- 作品 : ドラマ古事記~神代篇~
- 番組 : 特集オーディオドラマ・青春アドベンチャー
- 格付 : C
- 分類 : 歴史時代(日本)
- 初出 : 2005年11月3日
- 回数 : 全1回(120分)
- 初出 : 2006年11月6日~11月17日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 作 : 市川森一
- 音楽 : 小六禮次郎
- 演出 : 真銅健嗣
- 主演 : 石坂浩二
平城京に遷都したばかりの大和朝廷では、時の権力者、右大臣・藤原不比等(ふじわら・の・ふひと)が新しい国造りの方策を練っていた。
不比等の考える新しい国は、漢文で国史を編纂し、大国・唐からも歴史ある律令国家として認められる国でなければならない。
そのために不比等は、国一番の碩学で、漢文の大家である太安万侶(おお・の・やすまろ)と、一度聞いたことは決して忘れないという驚異の記憶力を持つ語り部・稗田阿礼(ひえだ・の・あれ)に国史の編纂を命じる。
阿礼は、天武天皇の御代に国史の暗記を命じられた人物であるが、実は安万侶とも浅からぬ因縁があるのであった。
本作品「ドラマ古事記~神代篇(かみよへん)~」は、ラジオ放送80年を記念して作られたオリジナルラジオドラマで、元々はNHK-FMの「特集オーディオドラマ」として2時間の枠で放送されました。
ちなみにNHKは、第二次世界大戦後の1950年に設立された組織ですので、80年というのは、前身である社団法人東京放送局等が放送業務を開始した1925年から起算した年数のようです。
異例の2時間+市川森一脚本
さて、そういう経緯もあって本作品は色々と異例な作りになっています。
まずは放送時間。
FMシアターが通常、土曜日の夜に50分で放送されるのに対して、本作品は休日(文化の日)に2時間掛けて放送されました。
また、有名な脚本家であった市川森一さんによるオリジナル脚本が起用されています。
市川さんと言えばTVドラマ「傷だらけの天使」や映画「異人たちとの夏」(ラジオドラマ版はこちら)、NHK大河ドラマ「黄金の日々」などを手がけた著名な脚本家で、ワイドショーのコメンテーターとしても有名な方でした。
石坂浩二+江守徹+森繫久彌
また、出演陣も豪華です。
歴史上の実在の人物であり主役である太安万侶役は有名俳優の石坂浩二さんであり、彼と対立する藤原不比等役が江守徹さん。
江守徹さんは「神々の山嶺」のように割とラジオドラマに出演されているのですが、石坂浩二さんは最近のラジオドラマに出演されたという話を聞きません。
また、出演時間はごく僅かですが、「天の神(天の声)」という配役で、当代きっての名優として名高かった森繁久彌さんがご出演されています。
森繁さんはもともとNHKのアナウンサーですし、1957年から2008年の約50年に亘ってNHKラジオ第一の「日曜名作座」(2名の出演者がすべての役を演じる、やや簡略版のラジオドラマ番組)に出演されていたので、その面では違和感はありません。
でも、本作品が放送された2005年に森繁さんは90歳を超えており、「日曜名作座」も再放送ばかりで事実上終了している状況でした。
森繁さんの体調にも不安がある中であり(結局2009年に永眠)、やはり異例の出演だったと思います。
特集オーディオドラマ+青春アドベンチャー
そして、特集オーディオドラマとして放送された翌年の2006年に、15分×10回に再編集され、帯ドラマ番組である「青春アドベンチャー」で再度、放送されたというのも異例の流れです。
FMシアター系(単発ドラマ)と青春アドベンチャー(帯ドラマ)が関わり合った例としては、例年、青春アドベンチャーで放送されていた干支シリーズ(年忘れ青春アドベンチャー)のうち、2006年の「イノシシ ボンバイエ!」だけが特集オーディオドラマとして単発ドラマ枠で放送された例や、青春アドベンチャーで放送された「海に降る」の続編「星を掘れ!」が特集オーディオドラマとして放送された例はあります。
しかし、本作品の場合は同じ作品が編集され、別系統の番組で使い回された例であり、これらとは違います。
その他にも
