シュナの旅 原作:宮崎駿(ドラマ・スペシャル)

格付:AA
  • 作品 : シュナの旅
  • 番組 : ドラマ・スペシャル
  • 格付 : AA-
  • 分類 : 異世界
  • 初出 : 1987年5月2日
  • 回数 : 全1回(60分)
  • 原作 : 宮崎駿
  • 脚色 : 宮田雪
  • 音楽 : AKIRA
  • 演出 : 保科義久
  • 主演 : 松田洋治

古い谷の底に、時から見捨てられたような小さな王国があった。
乾いた土を引っ掻いてヒワビエの苗を植えても実りはごくわずか。
いつも飢えているヤックルは、なかなか子を産もうとしない。
それでも人々はささやかな収穫に感謝し、朽ち果てるまで働いて死んでいく。
少年は思う、なんて悲しく貧しい人生だろう。
少年の名はシュナ、この貧しい王国の王子だ。
しかし、シュナは病んで倒れた旅人から聞いてしまう。
西の彼方には黄金の穀物が波打つ大地があると。
その穀物さえ持ち帰ることができれば、人は決して飢えず、平和に豊かに暮らすことができるのだと。



今でも私の手元には、アニメージュ文庫に収録されていた宮崎駿さん作の絵物語「シュナの旅」の古い本があります。
1988年7月20日付けの第16版。
どのようなタイミングで手に入れたのかもう覚えていませんが、恐らく1987年にこのラジオドラマを聴いた後で、書店でこの原作本を見つけて買ったのだと思います。

今とは評価が違う

1987年といえば、宮崎駿さんの監督作品で言えば1986年の「天空の城ラピュタ」と1988年の「となりのトトロ」の間の時期に当たります。
もちろんすでに著名なアニメーション監督ではありましたが、公開当時の「となりのトトロ」の興行成績は特筆すべきものではなく、宮崎さんもまだ日本映画界を代表する巨匠とまでは認識されていませんでした。
今では「宮崎駿=スタジオジブリ」といえば、徳間書店、日本テレビ、電通(最近は博報堂も)ががっちりと抱え込んだ、一つの巨大なビジネスになってしまっています。
そのため、NHK-FMのラジオドラマで宮崎駿さんの作品が原作として取り上げられるなんて、今ではちょっとありえない話だと思いますが、当時はまだそういう状況にはなかった訳です

原案はチベット民話

いきなりキナ臭い話から始まって恐縮ですが、そういう訳でこの作品は、かの巨匠・宮崎駿さんの絵物語を原作とするラジオドラマです。
1987年5月2日の土曜日にPCM録音によるサラウンドドラマとして60分間の特番で放送されました。
もともとはチベットの民話「犬になった王子」が原案なのだそうですが、拝借しているのは骨子だけで、細かいストーリーは宮崎さんのオリジナルのようです。

自然と人間

冒頭紹介のとおり、主人公のシュナは貧しい王国の王子ですが、国民を貧しさから救うために一人、旅に出ます。
「そんな運命など私は信じない。信じるものか。」
大自然から与えられた運命に対し、強い意志を持って人の力で世界を変えるために旅立つ訳ですが、これについて皆さんはどう思いますが。
一般的に宮崎さんはエコロジカルな視点で語られることが多い方だと思います。
実際、弟子筋といっても良い「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明さんが、科学文明への批判を根底に持ちつつ、最終的にはそれを使いこなす人の可能性を信じた作品作りをすることと比較すると、宮崎さんの作品は科学技術の一部を魅力的な小道具として使いつつも科学文明に対して一定の距離を置くことを良しとする結論に至る作品が多いように感じます。

物語の王道

でも宮崎さんの作品でも、苦しい状況に対し受動的に生きるのではなく、戦って勝ち取ることを良しとする主人公たちは多いと思います。
現状を肯定して貧しく生きる人々に背を向け、豊かさを勝ち取るために旅立つシュナは、宮崎さんをエコロジカルな観点からとらえる人にとってはやや違和感が残るかもしれませんが、この激しい生き方もまた宮崎さんの一面だと思います。
実際に宮崎さんご自身が、作品作りに関しては尋常じゃないほどエネルギッシュで、ある種の暴君でもあるらしいですしね。
そういえば、2014年に青春アドベンチャーで放送された「砂漠の王子とタンムズの樹」も同様に現状を受け入れることを拒否する若者の話でした。
そう考えると、世界を変える若者というモチーフは、考え方云々の問題ではなく物語の王道なのかもしれませんね。

