- 作品 : あでやかな落日
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA
- 分類 : アクション(国内)
- 初出 : 2006年5月22日~6月02日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 逢坂剛
- 脚色 : ふたくちつよし
- 演出 : 小林武
- 主演 : 磯部勉
「なんでも屋」現代調査研究所を主宰する中年男・岡坂は、ある日、ふとしたきっかけで無名の天才ギターリスト・香華(こうげ)ハルナを知る。
その直後、大手広告代理店・セントラル広告の佐竹部長から、大手電機メーカー「アウロラ電機」が新製品のキャンペーンガールを捜していることを聞いた岡坂は、ハルナをそのキャンペーンガールに推薦する。
アウロラ電機の担当者・岸岡美帆子も乗り気で、順調に進むかと思えたその矢先、極秘であるはずの新製品のキャンペーン情報が業界紙にすっぱ抜かれる。
情報漏洩の疑いを掛けられた岡坂は、事の真相を調べるために動き始めるが…
逢坂剛さんのハードボイルド小説を原作としたラジオドラマです。
最近の青春アドベンチャーらしくない
それにしてもこのラジオドラマは一体どういう背景があった存在し得たのでしょうか。
80年代、番組がまだ「アドベンチャーロード」と呼ばれていた時代(番組名の変遷についてはこちらの記事をご覧下さい)ならいざ知らず、対象年齢の低年齢化が著しい近年の青春アドベンチャーの中では明らかに異色な作品チョイスです。
数少ないハードボイルド
青春アドベンチャーでパッと思いつくハードボイルド作品は「新宿鮫・氷舞」や「レディ・スティンガー」くらいでしょうか。
いや、アドベンチャーロード時代ですらコテコテのハードボイルドはそんなに多くありません。
私が聴いたことがあるものでは、「サテンのマーメイド」(島田荘司さん原作)や「檻」(北方謙三さん原作)、「夜のオデッセイア」(船戸与一さん原作)くらいです。
作品一覧を見ると他にも何作かありそうですが。
同じ逢坂作品としては「カディスの赤い星」もありましたね。
それにしても、この辺の作品、今となっては聴くことは困難です。
どこかで聴けないものですかね。
不思議な2006年
さて、それはともかく、改めてみてみると、この作品が放送された2006年の新作ラインナップが全般的に異色です。
本作品同様に「中年アドベンチャー」の趣のある「プラハの春」と「ベルリンの秋」。
青春アドベンチャーでは数少ないハードSF「太陽の簒奪者」。
クライミングを扱った名作ノンフェクションを原作とする「垂直の記憶」。
奇抜な設定と特異なキャラクター造形が強烈な印象を残す「金春屋ゴメス」。
その他にも「死神の精度」など大人向けの作品が目白押しです。
一方で、「風神秘抄」、「精霊の守り人」、おいコーシリーズ最後の3作の一挙放送(優しい秘密、聞きたい言葉、夢のあとさき)など、若者向けの作品も怠りない。
まるでアドベンチャーロード時代が戻ってきたかのような充実したラインナップで、私にとっては「黄金の2006年」とでも呼ぶべき素晴らしい年です。
復活の年?
実はこの直前の2004年と2005年は青春アドベンチャーの新作の放送数が極端に少なかった年です。
私は、2006年は番組に「てこ入れ」がなされた結果、低迷期を脱した記念の年という認識でおりました。
しかしよく見ると前で述べたように作品チョイスも独特ですし、その他にも夕方の再放送がなくなったり(これは痛い)、年末恒例だったが藤井青銅さんの1年を振り返るオリジナルドラマがなかったり(1時間の特番として放送。翌年より青春アドベンチャー枠に復活)、色々なことが起こっていたようです。
制作側が新しい路線を模索していた時期なのかも知れません。
大人向けのお仕事もの
さて、本作品の内容は広告業界を舞台としたハードボイルド風の作品です。
ビジネスがテーマの言ってみれば企業小説ですが、何と言っても逢坂作品。
例えば「海に降る」のような、若者が仕事を通じて自己実現を図るような青臭い作品ではなく、一匹狼の中年男である主人公を通して業界の内幕を描く大人向けの渋い作品です。
ハードボイルドなので一応本ブログでの分類は「活劇」にしていますが、全編がピアノの旋律で彩られ、裏取引あり、暴力あり、女ありの展開で、サスペンス的な展開が続きます。
内幕もの
フィクションなのでもちろんドラマチックに脚色されているのでしょうが、逢坂さんご自身が広告代理店の出身と聞くと、何だかリアリティが増す気がします。
広告代理店出身者による業界もの、といえば喜多嶋隆さんのCFギャングシリーズ(CF愚連隊、ロンリー・ランナー)も同じパターン。
