魔の視聴率 原作:福本和也(FMアドベンチャー)

格付:AAA
  • 作品 : 魔の視聴率
  • 番組 : FMアドベンチャー
  • 格付 : AAA-
  • 分類 : 推理
  • 初出 : 1984年10月15日~10月26日
  • 回数 : 全10回(各回10分)
  • 原作 : 福本和也
  • 脚色 : 松岡清治
  • 演出 : 峯岸透
  • 主演 : 加藤健一

「緊急指令、緊急指令。六本木七丁目のマンション・ビラ麻布で爆破事件発生。就寝中の老夫婦が即死。死因はダイナマイトの強烈な爆風による心臓破裂……」

<鮫島竜一郎>
大東京テレビのプロデューサー。
日本で初めて本格的なテレビアニメを手がけ一躍、脚光を浴びるが、出演者とのスキャンダルにより一年間の休職の上、関連会社へ左遷。
10年間の雌伏の後に復帰し、新企画「孫悟空道中記」で返り咲きを図る。
<矢田清>
警視庁麻布署の捜査係の刑事で、ヴィラ麻布の爆破事件を担当。
優秀な刑事だが、心の奥底に、ある私怨を抱えており、時には捜査より私情を優先して行動することがある。

爆破事件の捜査は、やがて10年前のもう一つの事件へと結びついていく。
そして、二人の男と、彼ら自身すら知らなかった複雑な人間関係が姿を表し始めるのだった。



本作品「魔の視聴率」は、小説家であり、漫画原作者・脚本家でもあった福本和也さん原作の小説をラジオドラマ化した作品です。

業界内幕もの

本作品はテレビ業界、特に初期のテレビアニメ制作を舞台にした作品です。
いわゆる“ギョーカイ”出身者が原作者である内幕ものとしては逢坂剛さん原作の「あでやかな落日」や喜多嶋隆さん原作の「CF愚連隊」(ともにCF業界)を思い出しますが、本作品が描く“ギョーカイ”はテレビアニメ制作。
テレビアニメ制作というとサウンド夢工房時代の怪作「愛と青春のサンバイマン」を思い出しますが、本作品は終始、脳天気なサンバイマンとは正反対の、シリアスなサスペンス作品です。

原作者自身が関係者

アニメといえば、本作品中では「虫塚いさおの『鉄人アーマン』」(手塚治虫の「鉄腕アトム」の言い換えと思われる。原作でも同じ。)や、オリジナル企画の「宇宙少年ロビン」などの作品名が登場します。
後者は1965年からTBS系列で放送された「宇宙少年ソラン」を連想させる名前ですが、実はこの「宇宙少年ソラン」の原作・脚色を担当したのが、福本さんなのです。

プロはディテールに拘る

つまり本作品は福本さんがよく知っている世界を舞台にした作品であり、それがリアリティにつながる結果を生んでいます。
ちなみに、このラジオドラマ版ではかなり省略されていますが、原作ではテレビアニメにまつわるビジネス、手続きやお金の流れがより詳細に描かれています。
また、リアリティと言えば、本作品は飛行機やラジコン飛行機も大きな要素になっているのですが、実は福本さんは作家になられる前はパイロット、しかもプロパイロットの養成や日大航空部で教官をしていたベテランパイロットだったそうです。
その面でもディテールの描写に説得力があるのは納得です。

放送時間は短い

しかし、本作品の魅力はそういったディテールではありません。
一番の聴き所は何と言っても複雑に入り組んだ人間関係と先の読めないストーリー展開。
FMアドベンチャーは、1回10分の番組であり、心なしか台詞回しもNHKらしくない早口の作品が多いように感じます。
本作品も、そういった面でどうしてもダイジェストぽく感じられてしまう部分がありますし、説明不足な部分もあります。

目まぐるしい展開

しかし、全体の放送時間が10分×10回=100分と決して長くない割りには、舞台となっている場所が小樽や広島などに次々に移動し、舞台となっている業界も警察やテレビ業界、ラジコン・飛行機業界など様々。
この短い枠によくぞこれほど盛り込んだと思うほど、めまぐるしく変化していく濃密な展開です。

入れ替わるナレーション

また、作劇上も、鮫島と矢田が代わる代わるモノローグ形式でナレーションをすることから、この2人が主人公格であることが自然と理解できるのですが、途中でそれまで完全な脇役だと思われていた、ある人物が突然モノローグを始め、実は重要人物であることがわかるなど、緊張感が持続する飽きさせない構成です。

スリリングな展開

そして、肝心の謎解きも、冒頭の粗筋からも想像できるとおり、

  • 犯人
  • 事件は10年前の事件と何らかの関係がある
  • 事件は視聴率と飛行機と何らかの関係がある

は、聴いていれば序盤から薄々ならばわかるのですが、はっきりしたところがなかなかわからない。
また、第2話まで主人公二人のつながりがわからず、老夫婦が鮫島とつながるのも後半がスタートした第6話まで待たなければいけない。
色々とあちこちに話が飛ぶ中で薄皮をはぐように真相が明らかになっていくのです。

粗はあるしご都合主義ではあるが

終盤の「志賀」と「鮫島」のつながりに関して、事前ヒントがあまりなく(原作では「序章・その2」があるのですが)ご都合主義に思えてしまうなど、粗がないとは言えないのですが、放送時間を考えればよくできた内容だと思います。
特段、深い哀歓や考えさせられるようなテーマがある作品ではないのですが、FMアドベンチャーらしい大人向きの娯楽作品としてはなかなかの良作だと思います。
ラジオドラマなんて、これで良いのだと思います。

紛らわしい登場人物名

出演は、ダブル主役である2人のうち、鮫島プロデューサー役が俳優の加藤健一さんで、矢田刑事役が江幡連さん。
「鮫島」と聞くと、「新宿鮫」を想像してしまいますが、本作品における刑事は江幡さんが演じる矢田の方で、鮫島はTV番組のプロデューサーです。
その他の出演者は、泉晶子さん、田坂都さん(男と女の殺人百科紫色の時差)、稲垣昭三さん、蔵一彦さん、佐古正人(佐古雅誉)さんなど。
放送時期からかなり時間が経ってしまっており、故人が多いです。
合掌。

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