帰ってきた男 作:池澤夏樹(特集サラウンドシアター)

格付:B
  • 作品 : 帰ってきた男
  • 番組 : 特集サラウンドシアター
  • 格付 : B
  • 分類 : 幻想(海外)
  • 初出 : 1990年1月6日
  • 回数 : 全1回(60分)
  • 作  : 池澤夏樹
  • 音楽 : 水谷川忠俊
  • 演出 : 斎明寺以玖子
  • 主演 : 沢田研二

彼は「帰ってきた男」。
中央アジアの奥地にあるという「砦」を目指して、1年前に出発したたった6人の探検隊。
しかし、帰ってきたのは彼ひとり。
4か月後に方向違いの砂漠をひとりでうろついているところを発見されたのだ。
彼はなにも語ろうとしない。
いやそれどころか戻ってきてから何ひとつ言葉を発しなかった。
しかし、今日、ついに彼は語り始めた。
「僕は帰って来たくなかった」
「僕は入れてもらえなかった。彼は入れたのに。」
一体なにが起こったのか?



芥川賞作家・池澤夏樹さんの脚本によるラジオドラマです。
池澤さんは「スティル・ライフ」(芥川賞受賞作、1995年・FMシアター)、「南の島のティオ」(2002年・青春アドベンチャー)、「キップをなくして」(2006年・FMシアター)、「静かな大地」(2011年・FMシアター)、「氷山の南」(2012年・青春アドベンチャー)と、多くの作品がNHK-FMでラジオドラマ化されていますが、これらの作品と本作品「帰ってきた男」との最大の違いは、本作品がラジオドラマ用の書き下ろし脚本であること(のちの小説化、短編集「マリコ/マリキータ」収録)。
本作品の放送は芥川賞受賞(1998年)の2年後ですので、いろいろと方向性を模索していた時期なのかもしれません。

主演はジュリー

そして本作品で主役を務めたのは「ジュリー」こと、沢田研二さん。
沢田さんはもちろん歌手なわけですが、NHK-FMでは本作品のほか「家族の声」(海外ラジオドラマ特集・1982年)、「ボリス・ヴィアンの”うたかたの日々”」(1989年・FMシアター)、「星条旗の聞こえない部屋」(FMシアター・1993年)にも出演しており、実はラジオドラマへの出演歴はかなり豊富です。
NHKが使い慣れた原作者に、評価の確立した演者。
実は本作品は、NHK-FM50周年記念番組である「今日は一日“ありがとうFM50”三昧~オーディオドラマ編」における放送作品のひとつにも選ばれているのですが、評価が高いのも納得です。

あまりに文学的

…納得ではあるのですが…
端的にいって私には内容が大人しすぎました。
中央アジア・カラコルム近くの未知の砦跡を探検する、というあたりで冒険ものっぽい要素を感じられる方もいらっしゃると思います。
しかし、現地近くで事故にあい、早々に生き残りが二人だけになるというアクシデントが起こって以降は、ようやくたどり着いた砦でひたすら内省的な話が続きます。
絶えず風が吹き、幻想的な音楽?歌?のようなものを奏でる不思議な地で、幻想と現実の境目がわからなくなっていく、主人公とピエール(もう一人の生き残り)。
「自分」であることをやめ、大きな何かに溶け込む選択をするピエールと、そうはできない(しない)主人公。

即物的な人間には難しい

作品世界を過度に抽象化することはしない池澤さんの作風ゆえに、聞いていて理解できなくなるようなスノッブな純文臭さは感じないのですが、私はどちらかという主治医さんの意見の方が素直に聞けるかなあ。
人間はみなエゴイストだし、孤独だし、だからこそ自己と他者を分別したまま優しくなれるのが人間の偉いところなのだろうと。
そもそも、見たままを信じるとか、本当に溶け合うとか、そういったあたりに胡散臭さを感じてしまう貧しい人間なんですよ、私は(ちょっとやさぐれ気味)。

演者3人が作る雰囲気

ただ、やはりジュリーはいいのですよ。
朴訥とした話し方でありながら、どこか声に色気がある。
そして、本作品のヒロイン?である主治医を演じるミュージカルスターの鳳蘭(おおとり・らん、元宝塚星組トップスター)さん、ピーター役の岩下浩さん(作品のほぼ全体がこの3人のやり取りで構成される)と併せて、癖のない素敵な雰囲気に作品になっています。
また「風」や「音」がキーファクターとなる作品ですので、サラウンド効果を生かしたFM放送向きの作品であったともいえると思います。

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