手をつないだまま さくらんぼの館で 原作:令丈ヒロ子(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : 手をつないだまま さくらんぼの館で
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B+
  • 分類 : 恋愛
  • 初出 : 2019年5月27日~6月7日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 令丈ヒロ子
  • 脚色 : さわだみきお
  • 演出 : 佐々木正之
  • 主演 : 熊谷魁人

僕、学生作家のモドリ野颯太(もどりの・さった)は、入院した遠縁のおばあさんに代わって白桜館(はくおうかん)なる洋館を住み込みで管理することになった。
洋館と言っても木造2階建ての小さなもの。
大学休学中という暇な身にとって管理などお手のものだ。
そもそも、リア充高校生を主人公にしたお手軽な青春小説がいつまでも売れ続けるとは思えず、大学を休学して本格的に執筆に専念したいと思っていたところだったのだ。
だから、学生作家の身には不相応な平穏な執筆環境を手に入れられると思えば大歓迎、むしろ渡りに舟、まさに夢のような話だ。
でも平穏な生活は長くは続かなかった。
ある日突然、家原りりな(いえはら・りりな)と名乗る10歳の少女が現れたのだ。
彼女がいうには、りりなはおばあさんの孫で、そのおばあさんに白桜館に住むように言われたのだから、同じようにおばあさんから館の管理を任された颯大にはりりなを世話する義務がある、らしいのだが…



本作品「手をつないだまま さくらんぼの館で」は、講談社青い鳥文庫「若おかみは小学生!」シリーズで人気の令丈ヒロ子(れいじょう・ひろこ)さんによる小説をラジオドラマ化した作品です。

権威主義的ですよね、文学界って

「講談社青い鳥文庫」は、目がキラキラした漫画っぽい表紙絵に挿絵も満載のジュニア向けの新書版レーベルです。
スノッブな「本好き」からはほぼ黙殺されているようなレーベルですが、「若おかみは小学生!」シリーズは累計300万部と大ヒットしている作品。
さぞかし小学生には人気なのでしょう。
日本の大衆文学界って所詮エンタメ分野である割には権威主義的かつ保守的で、なんかみえないヒエラルキーみたいなものを感じます。
時代ものはOKだけどSFはダメとか、ライトノベルとかジュニア向けはもっとナシとか。
実際、SFはなぜか一度も直木賞を受賞したことがありませんし、ラノベやジュニア向け小説なども当然ない。
でも例えば村山由佳さんのようにこういうジャンル出身の小説家も別ジャンルでならちゃんと受賞している。

青春アドベンチャーは柔軟

なんか笑っちゃう状況ですが、その点、青春アドベンチャーはあまり拘りがない。
例えば、1980年代(前身番組時代)から少女小説(例えば「夢みるように愛したい」)やライトノベルの元祖(例えば「妖精作戦」)などを積極的に採用してきましたし、最近は同人小説まで手を広げています。
いわゆる「なろう系」まで手を出すのも時間の問題かも知れない。
「なろう系」、私、個人的にはほとんど興味はないのですが、番組スタンスとしては是非、積極的であって欲しいものです。

作家・モドリ野颯太はお悩み中

さて、本作品の主人公の颯太も、そういう日本文学界のヒエラルキーやカーストを感じているのか、自分の執筆作に自信のない学生作家です。
というのも、彼の作品は彼自身が自嘲気味に「日常の他愛もない出来事を描く」「のんきでちょっと泣ける学園もの」で「芸術的価値もないし、勉強にもならないし、ハラハラドキドキもしない」、「一冊2時間程度ですいすい読めちゃう」という作品。
確かに、リア充高校生の日常なんて特に読みたいとは思いません。

ハートフルコメディ?

