- 作品 : カナコと加奈子のやり直し
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : B+
- 分類 : タイムトラベル
- 初出 : 2022年3月21日~3月25日
- 回数 : 全5回(各回15分)
- 原作 : 額賀澪
- 脚色 : 西村有加
- 演出 : 前田悠希
- 主演 : 本田望結
高校三年の1月、教師を目指していた俺は教室のベランダで目の前を真っ逆さまに女子生徒が落ちていくのを見た。
あれから10年、俺は母校で教鞭をとっている。だが、あの頃の情熱はいつしかなくなっていた。
「教師に言って欲しいこと、して欲しいこと」を上手に演じているだけ。虚無。それが今の俺だ。
しかし、ある日、俺はあの時死んだ女子生徒 -石井加奈子- の伝説を知る。
石井加奈子は幽霊となって夜、校舎を徘徊しているというのだ。
そしてその出会いは突然訪れた。
「ぱんぱかぱーん!おめでとうございます。菅野先生はめでたくイシイカナコの『人生やり直し事業』の対象者に選ばれましたぁ!」
本作品「カナコと加奈子のやり直し」は額賀澪さん原作小説をラジオドラマ化した作品です。
もともとは「イシイカナコが笑うなら」というタイトルで2019年に発刊された書籍が文庫化に際し改題されたもので、上記の書影は文庫版のものです。
雪下まゆさんの装画
ところでこの書影なんとなく見覚えがありませんか?
実は同じ2022年の初頭にラジオドラマ化された浅倉秋成さんの「六人の嘘つきな大学生」や、昨年直木賞候補になり最近、版元の早川書房が大プッシュしている逢坂冬馬さんの「同志少女よ、敵を撃て」と同じ雪下まゆさんという方の装画のようです。
ご活躍されているようですね。
タイムリープもの
さて、本作品は主人公、菅野京平の精神だけが過去にもどる、いわゆるタイムリープものです。
広い意味でのタイムトラベル作品がたくさん制作されている青春アドベンチャーですので、タイムリープものも「元中学生日記」、「リプレイ」、「リテイク・シックスティーン」(←ちょっと怪しい)などいくつも制作されています。
菅野京平のやり直し?
本作品は幽霊が登場するという点でファンタジーぽくもありますし、時間移動の先が若き日の自分ではなく他人の体だったりするなど特徴的な点もありますが、過去に戻って人生のやり直しを画策するという点では典型的なタイムリープものです。
なおタイトルは「カナコと加奈子」のやり直しですが、実質的には菅野先生のやり直し。
でも最終的にはカナコと加奈子のやり直しでもある訳で、改題後のタイトルはよりストレートに内容を表しているようです。
キャラの聞き分けが難しい
さて、本作品を聴いた感想ですが…
微妙にわかりづらい。
まず序盤の1回・2回にメインで登場する女性が、幽霊のイシイカナコ(演:本田望結さん)と高3時代のクラスメイト、石井加奈子(演:本田望結さん二役)と塩原ユキノ(演:田中りるさん)なのですが、すべて若い女優さんが演じており、また序盤でそれぞれセリフがそれほど多くないこともあり誰がしゃべっているかわかりづらい。
また、男子に関しては高3の菅野(演:田中偉登さん)とその友人の細谷(演:犬飼直紀さん)がメインキャラですが、このふたりの声も紛らわしい。
内面の声、外面の声
特に今回、平埜生成さん演じる菅野京平が高3時代の他人の体の中に入る話であり、外向きに話している声はそのキャラの担当俳優が話しつつ、心の声(モノローグ)は平埜さんが話すという趣向です。
しかし、途中で心の声も高3時点の出演者が発声する場面もあり、それがこの作品の凝った点ではあると思うのですが、わかりづらさを倍加しています。
少し短すぎた?
また、原作を読んでいないので何とも言えないのですが、何となくストーリー自体が描写不足、説明不足の感を受けます。
「元中学生日記」のようにアッという間に現代に戻ってきたわけではなくそれなりに長く過去にいたようなのに過去の時間の積み重ね感に欠けますし、菅野京平の心情の変化も急すぎる。
また、最後の結末、あそこまでいけば加奈子の未来は別の形に変わらざるをえない気もするのですが…
ストーリーのつながりに無理がない脚本なので気が付きづらいのですが根本的に全5回という長さに無理があるように感じました。
でもスピード感を維持するためには全10回は長すぎるのかな。
難しいところですね。
本田三姉妹の次女?
さて、本作品、公式ホームページの出演欄の最初に記載され主演扱いとなっているのは女優・フィギュアスケート選手の本田望結(みゆ)さん。
姉の本田真凜さん、妹の本田紗来さんとともに本田三姉妹として知られていますが、実は芸能活動・フィギュア活動をしていないお姉さんがもう一人いらっしゃるそうです。
つらいよね、加奈子
本作品ではハイテンションのイシイカナコと、内気な石井加奈子という、外見は同一人物だけど性格は全く違う二役を演じています。
この構造は「世界から猫が消えたなら」における妻夫木聡さんの役柄と似通っているのですが、正直、これは妻夫木さんの演技力あってのキャスティング。
本作の本田さんは、序盤に出番の多いイシイカナコについては「はっちゃけた時の表現がいまいち自然じゃないなあ」と思って聴いていました。
ただ、中盤以降の石井加奈子の方、特に誰にも言えないでいた心の内を訴えるシーンにはなかなかの迫力がありました。
格付けの“+”は本田さんのこの演技分です。
実質的な主演は…
また実質的な主役と言って良い菅野京平を演じたのは俳優の平埜生成さん。
平埜さん自身まだ29歳なのですが、難役だった「カムパネルラ」や「ヨコハマ・ジャスミンホテル」で主演経験のある平埜さんの存在は、この若いキャスト陣の中で作品に安心感を与えているように感じました。
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