人工心臓 原案:小酒井不木、作:長谷川彩(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : 人工心臓
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A+
  • 分類 : SF(日本)
  • 初出 : 2021年9月20日~9月24日
  • 回数 : 全5回(各回15分)
  • 原案 : 小酒井不木
  • 作  : 長谷川彩
  • 演出 : 富永康介
  • 主演 : 橋本淳

私、江戸川乱歩が探偵小説家として世に出ることができたのは小酒井不木の推薦によるところが大きい。
しかし、不木の体が弱いこと知っていながら彼に創作を進め、しかも晩年ろくに彼に手紙を書く事すらしなかった。
不義理をしたという負い目あればこそ、彼の全集の取りまとめを引き受けたのだが…
やはり不木の妻・久枝は私に腹を立てているのだろうか、あのような奇妙なことを言い出すなんて。
「人工心臓は実在致します…」



乱歩を世に出した男

皆さま、小酒井不木をご存知でしょうか。
1890年(明治23年)に生まれ、1929年(昭和4年)に38歳で亡くなった医学者・随筆家・作家で、医学・文学の両分野で功績を残した才人です。
文学面では、江戸川乱歩や横溝正史といった巨人に大きな影響を与えたほか、自ら執筆活動も行いました。
その小酒井不木の代表作のひとつが”日本初の純SF小説”「人工心臓」です。
ちなみに死後70年以上を経過しておりますので著作権の保護期間を過ぎており、青空文庫で読むことができますし(→こちら(外部サイト))、アマゾン・Kindle版でも0円のようです。

原典を大胆にアレンジ

本作品はその小酒井不木の「人工心臓」をラジオドラマ化した作品…ではなく、名古屋在住の劇作家・長谷川彩さんが小説・人工心臓を題材に作り上げたオリジナル作品です。
作中に小説「人工心臓」が重要な要素として使われており(というか小説「人工心臓」の解釈が作品の主要なテーマと思われる)、登場人物も乱歩や不木といった実在の人物に加え、小説「人工心臓」の登場人物もでてきますので、本ラジオドラマにおいて小酒井不木は「原案」という位置づけにされています。
登場人物について触れたついでに整理しますと、作品内の現実世界における「小酒井不木」・「妻・久枝」・「江戸川乱歩」の3人の関係は、小説「人工心臓」における「博士」・「妻・房子」・「記者」の3人の関係を模したものになっています。
しかし、作品内の時系列はさらに複雑で、「乱歩」と「久枝」が対話をする時間軸が主な舞台になるのですが、これに「博士」と「房子」の研究の様子や、「新聞記者」による「博士」の取材シーン、「不木」と「久枝」の過去のシーンなどが挟まる構成です。
正直、私自身、作品序盤を聴いていて何が何だかよくわかりませんでした。

意図的な雰囲気づくり?

これは、「久枝」と「房子」がともに古風な言葉で話す若い女性で紛らわしかったり、不木自身が作家であると同時に医学者でもあり実験くらいしていてもおかしくなかったりする状況から生じているのですが、長谷川さんはこの作品が持つ独特の怪しさを表現するために意図的にこんがらがるような構成にしたのかも知れません。
独特の怪しさといえば、静謐な音楽やSEなどいかにも名古屋局らしい雰囲気も、この作品によく合っていると思います。
SEに関していえば、少しホラーチックに使われている部分もあり、私自身がステレオが良く効く環境で視聴していたこともあり、SEが効果的過ぎてちょっとドキッとしてしまいました。
ただ、本作品を本ブログではホラーではなくSFに分類しています。
確かに人工心臓の作動原理についての説明は現代的ではないかも知れません。
しかし、この分類は小説「人工心臓」への評価に敬意を表したというだけではなく、科学と人間との関係を考えるのはSFの本質的なテーマの一つだと思うからです。
その意味で本作品に最も近い作品をひとつ挙げるなら最初期のSFとされているメアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」だと思います。
勝手ながら、人の命の意味を問うた「人工心臓」の作者である小酒井不木自身が夭折しているということが、この作品をつくるにあたり長谷川さんにインスピレーションを与えたのではないかと想像しました。

現在編の主演陣

さて、それでは出演者の紹介に移ります。
本作品、冒頭に書いたとおり2セットの登場人物がでてくるのですが、まずは現実編で演じられている出演者から。
主人公・江戸川乱歩を演じたのは俳優の橋本淳さん。
2005年「魔法戦隊マジレンジャー」で主役のマジレッドを演じた橋本さんですが、その後、テレビ・舞台で経験を積み、多くの賞も受賞しています。
青春アドベンチャーでは「あおなり道場始末」や「高天原探題」でも主演されています。
また小酒井不木を演じているのは舞台俳優の「みのすけ」さんで、「妻・久枝」を演じているのは女優の菅野莉央さん。

劇中劇編の主演陣

一方の「小説『人工心臓』の中」編で中心となるのは「博士」役の小林親弘さん。
小林さんは演劇集団円所属の舞台俳優ですが、同時にTVアニメ「ゴールデンカムイ」(杉元佐一役)などで活躍する声優さんでもあります。
調べてみたら青春アドベンチャーでは江戸川乱歩原作の「魔術師」にも出演されていたんですね。
不思議なご縁です。
また、「妻・房子」を演じるのは女優の天野はなさんで、「記者」は秋田卓郎さん。
これに噺家(=ナレーター)の瀧川鯉斗さんを加えた3人は名古屋局作品らしく愛知関係者です。


(補足)
当ブログで実施した2021年青春アドベンチャーリスナーアンケートで当作品が得票数第3位に輝きました。
詳しくは別記事をご参照ください。




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