各章のタイトル

なお、本作品は大きく以下の6章に分けられています。
「神人の土地」に乗り込み、目的の穀物(恐らく大麦)をゲットして以降の物語が意外と長いことが、この物語に深みを与えていると思います。

  • 旅立ち
  • 西へ
  • 都城にて
  • 襲撃
  • 神人の土地へ
  • テア

松田洋治さんとNHK-FM

さて、本作品で主人公シュナを演じたのは松田洋治さん。
松田さんはNHK-FMのラジオドラマでは常連的に出演されていた方で、すでに当ブログで紹介した作品でも「アルバイト探偵」、「西風の戦記」、「ふたつの剣」、「645~大化の改新・青春記」、「夢源氏剣祭文」などなど非常に多くの作品に出演されています。

松田洋治さんと宮崎作品

その面から、このラジオドラマに出演していても全く違和感がないのですが、どちらかというと、この作品のキャスティングに関してはNHKが松田さんのことをお気に入りだったからというよりも、1984年の宮崎駿さん監督の映画版「風の谷のナウシカ」で松田さんがアスベル役を務めたことの影響の方が大きいのではないかと思います。
「シュナの旅」の原作を見ると、シュナのビジュアルはアスベルそっくりです。
なお、松田さんは1997年の宮崎駿さん監督作品「もののけ姫」の主人公アシタカも務めることになります(松田さんご自身がアシタカのキャスティングはこの「シュナの旅」が影響しているのでないかと推測しています(外部リンク))。

宇宙戦艦ヤマトつながり

また、本作のナレーションを務めるのは佐々木功さん。
「宇宙戦艦ヤマト」の主題歌で有名な方ですが、落ち着いたナレーションもなかなか良い雰囲気です。
そういえば2006年の「ウォーターマン」もなかなか素敵なナレーションだった覚えがあります。
実は本作品はちょっと気になるくらい佐々木さんのナレーションが多い作品ですが、そもそも原作が全編ナレーション的な説明で話が進む「絵物語」なので致し方ないところではあります。
なお、「宇宙戦艦ヤマト」つながりでいくと本作品の音楽を担当されているAKIRAさんは、「宇宙戦艦ヤマト」の音楽を担当された宮川泰さんの息子さんです。
あまり関係ないですね。

ビジュアルは原作で補完

さて、以上のとおりラジオドラマ版の説明をしてきたのですが、やはり宮崎駿さんといえば魅力的なビジュアル抜きには語れません。
本ラジオドラマは、NHK-FMで多くの冒険ものの傑作を演出された保科義久さんの演出作品ですが、保科さんのお力をもってしてもラジオドラマでは原作の魅力を伝えきれたとは言えません。
とはいえ松田さんの演技やNHKのスタッフ(技術:鈴木清人さん、効果:上田光生さん)による音響効果、AKIRAさんの音楽など、絵物語では実現できない魅力があることも確かです(藤代美奈子さんが演じる、しっかり者のテアが魅力的なことも)。
本作品は原作とラジオドラマを併せて楽しんでこそ最も魅力が発揮される作品だと思います。
このブログでは原作本と併せて聴く作品として格付け“AA-”としました。

【保科義久演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
名作、迷作、様々取りそろっています。
こちらを是非、ご覧ください。

●2015年10月18日追記
2015年9月23日に放送された「今日は一日ラジオドラマ三昧」第二部において、この「シュナの旅」が約30年ぶりに再放送されました。
NHKさんにはとてもきれいな音質で残していてくれたことに感謝です(他の作品もあるといいなあ)。
改めて聴くと「老人」役の有島一郎さんを始め、なかなか豪華な脇役陣。
有島さんといえば、TV時代劇「暴れん坊将軍」の加納五郎左衛門(じい)役が思い出されます。
有島さんが亡くなられたのは、本作品「シュナの旅」が放送された僅か2カ月後だったそうです。

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