- 作品 : 星虫
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : B
- 分類 : SF(日本)
- 初出 : 1992年6月22日~7月3日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 岩本隆雄
- 脚色 : 長川千佳子
- 演出 : 角井佑好
- 主演 : 小川範子
「こんばんは、ニュース9です。
本日最初のニュースは「星虫」についてです。
(映像スタート)
6日前に、宇宙から飛来し世界30億人の人々の額に張り付いた「星虫」と呼ばれる謎の生物。
張り付いた人の視覚、聴覚等などを大幅に向上させ、地球が危機的状況にあることを極めて効果的に人類に悟らせることに成功しました。
しかし、時間と伴に星虫は巨大化。
(10cmに巨大化した星虫が張り付いている人の顔をクローズアップ)
徐々に星虫を取り外す人が増えてきました。
本日、米国の「星虫委員会」も、「このまま星虫が成長すると本人の意思では取り外すことが出来なくなる可能性がある」との声明を発表。
すでにわが国ではほとんどの人が星虫を取り外すことを選択しました。
しかし、○○県の○○市で高校生の男女ふたりが星虫を外すことを拒否し、土蔵に立てこもるという事件が起きています。
家族の必死の説得にも関わらず、ふたりは「星虫は悪い虫ではない」と主張。
日本に残った最後の星虫所有者を取材しようと報道陣も殺到し、現場は混乱しています。
それでは現場を呼んでみましょう。
現場の○○さん!」
う~ん。
今回の冒頭の作品紹介はTVニュース風に書いてみたのですがネタバレし過ぎですかね。
本ブログでは、いつも大体、全10回のうちの2~3回くらいまでの内容で紹介文を書いているのですが、冒頭の内容は概ね第6回くらいまで踏み込んでいます。
ネタバレを不快に思われた方はご容赦ください。
原作は全4作のシリーズ
さて、それはさておき、本作品「星虫」は、岩本隆雄さんの同名のSF風のファンタジー小説を原作とするラジオドラマです。
原作小説は第1回の日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作だったそうです(ちなみにこの回の大賞受賞作は酒見賢一さんの「後宮小説」)。
この小説は後にシリーズ化され、「イーシャの舟」、「鶴姫真話」、「鶴姫異聞」が発表されています(詳細な年表比較はこちらの外部サイトをご参照ください)。
「イーシャの舟」との関係
このうち「イーシャの舟」は2001年に同じ青春アドベンチャーでラジオドラマ化されています。
時系列的には「星虫事件」は「イーシャの舟」の数年後の出来事とされています。
また、生物である「星虫」と、乗り物である「イーシャの舟」には大きな関連性があることが、本作品の終盤で明かされています。
そのため、どちらかというと「イーシャの舟」から先に聴く方がお勧めではあります。
ただし、両作品の登場人物は全くかぶりません。
また、つながりが明らかになるといっても、ごくさらっと語られるだけで、あくまで設定上のつながりというレベルをでていません。
やや矛盾あり
さらに、(原作がどうなっているかは定かではにないのですが、)そもそも「星虫」で言及されている「爆発」が、少なくともラジオドラマ版の「イーシャの舟」では起きていませんし、「イーシャの舟」のエンディングでは地球の危機は去ったかのような描かれているのに、本作では相変わらず地球は危機的状況にあるとされていることなど、少し矛盾を感じるつながりになっています。
また、ラジオドラマ版のスタッフについても、脚色(当作品は長川千佳子さん、「イーシャの舟」は平石耕一さん)、演出(当作品は角井佑好さん、「イーシャの舟」は保科義久さん)ともに全く異なります。
さらにキャストも、本作品はアイドル女優の小川範子さんが主役を演じているのに対して、「イーシャの舟」は声優の佐々木望さんが主役であり、かなり雰囲気は違います。
以上から、両作品は別々のラジオドラマとして楽しんだ方が良いと思います。
リアル志向のSF?
さて、前置きが長くなりましたが、イーシャの舟が「ファーストコンタクトもの」なら、こちらは「宇宙飛行士もの」と思わせる展開で物語はスタートします。
両作品は、地球環境の破壊と人口増加で、いずれ人類は地球を出ていかなければならないという問題意識で貫かれた作品であり、その象徴が「イーシャの舟」ではスペースコロニーであるのに対して、本作品では宇宙飛行士になっています。
だから、作品の冒頭で、主人公の16歳の少女・友美が宇宙飛行士を目指してひそかに鍛錬を続けている様子は、「ふたつのスピカ」や「宇宙兄弟」、あるいか「度胸星」、「プラネテス」(は違うか…)と重ねて、リアルなSFものとして聴いていました。
宇宙飛行士になるための三箇条(①体を鍛えること、②英語と科学一般の広い知識を得ること、③宇宙開発の経緯に注意すること)も、宇宙飛行士ものである「最後の惑星」などと比較しても、結構リアルですしね。
後半はファンタジー風味
でも、本作品の中盤以降のストーリーは、主人公たちが高校生であることもあってかリアルさは薄れ、宇宙から飛来したと思われる不思議な生物「星虫」についての科学的な説明があまりないこともあり、ファンタジックな展開になっていきます。
ガイア理論ぽい設定も多いのですが、論理的な解説というより、感覚的な説明に終始していることも否めません。
その他、友美の一人称(モノローグ)で物語が展開することも、ハードなSFというより、柔らかいファンタジーの雰囲気が増した原因となっていると思います。
そのため、本ブログでのジャンルも「幻想」(=ファンタジー)としたいところではありましたが、SF風味を重視して一応「SF(日本)」のままとしました。
そもそも、同様に空を飛ぶシーンのある「イカロスの誕生日」でもそうだったように、ラジオドラマでSFを表現するのは難しいところではあります。
どちらが好きか
個人的には、①「イーシャの舟」の方が登場人物がやや大人であること、②本作品における星虫の扱いについて微妙な疑問が残ること(死んじゃった200人は無視ですか…)、から「イーシャの舟」の格付けの方を高くしたのですが、この辺は好き好きだと思います。
日本人初の女性宇宙飛行士
ところで、本作品の中で「21世紀に入っても日本にはまだ女性の宇宙飛行士は誕生していない」というセリフがあります。
しかし現実には、本作品が放送されたわずか2年後の1994年に、21世紀を待たずして女性宇宙飛行士(向井千秋さん)が誕生しています。
現実が小説を追い越してしまった例であり、近未来SFというものの難しさを示していると思います。
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