作の一つである「おろしや國酔夢譚」。
演出の川口泰典さんの「かっちりしたものをやってみよう」という意図のもとに選ばれた作品で、主演は北大路欣也さんでした。

大道珠貴さん「無意味な涙」・「溺れる犬」ほか

「無意味な涙」は1999年に放送された「悪戯の楽園」の中の1編、「溺れる犬」は2001年に放送された「マジック・タイム」の中の1編です。
他にも「記憶の城」の中の「猿蟹」も大道さんの脚本。
いずれも難解でわかりにくい作品です。
大道さんはその後の2003年に「しょっぱいドライブ」で芥川賞を受賞されました。
新人賞である芥川賞を受賞する前の大道さんを採用していたところにNHK-FM(名古屋局)の先進性を感じます。

嵯峨島昭さん「ニューネッシー殺人事件」

「嵯峨島昭?そんな人、芥川賞受賞作家にいないよ?」というなかれ。
実は1962年に「鯨神」で第46回芥川賞を受賞した宇野鴻一郎さんの別名義なのです。
宇野さんといえば純文学から官能小説へと活躍の場を移し、一時代を築いた方。
ニューネッシー殺人事件」は宇野さんの嵯峨島昭名義の作品です。

高橋揆一郎さん「北の道化師たち」

1978年上半期に「伸予」で第79回芥川賞を受賞された高橋さん。
北海道在住の作家では初の芥川賞受賞だったそうです。
歌志内市出身で、炭鉱や炭鉱労働者を描いた作品多いのですが、「北の道化師たち」は石炭会社の事務員から漫画家に転身を図ろうとする中年男性を主人公にしています。

津村記久子さん「エヴリシング・フロウズ」・「ディス・イズ・ザ・デイ」・「浮遊霊ブラジル」

2008年下半期に3度目の候補作「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞を受賞された津村さん。
専業作家になったのは2012年ですので、芥川賞受賞時には会社員だったそうです。
日本で一番権威のある賞(芥川賞)を受賞してようやく1人前、純文学とは恐ろしい世界ですね。
働く女性を描くことの多い津村さんですが、「エヴリシング・フロウズ」は内気な中学生男子を主人公にした青春小説、「ディス・イズ・ザ・デイ」はサッカーを題材にサポーターの視点から描く変化球のスポーツ小説、「浮遊霊ブラジル」は幽霊になった老人を主人公にする不思議なお話です。

畑山博さん「男・女・いい出逢い」

1972年上半期に「いつか汽笛を鳴らして」で第66回芥川賞を受賞されたのが畑山博さん。
晩年は宮沢賢治研究で有名だったようです。
カフェテリアのふたりで放送された「男・女・いい出逢い」は放送作家出身の畑山さんらしいライトな内容の作品です。

松村栄子さん「雨にもまけず粗茶一服」

松村さんは1991年度下半期に「至高聖所(アバトーン)」で芥川賞を受賞されました。
松村さんはファンタジー小説「紫の砂漠」「詩人の夢」も書かれていますので、三田さん同様、単純な純文学作家とは言い難いと思います。
ちなみに「雨にもまけず粗茶一服」は主に京都が舞台となる作品ですが、ご自身も京都在住のようです。

三田誠広さん「霧隠れ雲隠れ」

三田さんは1977年に「僕って何」で芥川賞を受賞されていますが、執筆される分野の広い方で大衆文学的な作品もたくさん発表されています。
特に青春アドベンチャーで採用された「霧隠れ雲隠れ」は「スーパー忍者小説」というサブタイトルが付いているとおりエンタメ色の強い作品です。
女優の三田和代さんが実姉であることはこちらで書いたとおりです。

村田喜代子さん「盟友」

1987年上半期に「鍋の中」で第96回の芥川賞を受賞された村田さん。
この「鍋の中」は「八月の狂詩曲」として黒澤明さん監督・脚本で映画化もされています。
一方、アドベンチャーロードで取りあげられた「盟友」も第95回芥川賞の候補作でした。
この「盟友」の特徴はラジオドラマ版の脚色も村田さんが手がけている(らしい)こと。
大道さんと違った意味で、NHK-FMでラジオドラマの脚本を書いたことのある小説家、ということになります。

おまけ

青春アドベンチャーの系列番組ではありませんが、単発ドラマ枠の「FMシアター」では村田沙耶香さんの芥川賞受賞作「コンビニ人間」が、芥川賞作家の今村夏子さんの「木になった亜沙」がラジオドラマ化されています。

次は直木賞

なお、もう一方の直木賞については「受賞作家の原作作品」とするとかなり膨大になってしまいます。
一方、直木賞受賞作自体のラジオドラマ化とすると逆に極端に範囲が狭くなってしまい、対象作品数は限られるのですが、「青春デンデケデケデケ」の記事のアップにより、ようやく3作品がまとまりましたので、こちらに記事をアップしています。


■シリーズ「青アドポーカー」
作品間の緩やかな繋がりを楽しむこの企画。
その他の記事の一覧はこちらです。


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