- 作品 : 絶句
- 番組 : ふたりの部屋
- 格付 : B-
- 分類 : スラップスティック
- 初出 : 1984年10月1日~10月12日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 新井素子
- 脚色 : 岡本螢
- 演出 : (不明)
- 主演 : 横沢啓子
あたし、新井素子は小説家志望の大学生。
新人賞に応募するための小説を書いていたら、あたしの書いている小説の登場人物達が目の前にあらわれたの。
完全無欠のヒーロー一郎、ミスターレディの拓、人の恋心を自由に操れるアモール、言語学の天才・信拓、そして人猫と吸血鬼の混血の美弥。
みんな、あたしの設定そのままの姿だし、設定どおりの特殊能力も使えちゃう!
どうも、あたしは紙に書いただけで超能力者を量産できる、世界的なVIPになっちゃったみたいなの。
一体どうしたらいいの~
…うーん…冒頭の作品紹介、どうですか?
ライトノベル風の文章、難しいなあ。
新井素子さんと「ふたりの部屋」
さて、気を取り直して、SF作家・新井素子さんの初期の代表作「…絶句」をラジオドラマ化した作品の紹介です。
本作品は1970年代から80年代にかけて放送されていた、NHK-FMの「ふたりの部屋」という番組で放送されました。
「ふたりの部屋」は新井素子さん原作のラジオドラマを5作品も制作した番組でした。
具体的には本記事末尾のリストの上から5作品が「ふたりの部屋」の作品です。
荒唐無稽なキャラ設定
さて、本作品は、現実世界に実体化した小説の登場人物達がドタバタ騒動を巻き起こす話です。
青春アドベンチャーで、本作品と同様にフィクションの登場人物が実体化するという作品としては、成井豊さん原作の「サンタクロースが歌ってくれた」や越水利江子さん原作の「月下花伝 時の橋を駆けて」があります。
ただし「サンタクロースが歌ってくれた」は、江戸川乱歩(平井太郎)や芥川龍之介といった実在の人物がモデルのキャラクター達が実体化するのに対し、本作品では「完全無欠のヒーロー」や「超能力者」や「吸血鬼」と言ったフィクション性が高いキャラクターが実体化しますので、巻き起こす騒動も一段と荒唐無稽です。
ストーリー展開も荒唐無稽
その他にも、素子を確保しようとする複数の謎の組織、謎の宇宙人、謎の次元管理官など(謎ばっかりだ)、様々な要素がありすぎて聴いていて混乱してしまいます。
また、ストーリーも、突然、一家が全滅してしまったり、吸血鬼の美弥が突飛な提案を始めたりと転々としていくのでついて行くのが大変でした。
そして、極めつきは、この作品は作者自身が登場するメタ構造を持っていること。
ネタバレ防止のため詳細は省きますが、第5話の終盤で作者と登場人物が駆け引きをする、頭が痛くなうようなシーンがあります。
環境過激派
また、個人的に特に気になったのが、美弥を中心としたメンバーが引き起こそうとする「動物革命」。
この作品が制作された1980年代前半であれば「地球の主権を人類には任せておけない」、「人間より動物(=自然)を優先すべき」という一種のアナーキズムは新鮮な驚きがあったのかも知れませんが、ラディカルな環境保護活動家などというものが現実に存在するようになった今となってはあまり新鮮味はありません。
そして「動物革命」のために起こす行動も、猫が東京へ行進したりするもので、どうにも意味不明だし、結末も尻きれトンボです。
そもそも、人類の一員として、動物革命の趣旨自体もあまり共感できませんし。
枠が狭すぎた?
ただし、この動物革命、本作品のタイトルである「絶句」につながる重要な要素(人間だけが自然を変えられる、動物は自然に対して絶句している)ですし、神にも対抗するという反骨的なテーマもやはりSFらしいと感じます。
でも、全体として何となくしっくりこない感じは拭えませんでした。
本作品の原作は上下2巻に亘る大作のようです。
本ラジオドラマに盛り込まれている要素を考えると、やはり15分×10回のラジオドラマで放送するにはやや無理があったのかも知れません。
野良猫の不妊手術について
あと、話は飛びますが、私も一時期悩んだのですが、捨て猫の里親募集をされている方の文章などを読んで自分なりに色々考えた結論として、現代の日本において猫の不妊手術はある程度仕方がないことだと考えています。
繁殖能力という、生物として最も根源的な存在意義を奪うことにどうしても後ろめたさは拭えませんし、猫の幸せなどというものを人間が考えること自体の傲慢さも感じます。
しかし、そういった心のしこりも含めて人間がこの問題を直視し、責任を負うことが必要だと思います。
脱線なのでこの話はここまで。
クロスオーバー?
