- 作品 : 幻坂
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : C+
- 分類 : 幻想(日本/シリアス)
- 初出 : 2014年3月3日~3月14日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 有栖川有栖
- 脚色 : 下表のとおり
- 演出 : 真銅健嗣
- 主演 : 山野史人
ミステリー作家として有名な有栖川有栖さんの小説を原作とするラジオドラマです。
ただし、本作品「幻坂」は推理小説ではなく(第3話のみ少しだけその要素がある)、一種のファンタジー小説です。
青春アドベンチャーは「人気作家の有名作」といった、直球ど真ん中の作品をあまり扱わない(ひょっとして予算の問題から扱えない?)傾向があり、本作品も青春アドベンチャーらしい「ずらし具合」のチョイスだなと感じます。
舞台は天王寺七坂
さて、本作品は大阪の上町大地にある「天王寺七坂」を舞台として、日常生活のふとした合間に出会う、不思議な出来事を綴った連作短編集です(制作はNHK大阪局)。
全部で8編の短編から構成されており、第1週の最後と第2週の最後だけ前後編の2回で1話になる作品ですが、その他は1回で完結します。
また、全8話のうち第1話から第7話までは現代劇、最終第8話だけは松尾芭蕉を主人公とした時代劇です。
ちなみに「大坂七墓」を舞台にした作品は「なにわ純情ナイトメア」。
「天王寺七坂」と「大坂七墓」、ちょっと似てますよね。
脚本は分担
さて、この作品で特徴的なことは、5人の脚本家が分担して各話を担当していること。
このような「連作短編集で単一原作者・多数脚本家」、というパターンは青春アドベンチャーの長い歴史の中でもほとんど例がないはずです。
…はずなのですが、実は本作品の次に放送された「あなたがいる場所」も同様の形式です。
これは青春アドベンチャーの新しい制作方針なのでしょうか?
気になるところです。
ただし、本作品の場合、5人の脚本家の中でも、第1話と最終話を含む4話(6回)を山本雄史さんが担当していますので、実質的に山本さん中心の作品ではあります。
主役格は山野史人さん
本作品の各話ごとの概要は以下のとおりです。
本作品は主役を務める出演者も各話毎に異なるので、それぞれ主役級の登場人物を務めた出演者も併記しました。
なお、出演者では、第1話と最終話で主役を演じている山野史人さんが全体の主役格でしょうか。
山野さんは劇団青年座所属の俳優さんで、 初井言榮さんの元夫(死別)でもあります。
実は近年の青春アドベンチャーに老人役で多くの作品に出演(本作品初出の2014年では「砂漠の歌姫」、再放送の2020年では「鬼煙管 羽州ぼろ鳶組」など)されている名バイプレイヤーさんですが、主演格でご出演されているのはこの作品くらいだと思います。
大路恵美さんもさすが
また、同じく合計3話で主演されている大路恵美さんの安定感のある演技も印象的です。
青春アドベンチャーではライフシリーズで多くの役を演じている大路さんですが、本作品では、特に第6話と第7話で、生きている側と死んだ側、状況も性格も反対の(執着していることでは同じ)役を演じています。
いずれもなかなかの熱演で、ラジオドラマ慣れしている感じを受けます。
◆第1話 : 清水坂
出演 : 山野史人、川本美由紀、屋島昂太、瀬尾真優
妹のように可愛がっていた少女の記憶を語る老人。そしてその前に現れる幻。
◆第2話 : 愛染坂
出演 : 上田康人、内山絢貴
書くことができなくなった小説家が愛染坂で遭遇する出会いと別れ。
◆第3話 : 源聖寺坂
出演 : 大路恵美、堀内正美
少年の幽霊がでる家と、彼とそっくりの少年が描かれている源聖寺坂の絵の関係は?
