- 作品 : 通い猫アルフィーの奇跡
- 番組 : FMシアター
- 格付 : B
- 分類 : 幻想(海外)
- 初出 : 2018年1月27日
- 回数 : 全1回(50分)
- 原作 : レイチェル・ウェルズ
- 脚色 : 石原理恵子
- 音楽 : 長谷部徹
- 演出 : 真銅健嗣
- 主演 : 菅沼久義
最愛の飼い主マーガレットを亡くした家猫アルフィーは旅に出ることにした。
しかし、世の中そんなに甘くはない。
禄に外に出たことになかったアルフィーにとって道路を一本渡るだけでもひと苦労。
どこもかしこも凶暴な野良猫たちのナワバリになっていて気の休まる暇もない。
大体、運良くどこかの家の家猫になれたとしてもその飼い主が死んでしまったら元の木阿弥だ。
そんな中、珍しくフレンドリーに接してくれた黒猫が新しい生き方を教えてくれた。
それは飼い猫でも野良猫でもない第三の選択肢「通い猫」になるという考え方だ。
本作品「通い猫アルフィーの奇跡」は英国の作家レイチェル・ウェルズによる同名の小説を原作とするラジオドラマで、NHK-FMのFMシアターで放送されました。
FMシアターでは珍しい原作付き
本作品が放送された2018年にFMシアターでは、再放送を除き合計39作品のラジオドラマが放送されました。
しかし、このうち既存の小説を原作とする作品は、本作品のほかは藤岡陽子さん原作の「満天のゴール」だけです(「最後の一人になるために」も「原作」扱いですが、NHK厚生文化事業団主催の公募小説を原作としているので通常の意味での原作付きではありません)。
つまりFMシアターはオリジナル脚本の作品が多い番組であり、本作品はその面では例外的な作品といえます。
なお、例外的と言えば、このアルフィーシリーズの原作は「通い猫アルフィーのはつ恋」、「通い猫アルフィーとジョージ」、「通い猫アルフィーと海辺の町」(本作品放送後の2018年6月16日に刊行)と続編があります(「毒見師イレーナ」と同じハーパーBOOKSより)。
FMシアターではシリーズものが作られることは原作付き作品以上にレアなのですが、今後どうなるのでしょうね。
通い猫とは?
さて、本作品は猫の一人称により展開する作品です。
老婦人マーガレットの飼い猫であったアルフィーはマーガレットの死後、シェルターに引き取られることを拒否し、新しい生き方を探して街に出ます。
そして出会ったボダンという猫から「通い猫」という生き方の示唆を受けるのです。
「飼い主は一人じゃダメなんだよ。」ボダンは言います。「普段は1か所で暮らしているけれど別荘もある。複数の家から食べ物をもらえ、可愛がられ、世話をされる。何かあった時、その方が安全だろ。」
アルフィーはこの考え方に特別に感銘を受けたわけではないようですが、何はともあれ生きるためにこれを実践することを決心します。
4つの家を行ったり来たり
そして、ある通りに住み着き4軒ほどの家に通う生活をスタートさせます。
その4軒とは、離婚したばかりの“だめんず・うぉ~か~”「クレア」、無気力で投げやりな失業男「ジョナサン」、育児ノイローゼの「ポリー」、ポーランドからの移民一家の主婦「フランチェスカ」のそれぞれの家。
一般的に猫は気まぐれで孤高を好む存在として語られることが多いのですが、アルフィーはさにあらず。
愛情深いマーガレットに育てられたからか、自ら「僕は助けを求める相手の力になりたいタイプなんだ!」というとおり、彼らが共通して持つ寂しさに重大な関心を寄せ、最終的にはクレアを救うために思い切った行動に出るのですが…
これ以上はストーリーに踏み込むことになるため説明を差し控えたいと思います。
最後のアルフィーの行動は、おとり捜査にも似た倫理上の問題点を抱えるような気もします(犯罪をあえて作り出している)が、まあジョーはしょうもない“だめんず”ですので致し方ないところではあります。