だから、私自身、リア充(?)大学生・颯太が、突然現れた少女に振り回されるハートフルコメディーなんてものにも特に興味はない…といいたいところですが、本作品は実はそういう作品ではないようです。
序盤は白桜館(「はくおうかん」。どこかの都立高校みたいな名前ですね)なる洋館を舞台にほのぼのとしたタッチの物語が展開されます。
一瞬、「家守綺譚」か!…と思ったのですが、実際は「家守綺譚」以上に超常的な事柄も起きず毒にも薬にもならない展開。

中盤で急展開

ところが第4回に突如、展開が急変。
正直ここが前半の折り返しであってもいいくらいの急展開です。
そして、前半最後の第5回は急変した第4回を受けての状況説明回で、以降はこの回の状況を前提にストーリーは進みます。
ただ、前半終了間際にサスペンス的な展開も行けそうな雰囲気だったので、後半、もう一転、二転あるかなとも思ったのですが、そういう作品ではありませんでした。
…いや実はあったのかな?
最後、颯太の夢の中に、颯太が知らないはずの内容が出てきたことは、捉えようによっては隠された真相、あるいはファンタジックな要素の介在を暗示しているのかも知れません。
ただ正直、そこまで深読みしたい気分にはなれず、単純な悲恋ものとして受け取っていましたが。

アウト?セーフ?

そうそう、そういえばこの作品、このブログでは「恋愛」ジャンルに分類しています。
冒頭の紹介を読んだ方の中には「大学生と小学生」で「恋愛」ジャンルって大丈夫なの?と思う方もいらっしゃるかもしれません。
最近の青春アドベンチャーって、腐向きの作品とか、百合古典文学とか結構、その方面で攻めていたりもしますし、「夏の魔術」シリーズも何気に結構怪しかったですし。
でも…セーフ!セーフなのです、これ。
なぜセーフかを書きたいところですが本作品のストーリー展開の根幹にかかわるところなので、残念ながら省略せざるを得ません。すみません。
ただまあ、リアル小学生の子をもつ親としては、「いつもくっついていた」とか微妙な気持ち悪さはぬぐい切れませんが。

ちょい役…のはずないよね

さて、出演者はまず主役の颯太を演じるのは俳優の熊谷魁人(くまがい・かいと)さん。
「虚構の劇団」や「俳優集団「劇☆男」」といった舞台を中心に活躍されてきた方で、青春アドベンチャーは恐らく初出演だと思われます。
とても爽やかな語り口の方ですね。
また、ヒロイン?の家原りりな役は大川春菜さん。
役の年齢より少し上の13歳(2006年生まれ)。
年齢的にはまだ子役さんですが、すでにTVドラマ、映画などに多くの出演歴があるようです。
その他、内田健介さん(おいしいコーヒーのいれ方)や梅舟惟永さん(金魚姫)といった、過去作で主役級の役を演じていらっしゃった方が、序盤に端役で出てくるのが特徴です。
これって後半で重要な役で再登板があるのでは?と思いながら聴いていたのですが、案の定でした。
特に梅舟さんは後半で超重要な役を演じていらっしゃいます。


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コメント

  1. NabeQ より:

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    私はこの作品はとても感動しました。B+評価か… ちょっと寂しい。私的にはAAAです。
    前半のほのぼのした状況から一転、後半の展開が目まぐるしく、車で運転しながら聞いていましたが、涙が止まらず人をひきそうになりました。いつかまた再放送されたら、ぜひ聞いてみたいな、と思っています。(このブログの作成者様、情報ありがとうございました)

  2. Hirokazu より:

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    NabeQさま

    コメントありがとうございます。
    そして不快な思いをされたのならごめんなさい。
    私は前半も後半もそれぞれちょっと違う意味でどうにも受け付けない要素があったのですが、もちろん違う感じ方をされる方がいらっしゃることは理解しています。
    皆様に興味を持っていただく手段として勝手格付けをしているのですが、これはあくまで私の考え、というか感想にすぎないので、このように違うお考えの方が書き込みして頂けるとバランスが取れてとても嬉しいです。

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