王妃の帰還 原作:柚木麻子(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : 王妃の帰還
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A+
  • 分類 : 少年(中高)
  • 初出 : 2018年4月2日~4月13日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 柚木麻子
  • 脚色 : 中澤香織
  • 音楽 : 内山修作
  • 演出 : 小島史敬
  • 主演 : 小芝風花

滝沢さんのことを、私は心の中で「王妃」と呼んでおります。
もちろんホンモノの王妃ではありません。
キリスト教系の私立中学校といっても、所詮は現代日本。そのようなものがいるわけありませんから。
でも、クラスのトップに君臨する彼女は、私のような下層民の「地味子」からすると、やっぱり「王妃」なのです。
それも、傲慢、横柄、荒ぶるマリー・アントワネット的な意味で。
でも、今、そんな滝沢さんが、見たことがない姿を見せております。
あの「王妃」がクラスメイトの前で号泣するなんて…



本作品「王妃の帰還」は、「ナイルパーチの女子会」で第3回高校生直木賞を受賞している柚木麻子さんの小説「王妃の帰還」をラジオドラマ化した作品です。

高校生直木賞

「高校生直木賞」は2014年からスタートした賞で、直近1年間の(本当の)直木賞候補作から全国の高校生が候補作を選び、最終的には高校生の議論の上で選ばれる賞だそうです。
実は2017年に青春アドベンチャーでラジオドラマ化された「また、桜の国で」が第4回の受賞作にあたります。
過去、数々の文学賞(「直木賞」、「日本SF大賞」、「星雲賞」、「日本ファンタージノベル大賞」、「本屋大賞」など)の受賞作、受賞者に焦点を当ててきた(と思われる)青春アドベンチャーですが、これは新しい作品供給源になりそうですね。

私立の女子中学校が舞台

さて、本作品には「王妃の帰還」というちょっと大げさなタイトルがついているのですが、冒頭の粗筋のとおり、王妃といっても、過去を舞台にした歴史ものや、異世界を舞台にしたファンタジーではなく、現代日本の中学校を舞台にした作品。
王妃とはスクールカーストにおける最上位を比喩的に表した言葉です。
本作品のような、女性を主人公とし、彼女の学校内における人間関係(順位?)を巡る、立ち居振る舞いを描いた作品として、青春アドベンチャーでは、すでに2015年の「アグリーガール」や、2016年の「逢沢りく」がラジオドラマ化されています。

定評あるスタッフ

学校内の人間関係なんていう、ごにょごにょしたテーマ、面白くないだろう、という声も聞こえてきそうですが、個人的に「アグリーガール」はなかなか楽しめた作品でしたし、「逢沢りく」は当ブログが実施した2016年のリスナー人気投票で第1位を獲得した作品です。
本作品は、脚色が「ミラーボール」の中澤香織さん、演出が「エヴリシング・フロウズ」の小島史敬さんと、この類の作品に得意な方が制作していることもあり期待が募るのですが、さて実際の出来やいかに…

大げさなモノローグと荘厳な音楽

本作品を聴いていてまず気になるのが、主人公・範子のモノローグで構成されるナレーション。
彼女自身が「心の実況中継」と呼ぶなど、ちょっとメタフィクションっぽくすらあるモノローグですが、とにかく分量が豊富で言い方も大げさ。
冒頭におけるその感情豊かさは鬱陶しいほどですが、作品が経過するにつれ、演じる小芝風花さんが落ち着いてきたのか、あるいは聴いているこちらが慣れてきたのか、徐々に気にならなくなってきます。
大げさと言えば、内山修作さんの音楽がまた必要以上に荘厳!
カプコンのゲーム「バイオハザード」シリーズを手がけられた内山さんらしいといえば内山さんらしいのですが、洋画の予告編音楽を専門に制作するオーケストラ集団「Trailerhead」ばりの荘厳さです。

地味子グループの穏やかな日々

基本的に主人公グループ - すなわち、主人公でぼーっとしているようだがキレると怖い「ノリスケ」(演:小芝風花さん)、「カルト的人気を誇っている例のアレ」の話題を持ち出すなど立派なオタクだがグループのリーダー格で意外と如才ない「チヨジ」(演:八木優希さん)、趣味は賃貸物件のチラシ集めと恐ろしく地味だが精神的にはもっとも安定している「スーさん」(演:秋月成美さん)、留学生なのに「かまってちゃん」の「リンダ」(演:八城まゆさん)の4人 - は、クラスではマイノリティだけど、人を脅かさず、人に脅かされることもなく、「静かに、大人しく、波風たてない傍観者であれ」というスタンスを取ってきた「地味子」(じみこ)の皆さん。
しかし、トップの座を追われた「王妃」こと滝沢美姫をグループに迎えざるを得なくなり、彼女たちの平穏な学園生活は一変してしまいます。