なお、本作品で登場する「第13あかねマンション」は、別にラジオドラマ化された「二分割幽霊綺譚」の舞台でもあります。
原作では多少のクロスオーバーもあるらしいですが、ラジオドラマでは殆ど単なる舞台設定で、両作品間のつながりは感じられませんでした。
なぜか立教大学
また、本作品では「西武池袋線」という路線名を始めとして、池袋線沿いの具体的な地名が何カ所も出てきます。
これは新井素子さんが練馬区ご出身だからなのですが、なぜか大学名だけはR大学とされていました。
いうまでもなくこれは新井さんの母校・立教大学だと思いますが、一応、NHKなので固有名詞に配慮したのでしょうか。
そういえば「フルネルソン」の「りっけい大学」も明らかに立教大学がモデルだったし、「窓辺には夜の歌」の「聖ルカス大学」も池袋にあるという設定だったので立教大学がモデルなのかな。
なぜか青春アドベンチャーは立教大学率が高いなあ。
主演は横沢啓子さん
出演は、「主役の新井素子」役を声優の横沢啓子(現在の芸名は「よこざわけい子」)さんが演じています。
本作品は制作時期が1984年と古いので、本作品の冒頭に入っている横沢さんの自己紹介では「おかあさんといっしょのぴっころ役の」と言っています。
現在における一般的に言われる横沢さんの代表作は「ドラえもん」の初代ドラミ役や、「天空の城ラピュタ」のシータ役でしょうか。
なお、本ドラマで横沢さんが演じたこの「主役の新井素子」の役は、最初は作者である新井素子さんご自身にオファーが行ったそうです(「ザ・素ちゃんズ・ワールド」より)。
原作者さんが出演
ちなみに、結局、「主役の新井素子」役は横沢さんが演じわけですが、「作者の新井素子」役で新井素子さんも実際に本作品に出演されています。
決して上手い演技とは言えませんがファンには堪らない配役ですね。
ちなみに原作者自身が出演しているラジオドラマは、こちらの記事に整理しています。
神谷明さんらしい配役
一方、「主役の新井素子」と並ぶ準主役格の「一郎」役は、こちらも人気声優の神谷明さんが演じています。
キン肉マンやケンシロウ(北斗の拳)、冴羽獠(シティハンター)などのジャンプヒーローは一時期、神谷さんが独占している感がありました。
ちなみに本作品中ではキン肉マンの名台詞「火事場のクソ力~」を一郎が叫ぶシーンがあります。
これは明らかに神谷明さんが演じていることを意識した台詞だと思います。
人気俳優+意外なキャスト
ところで、往年の新井素子さん原作のラジオドラマには、本作品の神谷さんのほか、「二分割幽霊綺譚」の広川太一郎さん(=ロジャー・ムーア=マイケル・ホイ)や「星へ行く船」の山田康雄さん(=ルパン三世)も準主役級で出演しています。
新井作品の持つ明るく楽しげな雰囲気が、こういった華やかな声優界のスター達にあっていたのだと思います。
その他、バンパイアの美弥役の島津冴子さんも当時の人気声優なのですが、当時の人気アニメと見まごうこの出演陣の中に、なぜかお笑いタレントのビートきよしさんが混ざって出演されているのが本作品の面白いところです。
【新井素子原作の他の作品】
- プシキャット翔んでも大冒険(聴いたことがありません。聴かせても良いという方は是非ご連絡ください。)
- 絶句(本作品)
- 二分割幽霊綺譚
- グリーン・レクイエム
- ひとめあなたに…
- 星へ行く船
- ザ・素ちゃんズ・ワールド~ひでおと素子の愛の交換日記から~
- いつか猫になる日まで
- おしまいの日
コメント
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