元中学生日記 作:鹿目由紀(青春アドベンチャー)

格付:AAA
  • 作品 : 元中学生日記
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AAA
  • 分類 : タイムトラベル
  • 初出 : 2019年8月19日~8月30日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 作  : 鹿目由紀
  • 演出 : 中村周祐
  • 主演 : 佐野岳

俺は加藤優(ゆう)。名古屋市に住む29歳4か月・独身。
いずれ本格舞台俳優になる男であるので、当然、スーパーでバイトをしているのは世を忍ぶ仮の姿にすぎない。
ある日、中学時代の親友、原道隆(はら・みちたか、通称「ハラミ」)に再会した俺はハラミから焼却処分したはずの中学時代の日記を渡された。
そんな黒歴史などさっさと闇に葬ろうとしたのだが、ふとしたきっかけで、その日記帳に不思議な力があることに気が付く。
なんと日記の文章を消すと、日記を書いた時点にタイムリープすることができるのだ。
この日記さえあれば俺は人生を整えることができる!
29歳の時点で、凄い、凄い、とっても凄い大物、すなわち世界を股に掛ける大スターになれるはずだ!
そしてスターに美女はつきものだ。
まずは星野美里だ!俺に必要な女なんだよ、星野美里は!



「中学生日記」を知っていますか?

「中学生日記」といえば1972年から40年間に亘ってNHKで放送されていた名物TVドラマ番組。
武田鉄矢さん主演の「三年B組金八先生」や水谷豊さん主演の「熱中時代(教師編)」といった同時代の民放制作学園ドラマが、主人公を教師とし、エンタメ志向が強かったのに対し、「中学生日記」はあくまで生徒が主役で、内容もドキュメンタリー色・道徳色の濃い番組でした。
個人的には(恐らく道徳の時間に)録画を学校で見せられ随分と気恥ずかしい思いをした覚えもあり、あまり良い印象がないのですが、改めて調べてみると、中学生の日常をリアルに再現するために、学生役の子たちのほとんどが素人というすごい番組だったのだそうです。

実は本家と関係あり

さらに調べてみると、この中学生日記はNHKの中でも名古屋局が制作していたとのこと。
実は今回紹介するラジオドラマ「元中学生日記」も名古屋局の制作。
なんと、脚本を書いた鹿目由紀さんが昔「中学生日記」の脚本を書いていたことがあるほか、出演者にも「中学生日記」の出演経歴のある方が多数いるとのこと(吉原雅斗さん、多田木亮佑さん、天田将行さんなどが確認できました)
以上の経緯から本作品を「タイムリープものとはいえ、これはちょっと堅い話かな」と思ったのですが…

唖然茫然

とんでもない!
というか、なんじゃこりゃ?というくらいの軽いノリ。
アラウンド30の夢追い人(自称「将来の本格舞台俳優」)が日記を消すだけでカジュアルにタイムリープを繰り返すものの、「○○じゃないかーい!」(お前は髭男爵か)とあっさり過去改変に失敗することの繰り返し。
というか「デュエル、俺たちのターン!」って、これ「遊☆戯☆王」パロディですよね?
名古屋局は2018年にも、ラッパーになった小早川秀秋の亡霊とトルコ行進曲に乗って登場する大谷刑部の亡霊(演:藤岡弘、)が対決する「メゾン・ド・関ケ原」なる怪作ラジオドラマを制作しているのですが、どうしたんだ、名古屋局。
そういえば本作の中でも実に微妙なラップシーンがあるのですが、これが(質はともかく)ラップを前面に押し出した「メゾン・ド・関ケ原」以上の分量。
名古屋って今、ラップが流行っているんですかね???

抱腹絶倒

…念のため言っておきますが、褒めているんですよ、いやホント。
素晴らしいテンポの作品なのです。
青春アドベンチャーで学生時代にタイムリープする作品としては「リテイク・シックスティーン」(本当にタイムリープしてるかは?ですが)なんかが思い出されるのですが、行きっぱなしの「リテイク・シックスティーン」などと比べると、実に簡単にタイムリープして、あっさり帰ってくる展開で、放送1回15分の間に何度も過去に行っちゃうので、物語がさくさくと進んでいきます。
鹿目由紀さんの書いた膨大な量のモノローグやセリフをハイテンションに演じる佐野岳さんの演技もなかなかお見事。
わざとらしい棒読み調のセリフ回しもコメディととらえるとむしろ効果的。

