- 作品 : うらぼんえの帰還兵
- 番組 : FMシアター
- 格付 : B
- 分類 : 家族
- 初出 : 2021年9月4日
- 回数 : 全1回(50分)
- 作 : 中澤香織
- 音楽 : 谷川賢作
- 演出 : 真銅健嗣
- 主演 : 池下リリコ
夏休みに家族で小田原のおばあちゃん家を訪ねるのは毎年の行事。
でも今年はひとりだ。お母さんは用事で来られない。お父さんと話し合いをするから。
それに今、お母さんは性格のキツイおばあちゃんと話す気力がないのだろう。
ひとりで訪ねてきた私をおばあちゃんは早速、お墓参りに連れて行った。
そこでわたしは墓に寺坂幸次郎という38歳で亡くなった人の名前を知る。
おばあちゃんに聞くと、この人はおばあちゃんのお父さん、つまり私のひいおじいちゃんだという。
ひいおじいちゃんは戦争から帰ってきた後、心を病み、その人生の大部分を精神病院で過ごしたらしい。そんな話は初めて聞いた。
いるけど、いないみたいな透明人間にされてしまったひいおじいちゃんのこと、おばあちゃんは話したくないみたいだけど…
本作品「うらぼんえの帰還兵」は中澤香織さんの脚本によるオリジナルドラマで、NHK-FMのFMシアターで放送されました。
盂蘭盆会(うらぼんえ)とはいわゆる「お盆」のことです。
NHK-FMでは終戦記念日を中心とする夏の暑い時期に戦争関係の作品を放送することが多いのですが(青春アドベンチャーにおける戦争関連作はこちら)、本作品は戦争関連作であるとともにお盆関連でもあり、実際に9月初旬に放送されました。
戦争神経症
テーマは一応、戦争神経症(戦争ストレス反応、戦争後遺症)です。
戦争神経症とは、戦争という極度のストレスを経験した兵士が陥る心理的障害(不眠、うつ、幻聴など)のことです。
1980年代にアメリカでベトナムからの帰還兵に多発したことから本格的に研究されるようになりました。
日本では割と単純な娯楽作品と捉えられていたシルベスタ・スタローン主演の「ランボー」もこれを扱っていましたね。
もちろんそれ以前から存在し、旧日本軍でも起こっていたのですが、「皇軍の恥」と臆病者扱いされ、公に語られることは少なかったようです。
詳しくはこのドラマとほぼ同時期に公開されたNHKのこちらのページをご覧ください。
「50年間、口外してはならない 極秘調査・兵士たちの”心の傷”」(外部リンク)
戦争ものではない
…というシリアスな背景はあるのですが、本作品自体はその”傷”を詳細に浮かび上がらせるというより、登場人物たちのその後の人生及び今に重ねて間接的描くような作品です。
あくまで作品の中心は祖母の悔い、母の悩みといった今日的な問題であり、戦争神経症はあくまで背景。
戦争を描く作品としては手ぬるい感もありますが、戦争を今と地続きの問題と捉えられるという点では意味のある作品だと思います。
脚本の中澤香織さんはオリジナル(ミラーボール、志願と拒絶など)でも脚色(王妃の帰還、嘘の木など)でもピリピリするようなセリフが印象的な方で本作品でも「昔の私が採点される」などきついセリフもありはするのですが、全般的に穏やかでしみるような作品で、それもイイなと思いました。
出演者紹介
さて主役の小学6年生・薮内里紗を演じたのは女優の池下リリコさん。
本作品放送時12歳なのでまだ子役と言われる年齢ですが、実は「パプリカ」を歌うFoorinのコーラスダンスを務めていた方で、紅白歌合戦への出場経験があります。
その他、木野花さんや魏涼子さんといったベテランが脇を固め、さらに最近すっかり戦争の語り部的な役柄が多くなった津嘉山正種さん(沖縄出身)まで出演されています。
津嘉山さんといえば、アニメだと兵藤和尊(カイジ)や、間桐臓硯(Fate/stay night)などすっかり化け物役が板についていますがあらためて聞くとやっぱりいい声。
当ブログで紹介した作品では恐らく「脱獄山脈」(1985年)がもっとも古い出演作品ですが、40年近く後の今でも活躍されているのは嬉しいですね。
■中澤香織さん関連作■
日常的な舞台でもチクチクするセリフが魅力的。
中澤香織さんの脚本、脚色作品の一覧はこちらです。
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