50分では無理がある
という訳で猫好きにはたまらない作品になった(であろう)本作品ですが、どうしても気になった点がいくつかあります。
実は本作品の原作は384頁に亘る大作です。
原作を読んだことがないのではっきりしたことは言えないのですが、原作の要素をFMシアター1回分の50分で表現することに無理があったのではないかと感じました。
具体的には4軒のうち「ポリー」と「フランチェスカ」との絡みはストーリーを進めるのに必要な最低限度。
おそらく原作ではもっと通い先との関係が濃厚に描かれているのではないでしょうか。
「レインツリーの国」や「夕凪の街 桜の国」といった原作付き作品を聴いているときにも感じましたが、FMシアター1回分50分に押し込めるにはどこかで大きな省略が不可欠。
もともと本作品は、4軒のある通りにたどり着くまでに一定の時間を使わざるを得ない作品であった時点で、作品選択上、敗色が濃厚だったように思います。
英国のシェルター事情
また、これは作品内容とは関係ないのですが、誤解を与えるとまずいのではないかと感じたことが2点ほどあります。
まずは英国のアニマル・シェルターの現状について。
本作品上でアルフィーはシェルターに送られると高確率で殺されてしまうと思い脱走するのですが、英国のシェルターは少なくとも日本よりは遥に歴史も伝統もあり、例えばTV番組でも有名なロンドンの「バタシー・ドッグズ&キャッツ・ホーム」は19世紀から活動を続ける本格的な組織で、年間運営費用1300万ポンドをすべて寄付で賄っているそうです。
市民の間でもペットはシェルターから引きとって飼うという文化が根付いていますし、そもそもシェルターでは健康な犬猫は基本的に殺処分をしないのだそうです。
「さいごの毛布」(こちらは有料の老犬ホームですが)などでも描かれている日本のペット事情とは一線を画しているといってよく、(原作者には思うところもあるのだと思いますが)アルフィーが逃げ出したことが本当に正解だったのかは何とも言えないと思います。
ネコエイズと猫の外飼
もう1点は猫が屋外で暮らすことの危険性。
英国がどうかはわかりませんが、特に日本は屋外の猫の猫後天性免疫不全症候群(FIV、いわゆる「ネコエイズ」)や「猫白血病ウイルス感染症」(FeLV)の罹患率が高く、猫の外飼いは大きなリスクがあります。
その面でアルフィーのような「通い猫」は特に日本の場合、猫の健康上大いに問題があるというのが現実だと思います。
なお誤解を解く目的で書いたのに別の誤解を与えてしまうと最悪なので、さらに補足なのですが、ネコエイズはヒトのAIDSほど厳しい病気ではありません。
もちろん人間には移りませんし、発病に至らず生存する確率も高く、発病しても予後は比較的穏やかのようです(人間のAIDSも薬で発病や感染のコントロールが可能なことも申し添えます。これもきちんと書かないといけませんね)。
是非、猫エイズのウイルスを持っていたとしても可愛がって頂きたいと思います。
主演は声優の菅沼久義さん
…などど、堅苦しい方に盛大に脱線してしまいましたが、最後に少しだけ出演者について。
主役のアルフィーを演じたのは青二プロダクション所属の声優の菅沼久義さん。
FMシアターで専業声優さんを主役に据えることは珍しいですね。
片岡礼子さん、瓜生和成さん、茅島成美さん、蟹江一平さん、山田キヌヲさん、谷川清美さんと、脇を固める人がTVや舞台方面で活躍する人ばかりなので、一層、目を引きます。
演出の真銅健嗣さんのご指名なのでしょうか?
本作品は当ブログが実施した「2018年FMシアター・特集オーディオドラマ人気投票」の第2位(「高倉酒店で会いましょう」と同点)の作品です。
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