星を掘れ! 原案:朱野帰子、脚色:永津愛子(特集オーディオドラマ)

格付:AA
  • 作品 : 星を掘れ!
  • 番組 : 特集オーディオドラマ
  • 格付 : AA-
  • 分類 : 職業
  • 初出 : 2013年7月27日
  • 回数 : 全1回(75分)
  • 原案 : 朱野帰子
  • 脚色 : 永津愛子
  • 音楽 : 小林洋平
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 川口覚

初島(はつしま)は、博士号の取得後に任期付きの研究職、いわゆる“ポスドク”として海洋研究開発機構(JAMSTEC)に勤務を始めた新米研究者だ。
JAMSTECでは、生命の起源を探る高峰の研究室を希望したが、なぜか資源探索のグループに配属されてしまった。
研究成果が全ての評価を決めるシビアな研究者の世界。
先の保証のないポスドクの身分のもと、自分の希望と違う仕事に追われる毎日の中で、初島の焦りは募る。
何より歯がゆいのは、誰よりも自分自身が研究に自信を持てないこと。
そんな初島にJAMSTECが誇る地球深部探査船「ちきゅう」に乗り込むチャンスが巡ってくる。
初島は自分の進む道を見つけることができるのであろうか。



初めてのFMシアター系の作品の紹介

本ブログはNHK-FMのラジオドラマの中でも平日の深夜に毎日15分ずつ放送されている、「青春アドベンチャー」などの帯ドラマの番組を主として取りあげるブログです。
NHK-FMにはもう一つ、土曜日の夜に1時間程度のラジオドラマの枠があり、通常はFMシアターという番組名で1話50分で完結する作品が放送されています。
FMシアターは青春アドベンチャーより文芸色が強く、また脚本家による書下ろしのオリジナルドラマが多いのが特徴の番組です。
このブログでもいずれはFMシアター系の作品も取り上げていくつもりでしたが、なかなか機会がありませんでした。
今回、ちょうど良い作品が放送されましたので、125作品目にして初めてFMシアター系の作品を取り上げてみることとしました。

青春アドベンチャーからのスピンオフ

というのも、この「星を掘れ!」は2012年に青春アドベンチャーで放送された「海に降る」のスピンオフ作品という位置づけの作品なのです。
海に降る」は朱野帰子さん原作の作品でしたが、本作品では朱野さんは「原案」とされており、「海に降る」の設定と登場人物の一部を借用したオリジナル作品となっています。
このような経緯をたどる作品は珍しく、本作品の他には、後年のヴィクトリア朝怪奇冒険譚(原作付きの3作品→ラジオドラマオリジナルの「黒十字の魔女」)くらいしか思い浮かびません。

主人公は研究者

さて、前作「海に降る」の主人公である天谷深雪は深海潜航艇のパイロットでしたが、本作の主人公である初島は研究者であり、前作では脇役だった研究者たちの人生にスポットライトが浴びせられています。
例えば、前作では独特のキャラクターで異彩を放っていながら、あまり出番のなかった天才科学者?目山が、準主役級に活躍します。
目山を演じているのは前作と同様に岡田達也さんですが、いきいきと楽しそうに演じられており、主役を食うような活躍ぶりです。

前作主人公コンビも登場

また、前作から引き続きの出演といえば、前作の主役コンビであった美雪と高峰も登場するところがちょっとしたファンサービスとなっており、前作を聴いていた人には嬉しい配慮です。
ふたりとも大塚千弘さんと多田直人さんという前作と同じ配役であり、聴いていてとても懐かしいです。
ちなみに、このふたりのうち美雪は顔見世程度のチョイ役なのですが、高峰は本作品でも結構重要な役どころです。
この高峰、前作ではかなり思いつめた行動を繰り返すトラブルメーカーだったのですが本作品ではすっかり落ち着いて丸くなっているのが笑えます。

そういえば「アレ」はどうなった?