◆第4・5話 : 逢坂(前編・後編)
出演 : 城土井大智、中道裕子
死者の姿を見ることができる劇団員の男性。しかし、暫く前に他界した、妹のようにもそれ以上にも思っていた女性の姿だけは、なぜか見ることができない。
◆第6話 : 縄坂
出演 : 岸本華和、福留彩加
思春期の女子高生が縄坂(くちなわざか)で出会う心の揺らぎと猫と怪異。
◆第7話 : 真言坂
出演 : 大路恵美、木内義一
7年間、ここ来ればいつでも会えた“あなた”。でも今日は…
◆第8話 : 天神坂
出演 : 大路恵美、堀内正美
自殺した女、その男、そして心霊専門探偵が不思議な小料理屋で語り合う。
◆第9・10話 : 枯野(前・後編)
出演 : 山野史人、寿大聡
元禄7年、俳聖・松尾芭蕉は二つのことで苦しんでいた。ひとつは弟子達の不仲、もうひとつは自分にしか見えない不思議な人物と枯野のこと…
大人向きの落ち着いた作品
第1話から第7話の各話がそれぞれ天王寺「七」坂のうちの一つと対になっており、最終第8話だけが「枯野」という坂に関係ないタイトルになっています。
一応、各話とも坂の特徴やいわれに引っかけて話が作られていますが、必ずしも坂との関係を重視したストーリーではなく、大人の男女が人生の一場面で出会うちょっとした怪異を描くファンタジーです。
主人公達も第6話の女子高生を除けば皆大人であり、大人ならではの悲哀や情感が作品のメインテーマになっています。
また、構成も各話ともに詰め込みすぎず薄すぎず、ストーリーも雰囲気に逃げすぎず分かりやすくきちんと各話毎に完結していますので、安心して聴くことが出来ました。
もう少し仕掛けがあっても
ただし、第3話と第8話で同じ心霊専門探偵が出てくる以外は、各話はほぼ独立しており、個人的には各話の登場人物達がもう少しクロスオーバーするような試みがあるともっと面白いのにとは思いました。
ただ、そういう構成上の仕掛けを楽しむ作品ではないのか知れません。
…というわけで、それなりの好感触の作品ではあるのですが、正直言って、青春アドベンチャーの作品としては如何にも地味すぎます。
敢えて言えばFMシアター向きかな。
このような作品を敢えて青春アドベンチャーに持ってきてしまうのは真銅健嗣さん演出作品らしいところかも知れません。
なかなか渋いラインナップ
それにしても本作品が放送された2014年2月から3月の時期は、「機械仕掛けの愛」から始まって、「秘密の花園」、本作品「幻坂」、「あなたがいる場所」、「旅猫リポート」、そして「ピエタ」の再放送。
作品の出来はともかく(「ピエタ」など傑作ですが)、とにかく地味なラインナップが続いた時期でした。
楽しみな真銅作品
さて、本作品を演出されているのは今も書いたとおり真銅健嗣さんです。
青春アドベンチャーでは1999年の「封神演義」で初めて演出を担当され、2003年から2012年までは毎年、1作品以上を担当されていました。
「封神演義」のほか、「妖異金瓶梅」、「垂直の記憶」、「ドラマ古事記」など独特な企画の作品が多い方で、個人的には真銅作品の放送を楽しみにしていたのですが、2012年の「蜩ノ記」を最後に、2013年には1作品も担当されませんでした。
青春アドベンチャーの担当を離れられたのかな、と少し残念に思っていたのですが、本作品で久しぶりにお名前を拝見して嬉しい次第です。
今後も期待しています
ただ、本作品、大阪局の制作ですので、やっぱりイレギュラーな登板なのかも知れません。
今後も是非、続投して頂きたいものです(注:その後レギュラー的な演出陣に復帰しています)。
そしてお願いついでで恐縮なのですが、是非「闇の守り人」の続編もお願いしたいものです。
尻切れとんぼで終わらすにはあまりに残念な作品ですので。
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