いずれにせよ、その結果、若者向けの番組である青春アドベンチャーで森繁さんの演技が流れるという事態になりました。
若年層のリスナー向きの番組である青春アドベンチャー系の番組で、中高年のいわゆる大物俳優が起用された例としては、「夢源氏剣祭文」の仲代達矢さんや「おろしや国酔夢譚」の北大路欣也さんなどごく僅かな例しかなく、本作品のキャスティングの異色さは際立っています。
この他にも、NHKを代表する女性アナウンサーだった(本作時点ではすでに退職済み)加賀美幸子さんが語りをしているのも注目ポイントです。
2つのパートが同時進行
さて、本作は「ドラマ古事記」というタイトルに関わらず、日本最古の歴史書として知られる「古事記」の内容をそのまま辿っているわけではありません。
阿礼(演:戸田恵子さん)の語る神代の物語(=古事記の内容)と、奈良時代初期における不比等と安万侶の古事記編纂を巡るドラマの、ふたつのパートが交互に進行していく形式なのです。
独特のリズム
このうち、放送時間に占める割合が大きいのは前者の神代パート。
イザナギ・イザナミの国産みや、黄泉平坂、天の岩戸、八岐大蛇、因幡の白兎といった著名な逸話が続きます。
このパートは、阿礼とその仲間たちが安万侶に対して神代の物語を歌舞音曲とともに吟じているという設定です。
そのため、完全なストレートプレイではなく、古代風の拍子に併せて「語る」という印象の強い演出になっています。
具体的には、物語が歌や拍子による一定のリズムに乗って語られていきます。
その様子は、青春アドベンチャーの歴史上、有数の怪作として名高い「少年漂流伝」の“ヂャンヂャン☆オペラ”にも近い雰囲気です。
どうしても寝てしまう
ご存じのとおりの古事記の(特の序盤)はかなりファンタジックで浮き世離れした話です。
私、子供の頃、少年少女向きの古事記の本を何度も読んだのですが、神々の名前がカタカナか難しい漢字で表されているのが苦手で、ストーリー(と読んで良いのかわかりませんが)も熱中することが出来ず、いつも途中で飽きちゃうことを繰り返していました。
すっかり大人になった今、再度聞いてみたのですが、拍子に乗って歌うように語られる独特のリズムととても覚えずらいカタカナの神様の名前の連発で、どうにも眠気を抑えることができませんでした。
どうも私と古事記とはあまり相性が良くないようです。
ちなみにこのパート、山幸彦の話が終わり、初代の皇尊(すめらみこと)の名前が出てきた段階で、突然終わりを告げます。
そう、物語は次回作へと続いていくのです。
分量による制約
一方、後者のパートは、テーマがあり普通の演技で伝えられるため、前者のパートよりずっと分かりやすく通常のラジオドラマに近い内容です。
人間ドラマとしては、当初は同じ目的に向かって動いていたはずの藤原不比等と太安万侶の意識が徐々にずれを見せていくあたりが聴き所だと思います。
不比等が「漢文体でなくては唐の人間が読めない。それでは国史編纂の意味がない。」というのに対して、安万侶「漢文体ではこの国の心を伝えられない。この国の心が伝えられなくば編纂の意味がない」と反駁します。
二人の対立がどのような結末を迎えるのかは聴いてのお楽しみ、といいたいところですが、二つほど問題があります。
ひとつは、いかんせんこちらのパートの分量が少ないこと。
とても人間ドラマを楽しむというほどの分量がありません。
真銅作品のあわない方
個人的な感想ですが、本作品の演出を担当されている真銅健嗣さんはとても気に入った作品と全くピンとこない作品の両極端な作品が多いと感じさせられる方です。
前者の例としては、「闇の守り人」、「ラジオキラー」、「光の島」など。
後者の例としては、「穴(HOLES)」、「ごくらくちんみ(第2期)」、「幻坂」など。
本作品は残念ながら後者寄りの評価せざるを得ませんでした。
もう一つは、こちらのパートも尻切れトンボで終わっていること。
本作品の物語の続きは、翌年公開された「ドラマ古事記~まほろば篇~」を聴く必要があり、単体としてはきちんと完結していないのです。
ちょっと肩すかしでした。
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