また、自らもTVアニメ草創期のスタッフだった福本和也さん原作の「魔の視聴率」にも通ずるものがあります。
なお、喜多嶋さんのCFギャングシリーズが、湘南、グアム、カリフォルニアといった広く明るい舞台のもとでの陽性なストーリーであるのに対して、本作品は現代東京の狭い地域、狭い世界で物語が進行し、舞台もバーやライブハウスといった夜の街。
好対照な両作品ですが、いずれも甲乙付けがたい出来です。
荒んだ雰囲気ではない
なお、上記ではハードボイルドと書きましたが、岡坂自身は積極的に暴力をふるうタイプではなく、崩れたような雰囲気もあまりありません。
一方、岡坂と対になる、もう一人の主役である浜西薫はヤクザ(正確には企業舎弟?)なので暴力も辞さないのですが、どこかフェアで憎めない性格になっています。
また、どういう訳か岡坂は作中の女性達にモテモテな訳ですが、大人どうしのシーンもあまり濃厚ではなく、ハードボイルドが苦手な人にも受け入れやすい作品だと思います。
それにしても岡坂さん、無防備すぎです。
一応警戒はしているようですが、秘密がばれちゃいけない時期はもうちょっと慎重に行動した方が良いと思います…
磯部さんの渋い声がぴったり
主人公の岡坂を演じるのは俳優の磯部勉さん。
声優としては洋画の吹き替えで有名です。
ラジオドラマでは、アドベンチャーロード時代の「さらばアフリカの女王」が印象的ですが、青春アドベンチャーになってからも多くの作品に出演されおり、最近では2011年の「魔岩伝説」や2015年の「know~知っている」に出演されています。
本作品は、主人公の独白のような形でナレーションも磯部さんが務められています。
少しナレーションが多めの脚本ですが、磯部さんの声のせいか、あまり気にならず、むしろハードボイルドぽい雰囲気がでて良かったと思います。
大橋吾郎さんの浜西がまた良し
また、準主役級の浜西は「謀殺の弾丸特急」の及川役も印象的な大橋吾郎さんが演じています。
少ししゃがれた渋い声の方で、荒事も平気でこなす汚れたヤクザでありながら、どこか純情な部分がある岡坂という男を巧みに演じていると感じました。
ヒロイン3人体制
女性陣は、ハルナ役の馬渕英俚可さんのほか、岸岡美帆子役の魏(ぎ)涼子さん、謎の女・藻塩(もしお)さぎりの麻生侑里さんも準ヒロイン級の扱い。
大人の女性3人が代わる代わる登場することが、特別なシーンがあまりあるわけではなくとも、作品が大人ぽい雰囲気になる役割を果たしています。
ちなみに、第8話では、女性陣の間で狼狽えてオタオタする磯部さんの、とてもカワイイ?演技が聞くことができます。お楽しみに。
そして綿引勝彦さん
その他、岡坂の味方(というほど頼りにならないが)のセントラル広告の佐竹部長を演じているベテランの勝部演之さんについても一言書きたいところですが、あまり長くなってもいけないので、ここは最後にもう一人だけ言及しておきます。
皆さんご存知の有名俳優の綿引勝彦さん。
本作品ではアウロラ電機の阿藤宣伝部長という役回りで出演されています。
いかにもぴったりの役で、私の頭の中では綿引さんの顔で映像が再生されています。
綿引さんは「闘う女。」にも出演されています。
レアスタッフ
スタッフは脚色がふたくちつよしさんで、演出が小林武さんです。
このスタッフも特殊で、まず、ふたくちさんについては青春アドベンチャーではこの1作しかご担当されていないようです。
様々な劇団に脚本を書いているベテランの脚本家さんのようですが、どういう経緯があってこの1作だけ青春アドベンチャーの担当をされたのでしょうか。
そして小林さんも青春アドベンチャーで5作品しか担当されていない演出家さんです。
本作品と同じ2006年に放送された「プラハの春」・「ベルリンの秋」の他、「不思議屋不動産」と「闘う女。」。
とても個性的な作品群です。
以下のブログによれば2009年6月にNHK本体を退職されているそうです。
小林さんのお名前で検索すると「利家とまつ」や「毛利元就」などの大河ドラマがでてきますので、主にTVドラマの演出を担当されていた方なのかも知れません。
http://mishibach.exblog.jp/11410252(外部リンク)
控えめなスタッフ?
最後にスタッフ紹介の仕方なのですが、もちろん原作者・脚本家は毎回名前が出るのですが、それ以外のスタッフは第1週の最後(第5話の最後)と最終話の最後しか紹介されません。
最近の青春アドベンチャーでは毎回スタッフ紹介をするのが通例ですが、少し昔にはこのようなスタイルが普通でした。
更に遡って「ふたりの部屋」の頃などは、結局、番組中で1回もスタッフ紹介がない作品もありました(例えば「グリーン・レクイエム」)。
昔のように控えめの方が良かったというつもりはないのですが、この作品、なぜかこの辺もちょっと昔っぽいつくりです。
コメント