- 作品 : 西風の戦記
- 番組 : アドベンチャーロード
- 格付 : AAA
- 分類 : 異世界
- 初出 : 1988年6月6日~6月17日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 田中芳樹
- 脚色 : 佐久間崇
- 演出 : 小木哲郎
- 主演 : 宮崎ますみ
普通の高校生である永井香澄と池畑史朗は、不思議な力によって自分の夢にでてきた架空の王国「ゼピュロシア」に迷い込む。
反乱と陰謀に揺れる西風の王国ゼピュロシアは愛と勇気と戦いのさなかにあった。
反乱軍を迎え撃つ王妹アポロニアに保護された香澄と、反乱軍の首魁であるレオン・パラミデュースに同行することになった史朗は、全く逆の立場からゼピュロシアの運命に立ち会うこととなる。
青春アドベンチャーの二つ前の番組であるアドベンチャーロードで放送された作品です。
原作者は、かの大作「銀河英雄伝説」の作者である田中芳樹さんです。
田中芳樹節が楽しい
原作の文庫本が発売されたのが1988年ですので銀河英雄伝説の完結直後にあたります。
この作品はライトノベル要素の強い単純な冒険活劇ですが、銀河英雄伝説、アルスラーン戦記、創竜伝といった初期の田中芳樹作品に共通する歴史観、社会観、人間観を感じさせる作品で、これらの田中氏の代表作のファンにとっても違和感のない内容だと思います。
それにしても放送された時期(1988年6月)を考えるとNHKラジオドラマスタッフの先物買いの素質はこのころから見事なものだったと言わざるをませんね。
ラジオドラマの難しいところ
さて、ラジオドラマはその性格上、音からしか情報を伝えることはできません。
小説であれば漢字の持つ情報量を活用出来たり、ルビを振ったりできますし、そもそも理解が難しい場面では読者は戻って再読することができます。
ラジオドラマではナレーションを使うことによりこれらの代替が可能ですが、小説の地の文と違い、あまりナレーションが多いと著しくテンポが落ちます。
ラジオドラマにあった原作と脚色
つまり、ラジオドラマには音響効果が使えるという有利さはあるものの、音だけから一発で頭の中にすり込めないとリスナーは迷子になってしまうという厄介な性質があり、どうしても時間の割に長い物語を伝えるのが苦手です。
その点で、本作品はラジオドラマ化にあたって「夜叉公主」や「カラコール」など声だけでは伝わりづらい用語を使用していないことに脚本の配慮が感じられます。
また、そもそも一般的なライトノベル1冊分の物語は、青春アドベンチャーの15分×10回にちょうどバランスよく収まる量なのではないかと思います。
段田安則さんを初めて知った作品
出演者で特に印象的なのはやはりレオン・パラミデュース役の段田安則さん。
当時、野田秀樹さん主宰の劇団「夢の遊民社」の主力俳優であった段田さんですが、本作では終始、微かにつっかえながら話すように演技をされており、これが、優秀な指揮官・施政者になれる能力を持ちながら14年間もの間、惰弱で愚鈍なふりを続けざるを得なかったレオン・パラミデュースの屈折した人間性を見事に表現しています。
「北壁の死闘」の渡辺いっけいさん同様、段田さんもその後、テレビ等でよくお見かけするようになり、なんとなく嬉しかったのを覚えています。
また、理性と狂気の二面性を演じる必要のあるラスカリスを担当した田山涼成さんも、「北壁の死闘」のオットー・スコルツェニーやラッサー博士とは全く違った役柄ながら印象的でした。
劇団「夢の遊眠社」全面協力?