それにしても前作のラストで美雪と高峰によりJAMSTECはとんでもない大発見をしているのですが、そのことは本作ではさらりと語られているだけであることにちょっと違和感がありました。
あれは相当大騒ぎになったはずなのですが…

父と子

さて、話を本作品に戻しますと、本作品のストーリーにも前作と同じように「父と子の関係」が大きな影を与えています。
母子家庭に育ち自分に自信が持てない初島が仕事を通じて、世の中を向き合っていくのがストーリーの骨子です。
主役の初島を演じているのは俳優の川口覚(さとる)さんで、主人公の性格からどうしても地味な役になってしまうのは致し方ないところですが、徐々に仕事に情熱をぶつける方法を見出していく初島をうまく演じていると感じました。

大塚明夫さんが雰囲気づくりに大貢献

ところで本作品、これも前作と同じなのですが、単なる”お仕事系”の話に終わらず、深海を相手とした冒険ものの趣もあります。
冒険ものの雰囲気をだすのに大きく貢献しているのが、探索作業を仕切っているプロの仕事人・水沢役を演じている大塚明夫さん。
多くのアニメで活躍されている方で、「ふしぎの海のナディア」のネモ船長「機動戦士ガンダム0083」のアナベル・ガトーなど「頑固で依怙地なプロフェッショナルの男」を演じさせたら右に出る者はいません。
「ふしぎの海のナディア」では、当初登場した時は宇宙戦艦ヤマトの沖田艦長ぽかった(というより沖田艦長のパロディそのものだった)ネモ船長が、再登場時にはキャプテンハーロックぽくなってしまった(というよりキャプテンハーロックそのものになってしまった)のは、実は監督の庵野秀明さんが大塚さんの外見を取り入れたためだそうです。凄い影響力だと思います。
実際、大塚さんが登場するだけで雰囲気が冒険ものになるのが不思議です。

親子共演は?

大塚さん、2013年のFMシアターでは「ニューワールド」にも出演されていますし、青春アドベンチャーでは過去に「王の眠る丘」に出演経験があります。
ちなみに大塚さんのお父さんである大塚周夫さんも超ベテランの声優さんで、アドベンチャーロード時代の「脱獄山脈」や「A-10奪還チーム出動せよ」などの名作に出演されていました。
是非、青春アドベンチャーでも親子共演をお願いしたいところです(注:2015年1月に大塚周夫さんが亡くなられ叶わぬ希望となってしまいました)。

スピンオフが良い結果を生んでいる

さてさて、またしても脱線してしまいましたが、本作品はやはり「海に降る」があっての作品だと思います。
前作の内容が背景にあることによって脇役までバックボーンが明らかですし、JAMSTECにとっては未知の生物などという高尚なテーマよりも資源探査を優先せざるを得ないという現実を示すことによって、逆に「海に降る」のストーリーも深みが出ます。
75分一挙放送と前作よりは短い作品ですが、聴いている私が登場人物たちになれていることもあり、前作以上に楽しく聞くことができました。
なかなかの良作です。

シリーズものは良い

やっぱりシリーズものは良いなあと再認識させられた作品でした。
青春アドベンチャーには「バッテリー」など途中で中断されたままのシリーズ作品がたくさんあります。
勿体ない!
是非、続きを制作してほしいものです。

連動企画

ところでこの作品はFMシアター”系”の作品ではありますが、厳密にはFMシアターではなく「特集オーディオドラマ」と銘打って放送されました。
というのも同時期にNHKスペシャル(テレビ)で放送された 「シリーズ 深海の巨大生物」や国立科学博物館で開催中の特別展「深海」と連動した企画なのだそうです。

  • 「シリーズ 深海の巨大生物」
    第1回 伝説のイカ 宿命の闘い(2013年7月21日)
    第2回 謎の海底サメ王国(2013年7月28日)
  • 特別展「深海 -挑戦の歩みと驚異のいきものたち-」(2013年7月6日~10月6日)

なかなか面白い企画ですね。


★本文内のリンクについて★

紹介したオーディオドラマに関連した様々な作品に興味を持って頂きたく、随所にリンクを設置しています。
なお、アマゾンの画像リンクについてはこちらのご注意事項もご参照ください。

格付:AA
シェアする

コメント

タイトルとURLをコピーしました