2018年「火喰鳥 羽州ぼろ鳶組」から始まった今村翔吾さん原作の羽州ぼろ鳶組シリーズのオーディオドラマ化。
2024年、遂に前半の集大成ともいえる第7弾「襲大鳳 羽州ぼろ鳶組」にたどり着きます。
ただし「襲大鳳」は原作では第11巻(上)及び12巻(下)。
つまりここまで4作品がオーディオドラマ化から漏れていることになります。
「黄金雛」は必読だが…
漏れている4作品とは「九紋龍」、「狐花火」、「双風神」、「黄金雛」。
このうち「黄金雛」は「羽州ぼろ鳶組 零」のサブタイトルのとおり主人公・松永源吾の若き日の姿を描いた外伝作品なのですが、実は「襲大鳳」に直接つながる内容であり、これなくして「襲大鳳」を十分に楽しむことは不可能です。
ただ、これに関しては、脚色の丸尾聡さんによる放送前の発言のとおり、必要な部分をある程度、オーディオドラマ版「襲大鳳」に盛り込んでおりました。
ま、頑張って結構盛り込んだような・・・
— 丸尾聡 (@maruosatoshi) February 18, 2024
今回の応援企画
そこで今回は羽州ぼろ鳶組応援企画の第3弾として、オーディオドラマ版しか聴いていないリスナーさんに作品世界をより豊かに感じて頂くための手助けとして作品放送前に「九紋龍」、「狐花火」、「双風神」の概要とオーディオドラマ版で省かれている要素、そしてこの3作品の大まかなストーリーを以下のとおり紹介しました。
また「黄金雛」についてはオーディオドラマ版「襲大鳳」を聴取後にそれを補足する観点から追記しています。
なお、いうまでもないことですが原作を読んでもらうのが一番。
お時間のある方は(なくても)是非原作をお読みください。
小説自体が面白いだけではなく、オーディオドラマ版のキャストの声でセリフが脳内再生されてとても楽しいです。
(注)ストーリーの概要はネタバレを防ぐために折りたたんでおきますので、読みたい方だけお読みください。
(参考:今までの応援企画)
各作品紹介
前後のつながりがわかるようにオーディオドラマ化済みの作品も一緒に記載します。
火喰鳥 羽州ぼろ鳶組
「火喰鳥(ひくいどり)」は火消羽織の裏地に鳳凰を縫い付けている主人公・松永源吾の通称であり、同時にすべての登場人物たち、そして江戸の街自体の喪失と再生の物語である本シリーズを象徴する言葉。
この第1作は、ぼろ鳶と揶揄された男たちの物語の始まりであり、源吾の新庄藩火消組の頭取就任から明和の大火までが描かれた。
寅次郎、彦弥、加持星十郎がぼろ鳶組加入。
オーディオドラマ化済みで詳細はこちら。
夜哭烏 羽州ぼろ鳶組
「夜哭烏(よなきがらす)」とは「八咫烏」の異名をとる源吾の最大のライバル、加賀鳶の大頭・大音勘九郎のことであり、本作品は彼の生きざまを中心に描いた作品。
源吾が浪人になった経緯は原作では「火喰鳥」に記載があるがオーディオドラマではこちらで描かれた。
ぼろ鳶組のラストピース・武蔵(たけぞう)が参加。
オーディオドラマ化済みで詳細はこちら。
九紋龍 羽州ぼろ鳶組
オーディオドラマ化されていない。
「九紋龍(くもんりゅう)」は水滸伝の英雄・史進の異名だが、本シリーズでは「に組」の頭・辰一の呼び名である。
タイトルロールの辰一のほか、極悪盗賊集団・千羽一家、仁正寺藩の柊与市、大文字屋(大丸)の当主・下村彦右衛門、そして戸沢藩の御連枝(藩主の従弟で臨時の執政)である戸沢正親が初登場。
辰一自体はオーディオドラマ版ではこの後「玉麒麟」で登場することとなるが、彼の粗暴な態度や他の火消を排除しても管轄を専守するという奇行の理由、背中に描かれた刺青の龍のうちなぜ一頭だけ色が入っていないのかといった千羽一家との因縁も含めたバックボーンは本作を読んでいないとわからない。
下村彦右衛門はすぐ次の関西篇「鬼煙管」で必要なキャラのため出演シーンの「お披露目会」ごとオーディオドラマ版「鬼煙管」の中に移植されている。
