- 作品 : シャドー81
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : C
- 分類 : サスペンス
- 初出 : 2022年4月3日~4月14日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : ルシアン・ネイハム
- 脚色 : 三上幸四郎
- 音楽 : 和田貴史
- 演出 : 吉田浩樹
- 主演 : 落合モトキ
1972年5月。泥沼の戦場と化したベトナムから1機の試作戦闘機とひとりの米国空軍パイロットが姿を消した。
試作機の名前はTX-75Eバンバイア、パイロットの名前はグラント・フィーリング大尉。
米国が誇る最新鋭戦闘機とその操縦士が再び姿を現したのは米国本土ロサンゼルス郊外、ハワイに向かい飛び立ったジャンボジェット機PGA81便の背後だった。
そしてPGA81便にピタリと張り付いたTX-75Eから驚きの宣言がなされる。
「こちらはPGA81便の影、シャドー81。機長、あなたの機はたった今乗っ取られた。指示に従わない場合は撃墜する。要求はただひとつ。ベトナム戦争の即時停戦だ。」
本作品「シャドー81」は1975年に発表されたルシアン・ネイハムのサスペンス小説を原作とするオーディオドラマです。
戦争の時代?
ベトナム戦争に決着がついたサイゴンの陥落が1975年4月ですので、原作小説はまさに同時代を描いた作品だったことになります。
この50年前の作品を今更オーディオドラマ化した背景として、どうしても2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻を思い起こさざるを得ません。
とにかく!無条件で!侵攻をやめるべき、というのは全くもっともですし、本作品は主人公グラントの恋人であるジェニファー(演:朝倉あきさん)の言動を通じてそれを訴えるべく制作されたのではないか、と聴取を始める前は思っていたのですが…
勘違い?
なんだか違う気がします。
確かに冒頭1、2回はそのような気配もありますし、公式HPもそういう方向で意識を誘導しようとしているようには感じます。
しかし、前半を聞いた感じとしては、同じ吉田浩樹さん演出の作品でいうなら、主人公が任務とヒューマニズムの間で揺れ動くシリアスな作品だった「鷲は舞い降りた」より、至極真面目なストーリーをオーバーな演技でコメディタッチにしてしまった「柳生非情剣」に近い方向性を感じました。
悲壮感とは少し違う
まず、落合モトキさん演じる主人公グラント・フィーリング大尉が軽い。
一生懸命悩んではいるのですが、結局彼女に嫌われたくなくてやっている観がぬぐえない。
折角の軍人主人公なのですから、もっと怒りを押し殺しつつ、それでも漏れ出る感情を表現して欲しかった。
シュペングラー(北壁の死闘)やモーガン大佐(暗殺のソロ)やヒロタ少佐(ドラゴン・ジェット・ファイター)やマックス・モス(A-10奪還チーム出動せよ)、そしてシュタイナ(鷲は舞い降りた)がそうであったように…
スラップスティック
また周りの人々の動きもスラップスティック(ドタバタ劇)的すぎる。
折角、ハドレー機長(演:古河耕史さん)やケイシー・ブレイガン主任管制官(演:千葉雅子さん)といった味のあるプロも登場するのに、小山剛史さん演じるローレンス・ハーモン大将や朝倉伸二さん演じるバーニー・オールコット、そしてがスーザン・エンコ(演:澤田育子さん)あたりの演技が大げさ&コミカル過ぎてそちらの印象に引っ張られてしまいます。
コメディ要素を否定しないが扱いは難しい
戦争物でコメディ要素をまぜるのは例えば漫画家・新谷かおるさんなんかがうまいのですが、あくまでコメディとシリアスをひとつの場面転換で一瞬で切り替えられる技術があってこそ。
そして戦争という残虐行為に対するまっとうな感性があってこそです。
正直本作品のような背景及びテーマの作品に、このようなかたちでコメディをまざることにあまり意義は感じませんでした。
例えば(これはあくまで個人的な意見ですが)今回、いつになく抑えた感じの山崎たくみさんの演技のように、こういう作品では洋画吹き替え風の渋い大人の演技が聞きたいのですよ。
まあギレン・ザビそのものだった銀河万丈さんのニクソン大統領が聞けたのは収穫でしたが。
テロリストなのか?
そして展開されるストーリーが荒唐無稽なのもちょっと。
そもそもハイジャックの要求が「ベトナム戦争の即時停戦」というのが無茶なわけですがそれはまあフィクションなのでよいとして、そのストーリーにリアリティを持たせるのがフィクションの醍醐味でしょう。
しかし残念ながら少なくともこのオーディオドラマ版ではそれを感じませんでした。
それどころか即時停戦が無理なら金塊を要求するとか、宝石強盗をするとか、どうなんでしょうか。
ディテールに拘って欲しい
また細かい作戦についても、わざわざ原子力潜水艦まで持ち出して、結局、使う兵器がチープすぎる(あの作戦で本当に敵機だけを打ち落とせると思っているのか?大丈夫か米軍?)。
ついでにいうとTX-75Eの形式番号や性能もちょっと疑問。
Tって練習機の番号ですよね。
まあ「バンバイア」という愛称はありそうですが(一時期、マグドネル・ダグラス社の飛行機には「ファントム」とか「バンシー」とか「ブードゥー」とか「ゴブリン」とかそっち系の名前ばかりついていました)。
あくまで個人的な感想です
…などと散々に書いてしまいましたが、以上はあくまで私個人の評価。
原作を見て少し期待しすぎてしまったのかもしれません。
そもそも評価の高いスラップスティックな海外サスペンス(ウエストレイク原作の踊る黄金像、二役は大変!など)があまり好きではない私の意見ですので、割り引いて考えて頂けたらと思います。
<各回のサブタイトル>
- プレイボール
- 即時停戦せよ
- 誇りのために
- 季節外れのサンタクロース
- 原子力潜水艦浮上せよ
- 待ち伏せ
- サンタクロースの正体
- ファントムアタック
- ドッグファイト
- ラストダンス
【近代から現代にかけてのアメリカ合衆国を舞台にした作品】
第1次世界大戦後に完全にイギリスから覇権国家の座を奪い取ったアメリカ合衆国。
その発展期から現代までを舞台にした作品の一覧はこちらです。
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