その他、本作品で特に印象が残る声だったのはタイトルコールやバシレイオス提督などを担当された浅野和之さん。
出演者を読み上げるのも浅野さんの役目なのですが、ご自身の名前を読み上げる回が少なく、段田さんや宮崎ますみさん(=香澄)、松田洋治さん(=志朗)と違ってお名前が全然記憶に残っていませんでした。
「サンタクロースが歌ってくれた」(浅野さんは成井先生役)の記事を作成するために聴いていたところ、「これって西風の戦記のタイトルコールの人と同じ声だよな?」と思いつき確認したところ浅野さんだということに気が付きました。
本作品は劇団「夢の遊眠社」の方々が多数出演されており、浅野さんもこの劇団を代表する役者さんのひとりだったそうです。
ちなみに出演者の読み上げといえば、本作品は、「国王軍」と「反乱軍」にわけて出演者を読み上げるのですが、これもなかなか雰囲気が出て面白い趣向でした。
ソノラマのカセットブック?
今回、この記事を書くに当たり検索したところ、朝日ソノラマからカセットブックが出ていたのを見つけた(下記の画像リンク参照)のですが出演者が違うので、どうも別物のようです。
最近はラジオもインターネットでサイマル放送をするようになり視聴は随分と容易になりましたが、一度録音しそこなったものを視聴するのは今も昔もなかなか大変です。
スタッフについて
最後に本作品の脚色を担当された方を紹介すると佐々木崇さん。
青春アドベンチャー系の番組ではCFギャングシリーズ(CF愚連隊、ロンリー・ランナー)も担当されています。
何れの作品も切れの良い爽快な作品です。
<田中芳樹原作・原案の他の作品>
- カルパチア綺想曲
- 夏の魔術
- 窓辺には夜の歌(「夏の魔術」続編)
- バルト海の復讐
- 月蝕島の魔物(VHA1)
- 髑髏城の花嫁(VHA2)
- 水晶宮の死神(VHA3)
- 黒十字の魔女(VHA外伝)
- 白銀騎士団 シルバー・ナイツ
※VHA=ヴィクトリア朝怪奇冒険譚
※別記事にて「ラジオドラマ化して欲しい作品として」本作品と同原作者で類似ジャンルの作品である「マヴァール年代記」を取り上げています。こちらもご覧ください。
コメント
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この作品大好きです^^
チューニングしにくいNHKFMを毎晩ワクワクしながら聞いていたのが懐かしい思い出です。
自分は夜叉公主アポロニアをアテレコした方が非常に印象的でした。
技術的なところは別として、宝塚の男役のような気迫あふれる演技がとても良かったと思います。
カセット版のアポロニアはキレイな声質で聞き取りやすいので、声優としては上手なんでしょうけど、なんか放送版ほど迫力が感じられないんですよねぇ~~
今でも放送版を聞く(できれば録音を)方法はあるのでしょうか?できれば教えていただければありがたいです。
でわ、メッセンブリアで相まみえましょうぞ!!
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Cherryberryさん
コメント、ありがとうございます。
アポロニア役の「まつもとるみ」さん、確かにぴったりの演技でしたね。
私も演技を聞いていて宝塚出身の方かなと思っていたのですが、検索して出てきた女優「松本留美」さんだとしたら別段、宝塚とは関係ない方のようです。
武人であるアポロニアらしさを出すために敢えて古風な感じで演技されていたのかも知れませんね。
私はカセット版を聞いたことがないので、比較できるCherryberryさんがちょっとうらやましいです。
また、NHK版を聞く方法ですが、NHK-FMのラジオドラマってごく一部のカセットやCD、NHKオンデマンドで聞けるもの以外は再聴がなかなか困難な状況です。
西風の戦記も現在誰でも聞ける場所というのはなく、人づてで探すしかないのが現状だと思います。
このブログでも何回か書いているですが、有料でも良いのでNHKオンデマンドで配信してほしいものです。
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最近は便利な世の中で・・某有名動画配信サイトのユー〇ュー〇に落ちてました・・当時のアドベンチャーロードものが・・。
試しに検索してみたら引っかかってきました。。
アポロニア様・・りりしいお声です(感涙