また柊与市はオーディオドラマ版では「菩薩花」が初登場になったが、本作品は顔見世程度であり省略されてもあまり違和感はない。
一方、千羽一家と戸沢正親についてはオーディオドラマ版ではその後も登場なし。
千羽一家は一橋治済や土御門泰邦と並ぶ本シリーズを代表する悪役となるようだが、少なくとも物語の折り返し地点である「襲大鳳」までの間では決定的な役割を果たさないため省略されたものと思われる。
あらすじ(クリックで展開・ネタバレ注意)
ぼろ鳶組の後援者・田沼意次が、幕政を壟断しようと暗躍する一橋治済と江戸城で対峙していた頃、松永源吾もまた大きな2つの敵と対峙していた。
ひとつは御連枝・戸沢正親の倹約政策。
新庄の人々は貧しい。しかし人への思いやりを忘れはしない。
懸命に江戸の人々の命を救い続けたぼろ鳶組を新庄の人々は誇りと認めてくれた。
それなのにご連枝様は鳶の俸給は半減し、さらには方角火消のお役御免を願い出るというのだ。
もうひとつは最強の町火消にして、江戸の暴風龍・辰一の奇妙な行動。
管轄地域のみを守ることを身上とする「に組」がなぜ管轄外に出張ったうえで野次馬狩りを始めたのか。
そして京都西町奉行の長谷川平蔵から更なる凶報がもたらされる。
火事を陽動に商家に押し入り家人を惨殺する凶賊・千羽一家が江戸に立ち戻るらしいのだ。
出動を制限されたぼろ鳶組はこの事態に対処できるのか。
悪戦苦闘を続ける源吾はやがて辰一と千羽一家の深い因縁にたどり着くことになる。
鬼煙管 羽州ぼろ鳶組
「鬼煙管(おにきせる)」とは鬼の平蔵こと長谷川平蔵を表す言葉で本作品はその言葉通りの衝撃のラストを迎える。
京都西町奉行に栄転したぼろ鳶組の理解者・長谷川平蔵の要請を受けて出向いた京都での事件が描かれる作品で「双風神」につながる上方シリーズの第1弾。
以降、角を突き合わせながらも共闘しあうことになる探索の天才・銕三郎(てつさぶろう)が登場。
オーディオドラマ化済みで詳細はこちら。
菩薩花 羽州ぼろ鳶組
「菩薩花(ぼさつばな)」は江戸でも有数の人気を誇る火消番付西の関脇・進藤内記の異名「菩薩」から。
この進藤内記のほか仁正寺藩「凪海」の与市など、各火消組の名物火消が続々登場。
一方、江戸社会の裏で暗躍する悪の枢軸の姿が徐々に姿を見せはじめ、「黄金雛」「襲大鳳」の序章的な色彩もアリ。
オーディオドラマ化済みで詳細はこちら。
夢胡蝶~羽州ぼろ鳶組
「夢胡蝶(ゆめこちょう)」の胡蝶は吉原の花魁・花菊や時里のことと思われ、その花菊の夢を叶えることを約束した、ぼろ鳶組イチの色男・軽業師にして纏師(まといし)の彦弥を主役に据えた作品。
オーディオドラマ版ではなぜか本作のタイトルのみ「~」が挟まる。
オーディオドラマ化済みで詳細はこちら。
狐花火 羽州ぼろ鳶組
オーディオドラマ化されていない。
「狐花火(きつねはなび)」は、明和の大火の犯人「狐火」と呼ばれた花火師・秀助のことを表す言葉であり、第1作「火喰鳥」で描き切れなかった犯人側の思いが再度描かれる。
「隻鷹」詠兵馬、「蝗」秋仁を始めとして過去に登場済みの有名火消が大活躍する。
特に、最も謎多き火消「唐笠童子」日名塚要人や、「火喰鳥」で登場後すぐに殉職してしまったベテラン「白狼」金五郎、江戸の救急救命士「白毫」燐丞、オーディオドラマ版ではほぼ省略されてしまっている「不退」の宗助あたりのキャラクターが丁寧に描かれている。
また次代を担う藍助や慎太郎、慶司、そして「襲大鳳」の最重要キャラクター伊神甚兵衛も登場。
ただ「夢胡蝶」や「玉麒麟」のような特定のキャラの魅力に焦点を当てた構成でないこと、クローズアップされるのが第1作「火喰鳥」ですでに処刑された秀助でありストーリーが停滞したような印象を受けることから、初見の際にはやや地味だと感じた。
しかし再読すると本作品は「繋ぐ」作品だったのだと感じる。
