大地の子エイラ 原作:ジーン・アウル(ドラマ・スペシャル)

格付:B
  • 作品 : 大地の子エイラ
  • 番組 : ドラマ・スペシャル
  • 格付 : B+
  • 分類 : 歴史時代(海外)
  • 初出 : 1988年3月26日
  • 回数 : 全1回(90分)
  • 原作 : ジーン・アウル
  • 脚色 : 高木達
  • 演出 : 斎明寺以玖子
  • 主演 : 水野なつみ

氷河期の終わり。
5歳の少女エイラは、地震により家族全員を失う。
そして、放浪の末に、自分とは全く違う姿形をした“人間”の集落にたどり着き、九死に一生を得る。
彼らはエイラと違い、低い背丈、曲がった腕、毛深い身体を持ち、声より身振り手振りに頼ってコミュニケーションをする民だった。
エイラは、やさしい養父母のもと落ち着いた生活を得ることができたものの、彼らの考え方や秩序にどうしても馴染めない。
そして、自分の“みにくい”容姿もまた受け入れられなかったのだ…
ネアンデルタール人「洞穴熊ウルススの民」中で、“みにくいアヒルの子”クロマニョン人のエイラはどう生きていくのだろうか。



アメリカの小説家ジーン・アウルの「Earth’s Children」シリーズの第1作を原作とするラジオドラマです。
この作品、日本では評論社から「大地の子エイラ - 始原への旅立ち第1部」として、集英社からは「ケーブ・ベアの一族 - エイラ地上の旅人(1)」として翻訳版が出版されています。
本ラジオドラマが放送された1988年には評論社版しかでていなかったので、本ラジオドラマの原作は評論社版と言うことになります。

ホモサピエンス以外の人類

さて、冒頭に書いたとおり、本作品はクロマニョン人の少女エイラがネアンデルタール人の一族に拾われて成長していく話です。
私が昔読んだ子ども向きの本では、アウストラロピテクス(猿人)→ピテカントロプス・エレクトス(原人)→ネアンデルタール(旧人)→クロマニョン人(新人)と直線的に進化した説明がなされていましたが、現実はそうではないようです。
すなわちネアンデルタール人と私たちホモサピエンスは、「後先」という関係ではなく、同じ時代に並列して存在していた生物です。
現在では、人類(哺乳類霊長目ヒト科ヒト属)に属する生物は現代人ホモ・サピエンス一種類なのですが、他の種類の人類と共存している世界を想像してみるのも一興かと思います。

凝った構成

さて、本作品は全90分の作品なのですが、冒頭エイラが、ある試練を受けているシーンからスタートします。
なぜエイラはそのような状況になったのか、舞台はエイラが5歳の時から順を追って進み、全体の3分の2の60分あたりで冒頭の時点にたどり着く凝った構成です。

金髪のクロマニョン人?

ただ、そのエイラが直面する事態なのですが、本作品では「毛深くて猿に近いネアンデルタール人による野蛮な男尊女卑社会」と「金髪・色白で背が高く男女平等的な思想を持つエイラ」という対比で語られており、本作品の原作者がアメリカ人であることを考えると微妙な差別感を感じざるを得ませんでした。

ネアンデルタール人の能力

実際には、現代に至ってもネアンデルタール人の特徴や生活には不明確な点が多いわけで、しかも本作品が書かれたのが約30年前という状況では致し方ない点もあろうかと思います。
化石の状況からネアンデルタール人は発声能力が低かったという説は実際にあるようなので、きちんと取材している形跡は見えるのですが、現代では金髪等の欧米人的な遺伝要素はむしろネアンデルタール人から持ち込まれたとされているようですし、そもそもネアンデルタール人の脳容量は我々ホモサピエンスより大きいくらいだったようです。

ギリギリセーフ

その点で、本作品の「進歩的」=「欧米人的」というステレオタイプな誤解を助長するような展開にはちょっと疑問もあるのですが、ネアンデルタール人全員が暴力的・迷信的に描かれているわけではなく、エイラの養父母のクレブとイザ、そして族長のように理性的なネアンデルタール人も描かれており、それほど不快感なく聴くことができました。

現生人類は混血種

ところで、先ほど「ネアンデルタール人から持ち込まれた」と書きましたが、ネアンデルタール人が我々の祖先であるという説は一旦否定されたものの、最近ではネアンデルタール人との混血を遺伝的に裏付けたという主張もあるそうです。
この「混血」という問題は本作品でも大きな要素になっているのですが、少しだけ出てきた段階で本作品は終了してしまっています。
その後、原作では第6部「聖なる洞窟の地」(日本版は2011年発刊)まで続いた後に完結に至ったそうです。
エイラと「旅立ちを約束された子」の旅がどのような結末を迎えたのか、気になるところです。

水野なつみさん?

さて出演者に話を移しますと、まず主役の少女エイラを水野なつみさんという方が演じていらっしゃいます。
このブログを書いている時点で「水野なつみ」で検索すると、女優の「水野夏美」さんがでているのですが、この人は別人のようです。
なんと言っても「水野夏美」さんが生まれたのはこの作品が放送された後(1988年12月)ですので。
その他のキャストは、養母イザ役の白石加代子さん、養父クレブ役の中村伸郎さんのほか、溝江哉さん、岩下浩さん、大塚国夫さん、井上倫宏さんなど。

岸田今日子さんの語りが怖い

そして、語りを岸田今日子さんがされています。
アンデルセンの雪の女王」でもそうでしたが、岸田さんがナレーションをするだけで、ある種、不気味とも言って良い独特の雰囲気になりますね。

演出は斎明寺以玖子さん

また、本作品には「ソフィーの世界」で脚色を担当されている蓬莱泰三さんが作詞した何とも古風な主題歌があり、これを「ピエタ」や「ソフィーの世界」に出演されている元宝塚女優の毬谷友子さんが歌っています。
ちなみにこの作品には毬谷さんは出演されていません。
以上のとおり、本作品、何となく「ソフィーの世界」と被る要素があるのですが、それもそのはず両作品とも演出家が同じ(斎明寺以玖子さん)です。


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