佐野岳さんが予想以上

佐野岳さん(愛知県一宮市出身)って、「仮面ライダー鎧武/ガイム」に主演された凄いイケメンさんのイメージしかなかったのですが、コメディ路線もいけるじゃないですか。
とにかく佐野さん演じる主人公・加藤優がチャラいキャラであるのに、彼から不快な感じを受けないのは、佐野さんの演技に嫌味がなく、チャラさが魅力につながっていることが大きな原因だと思います。
それにしても、個人的には、モノローグやナレーションに頼らず演出と効果音で引っ張っていくラジオドラマ(「妖精作戦」とか)が好きなのですが、ラジオドラマが一種の話芸であるのも事実。
高速展開をマシンガンのようなモノローグを軸に進めていく鹿目さんの脚本技術と佐野さんの演技には正直、脱帽しました。
本作品の出来は本当に予想以上でした。

甲斐田ゆきさんイケボ

さて、話を登場人物と出演者に戻しますが、その他の登場人物もなかなか個性的で出演者も興味深いです。
後半のキーキャラクターとなった親友(?)のハラミ(演:森田甘路さん)のほか、「天才・豆もやし」こと豆田俊輔(演:榊原優希さん)もなかなか面白いキャラクター。
女性陣では、ヒロイン?の星野美里を演じる「春を待つ音」主演の横田美紀さんや、マルチ商法?にはまっている少女・井田さなえを演じる犬塚あさなさん(名古屋局恒例のSKE枠?今回は「元」だけど)も、印象的なのですが、やはり今作では伊藤を演じる甲斐田ゆきさんかな。
男っぽい声を出すときと女子高生の声の時で全然違うのが、俳優さんとは違った意味での演技力。さすがにプロの声優さんだと思います。
ちなみに甲斐田さんは青春アドベンチャーがスタートした1992年に放送された「都会島のミラージュ」にも出演されていました。
1992年といえば甲斐田さんがまだアニメに出演されるようになる前。
しかもこの「都会島のミラージュ」では甲斐田さんの特技を生かし、セリフの総てが英語という役。ある意味ファン必聴です。

結末も気持ちがいい

さて、個人的には、折角、事件の真相を知り、主人公たちの協力者となる豆もやしと伊藤が終盤、あまり活躍しなかったのが残念ですし、タイムパラドックスの処理もわかったようなわからないような。
ただ、本作品は本格的なSFではないので、そこに拘るのも違うような気がします。
最終回をほぼ丸1回、エピローグに使った構成(「北壁の死闘」などもそうでしたね)も、気持ちの良い締めにつながっていると思います。
ただ、演技に関しては正直、全員あまり中学生には聞えませんよね(高校生くらいな感じ?)。
王妃の帰還」などでもそうでしたが。

スタッフ紹介

最後にスタッフですが、脚本が鹿目由紀さんで、演出が中村周祐さん。
鹿目さんは2012年の「私の彼はポアンカレー」以来2度目のオリジナル長編
個人的にはポアンカレーが今一つあわなかったため期待していなかったのですが、本作はイイ感じです!
「世界で一つだけの花」の歌詞がどうしても好きになれない私としては「もともと特別なワーストワン」というセリフには笑いました。
また、演出の中村周祐さんは、当ブログで実施した2018年のFMシアター人気投票で1位だった「踏切の向こう側」を演出された方です。

名作です

本作品、最後まで能天気な明るさと気持ちの良いテンポは損なわれないのですが、結構まじめな要素も含んでいるので後半は前半よりはシリアス寄りになります。
個人的に浅田の行動を鹿目さんがどう解釈するのかは気になっていました。
両津勘吉(「こちら葛飾区亀有公園前派出所」)が言っていたように、「真面目になったワルはごく普通に戻っただけであり、それを立派というのは甘やかし。ずっと頑張っている正直で正しい人間の方が偉いに決まっている」というのが正論であることはゆるぎないのですが、本作での処理はこれを超える可能性のある新しい対処法だと思います。
まあ、タイムリープできないと実現しないのですが。


(補足)
本作品は、当ブログが年末に実施した2019年のリスナー人気投票で第1位の得票を得ました。
本作品のほかに人気だった作品にご関心のある方は別記事をご参照ください。





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