すなわち、始まりの物語「火喰鳥」における犯人・秀助と、前半の集大成「襲大鳳」の重要キャラクター・伊神甚兵衛をつなぐ物語。
そして、源吾の前の世代である金五郎や松永重内と源吾や宗助などの現役世代、そしてこれから火消として頭角を現すであろう藍助、慎太郎、慶司をつなぐ物語でもある。
さらに「火喰鳥」では駆け足で描かれざるを得なかった秀助の心情を描いている点では「火喰鳥」の完結編ともいえるかもしれない。
あらすじ(クリックで展開・ネタバレ注意)
田沼意次の肝いりで始まった「鳶市」。
特定の藩に人材が頼らないことを目的とした鳶のドラフト制度だが、その当日、各組の組頭が鳶市出席のため組を不在にしている際に怪火が発生。
鳶市会場から、主将:大音勘九郎、副将:松永源吾、風読み:進藤内記、纏番:漣次など各組の組頭で構成される火消オールスターズが出動して事なきを得たものの、その後も連続火付事件は続く。
いつしかこの怪火の容疑者として、その手口の巧みさ、多様さから明和の大火の犯人・秀助の名が挙がるようになるが、秀助はもとより既に処刑されているはずである。
それともまさか秀助は生きているとでもいうのか。
一方、火消を狙って喧嘩を吹っ掛ける正体不明の「番付狩り」が出没。
次々と番付火消が闇討ちを受ける事態となる。
火消にまつわる二つの事件は関係があるのか。
そのころぼろ鳶組と田沼意次により陰謀を阻まれた一橋治済は新たな闇のネットワークを構築しつつあった。
そしてその中には火消の栄光と闇を一身に体現したある伝説の男の姿があった。
玉麒麟 羽州ぼろ鳶組
「玉麒麟(ぎょくきりん)」の麒麟とはいうまでもなく「新庄の麒麟児」鳥越新之助。
新庄藩の次代の宝にして読者人気ナンバー1のぼろ鳶組の成長株・鳥越新之助が主役。
府下十傑に選ばれる剣士でもある新之助が主役なだけにチャンバラが多い作品。
オーディオドラマ化済みで詳細はこちら。
双風神 羽州ぼろ鳶組
「地上の星」たるを志し草庵を出でて火消の世界に飛び込んだぼろ鳶組の諸葛孔明・加持星十郎が表紙を飾った作品だが、残念ながらオーディオドラマ化はされていない。
「双風神(ふたつふうじん)」の由来は明らかにはされていないが、本作では終盤に大災害・緋鼬(あかいたち=火炎旋風)に対抗するため、風読みを2人配置するフォーメーションをとることから、その2人の風読みを表すものと思われる。
「鬼煙管」に続く上方シリーズの第2弾で、源吾と肝胆相照らす淀藩常火消の野条弾馬、京都の闇の支配者・土御門泰邦、六角獄舎に囚われる知の巨人・野狂惟兼、からくり師七代目平井利兵衛こと水穂といった「鬼煙管」のキャラクターが再登場する。
彦弥の「夢胡蝶」、新之助の「玉麒麟」がオーディオドラマ化されたのに、星十郎の「双風神」がパスされてしまったのは星十郎ファンとしては残念だが、考えてみると星十郎(と武蔵)の活躍回だった「鬼煙管」が既にオーディオドラマ化済みではある。
加えて、大阪の5組の町火消の頭たちと、淀藩の副頭取・花村拓以外にはこれといった新キャラがおらず、彼らも地理的な問題から本編に登場しづらいことを思えば、本筋優先の中では本作品をキャンセルするのも仕方なかったのかもしれない。
しかし本編の終盤で、大阪組の近々の再登場が匂わされていることを考えると、ぼろ鳶組世界の全体を追ううえではやはり欠かせない作品。
あらすじ(クリックで展開・ネタバレ注意)
幕府と朝廷の暦の編纂を巡る争いが激化する中、幕府は形勢を逆転するために天文家・加持星十郎を京都で行われるの改元の権を巡る争論に参加させることを決定する。
同じころ大阪では、めったに発生しないはずの怪現象・緋鼬(あかいたち)が続発。事件解決のために風読み・加持星十郎の招聘が決定する。