王妃を王座に帰還させよ

大騒動を起こした当人のはずなのにあくまで居丈高な美姫に振り回される面々。
ついにその生活に耐えられず「王妃の帰還計画」をたてて美姫の信用回復を図るものの、クラスの新しいトップに君臨している黒沢さんから、逆に全員一緒に弾圧を受ける始末。
中盤まではどうなるものかハラハラしたものの、終盤になってでてくるノリスケの「革命」のカギとなる「あるネタ」が意外と大したことがなかったり(そもそも「革命だ」という割にはネタが他人頼りだし)、大騒ぎした割には割と丸く収まってしまったりして、「当人たちには大きな出来事でも、結局、お子様たちのコップの中の嵐だったんだなあ」とも感じました。
ただ、主人公グループの4人にそれぞれ見せ場があったり、やっぱり主人公ノリスケの言動が魅力的だったりして最後まで楽しく聞くことができました。
原作者さんへのインタビュー(外部サイト)を読むと、原作ではクラスは明確に5グループに分かれているそうです。
ラジオドラマ版ではせいぜい3グループなので、かなり省略されているのだと思います。
展開の物足りなさについては是非、原作も読んで確認しておきたいところです。

小芝風花さんの今後に期待

さて、本作品で主役のノリスケこと範子を演じるのは小芝風花さん。
朝の連続テレビ小説「あさが来た」での好演が評判のようですが、この朝ドラのオーディションでは主役の最終選考まで残っていたそうです(年齢が足りなかったらしい)。
NHK-FMでは2017年のFMシアター「唄娘」に主演されていますが、2017年の青春アドベンチャーの出演者人気投票では(FMシアターへの出演であり青春アドベンチャーには出演していないのに)彼女を推しているリスナーがいらっしゃいました。
小芝さん、とてもかわいい声をされており「唄娘」ではその声のかわいさを全面的に出した演技でしたが、本作品ではそれだけではなくノリスケの独特のしゃべり方を(多少オーバー気味)に演じられており、まだ20歳でもあり今後が期待できる幅の広さです。
ちなみに、このノリスケ、フランスの歴史好きという設定ですが、上記のマリー・アントワネットのほか、「ベルサイユ宮殿」、「特権階級の平民への弾圧」など、いちいちフランス革命に例えるのがおかしいです。

華やかなキャスト

その他、女子校が舞台で主人公が母子家庭であることもあり、担任の星崎先生(ホッシー)を演じる高橋光臣さん以外の出演者全てが女性という独特のキャスティング。
さらに範子の母を演じる櫻井淳子さんを除けば、美姫役の木下晴香さんはじめ若い女性ばかり。
公式ホームページの収録時の写真が華やかなこと。
しかも皆さんそれぞれ以下のとおり個性的な方々。

  • 木下晴香さん(19歳):日本テレビの視聴者参加型のカラオケ番組「全日本歌唱力選手権 歌唱王」で決勝進出の経験があり、2018年5月からはミュージカル「モーツァルト」への出演が決まっている。
  • 八木優希さん(17歳):テレビ初出演は生後4か月(仮面ライダーアギト)。子役時代を中心にすでに朝ドラに3度出演。
  • 秋月成美さん(21歳):第7回東宝シンデレラオーディション審査員特別賞受賞。ちなみにこの回の受賞者は、グランプリがFMシアター「沈黙とオルゴール」の上白石萌歌さん、ニュージェネレーション賞が「双子島の秘密」の小川涼さん。
  • 八城まゆさん(26歳):元?グラビアアイドル(是永真由さん)。
  • ついひじ杏奈さん(17歳):この方のみあまり情報が見つからず。これからの方なのでしょう。
  • 野本ほたるさん(21歳):2016年にミュージカル「美少女戦士セーラームーン」に主演(セーラームーン)。青春アドベンチャーでも「エド魔女奇譚」主演。

特別な存在ではなく、どこにでもいそうだけど、やっぱりそれぞれ独特な少女たちを生き生きと演じています。

舞台はあくまで架空です

ちなみに、上記の外部リンクによると、柚木麻子さんは母校(恵泉女学園中学・高等学校)の文芸部で指導をされているとか。
なんと贅沢な部活なのでしょう。
なお、本作品の舞台は母校がモデルではないことを明言されています。
キリスト教系の女子校と言っても様々で、プロテスタント系とカトリック系はかなり違うとか。


本作品が2020年5月5日に放送された「一日で聴く青春アドベンチャー」で一挙再放送されました。
詳しくはこちらをご覧ください。


■中澤香織さん関連作■
日常的な舞台でもチクチクするセリフが魅力的。
中澤香織さんの脚本、脚色作品の一覧はこちらです。





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