緋鼬(火炎旋風)は「火喰鳥」や「狐花火」で火消を悩ませた朱土竜(あけもぐら=バックドラフト)を遥かに超える対処困難な災害だが、此度の大阪では同時発生した複数の火事のうちの一つを消火した瞬間に生まれることから、何者かが意図的に発生させている考えられた。
2つの使命を帯びて源吾、武蔵と共に上方へ向かった加持星十郎だが、緋鼬の猛威と周到に計算された発生方法に手も足も出ない。
しかも大阪を守る5組の町火消たちはお互いに対立関係にあり、この未曽有の困難にも連携して対応することができない。
朝廷との争論の時期も迫る中、星十郎は天文家として宿願を果たすのか、火消として目の前の事件に死力を尽くすかの選択を迫られる。
黄金雛 羽州ぼろ鳶組 零
シリーズ初めての外伝的作品で、時系列は第1作「火喰鳥」より以前に遡り、松永源吾の若かりし日々が描かれた。
先に述べたようにオーディオドラマ化されていないが、一部の要素が「襲大鳳」に取り入れられている。
序章と終章を除くと6章構成だが、このうち第1章のみが宝暦3年(1753年)、松永源吾13歳時の話であり、残りの第2章から第5章部分が宝暦6年(1753年)、松永源吾16歳時の話である。
このうち本編となる後者の時点で、松永源吾を始めとした同年代の一群の優秀な若手火消たちは「黄金の世代」と呼ばれおり、源吾自身も後の異名「火喰鳥」ではなく「黄金雛(こがねびな)」と呼ばれていることがタイトルの理由となっている。
ちなみに源吾以外もまだ若い頃の呼び名であり、秋仁は「稚蝗(ちこう)」、漣次は「小天狗(こてんぐ)」、辰一は「空龍(くうりゅう)」、勘九郎は「黒烏(くろがらす)」、そして片目を失う前の詠兵馬は「鷹眼(おうがん)」と呼ばれているが、内記は当時も「菩薩」である。
物語としては、毒煙を発する危険な火事が続発する中、彼ら若手の火消たちは未来の江戸を守る貴重な人材としてベテラン勢の取り決めにより火事場から遠ざけられてしまう。
しかし、血気盛んな彼らはむしろそれに憤慨し、結託して取り決め破り、事態に介入していく姿が描かれる。
この「若い頃に一緒に馬鹿をやった仲間との絆」がのちの「襲大鳳」での隠し味となっていくのだが、残念ながらオーディオドラマ版ではそこは期待できないので、是非原作を読んで補完して頂きたいところ。
なお、ストーリーとしても「襲大鳳」の前日譚の要素が強く、事の発端である「尾張藩火消壊滅事件」と「大学火事」の2つの事件が描かれてるが、オーディオドラマ版では「襲大鳳」の冒頭で「大学火事」の、第10回(+第11回)で「尾張藩火消壊滅事件」の、それぞれクライマックス部分が描かれている。
つまり原作小説では読者は事件の真相を知っている状態で「襲大鳳」を読むという「倒述ミステリー」的な描き方であったのに対し、オーディオドラマ版では「襲大鳳」を聴きながら真相を知っていく通常のミステリー形式である。
そのため「黄金雛」のあらすじを書くことはオーディオドラマ版の構成に水を差す形になるので、あらすじは省略することとする。
今後の行方
そして「襲大鳳(かさねおおとり)」につながっていきます。
「襲大鳳」が何を表す言葉かは聞いてのお楽しみです。
ちなみにその後の原作小説は「幕間」と付記され中編3編で構成される「恋大蛇(こいおろち)」のみ刊行済みです。
今後後半戦の刊行が予定されており、執筆が待たれます。
■ぼろ鳶組シリーズ一覧
松永源吾とぼろ鳶組は今日も火事と戦う、ただ江戸の街を守り、人々の命を救うために。
- 火喰鳥 羽州ぼろ鳶組
- 夜哭烏 羽州ぼろ鳶組
- 鬼煙管 羽州ぼろ鳶組
- 菩薩花 羽州ぼろ鳶組
- 夢胡蝶~羽州ぼろ鳶組
- 玉麒麟 羽州ぼろ鳶組
- 襲大鳳 羽州ぼろ鳶組
- お互いの呼び方で解説する新庄藩火消組
- 通称・異称で紹介する江戸の火消たち
- オーディオドラマ化から漏れた作品を補完する
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