佐藤賢一「カエサルを撃て」

ドラマ化希望作品

特集【お勧め作品③】佐藤賢一「カエサルを撃て」

「青春アドベンチャーで取り上げてくれたらいいなあ」「あの青春アドベンチャー作品を好きな方ならこっちも気に入るのではないだろうか」と思った作品を勝手に取り上げるこのシリーズ。
そもそもラジオドラマ化されていない作品を記事にするのはいかがなものかと思いつつ、第2回目は佐藤賢一さんの「カエサルを撃て」を紹介します(第1回はこちら)。


「ジャガーになった男」もいいけど

佐藤さんについては既に「ジャガーになった男」が青春アドベンチャーになっていますが、私の特に好きな作品を挙げると「二人のガスコン」・「オクシタニア」・「カエサルを撃て」になります。

大ボリュームが難点

これらはすべてフランスを舞台にした作品であり、青春アドベンチャーにおけるフランス率の高さを考えると十分ありそうな作品だと思います。
ただし、このうち「二人のガスコン」と「オクシタニア」は長編で、青春アドベンチャーの枠に収めるのが難しそうですし、最初に読む佐藤作品としてお勧めするには長すぎます。

暴力描写と性描写が…

そこで「カエサルを撃て」なのですが、これも青春アドベンチャー化には問題があるのです。
この作品に限らないのですが、人権などという概念がなかった中世以前のフランスを扱っているからではあるのですが、佐藤作品は一般的に暴力描写と性描写が濃厚なのです。
その中でも「カエサルを撃て」は濃い方です。
佐藤さんの作品には「赤目のジャック」(旧題「赤目」)のようなトンでもない作品(短めの作品ですが初心者の方には絶対お勧めできません)もあるので、それに比べればましですが、「カエサルを撃て」も引いてしまう人はかなりいると思います。

女性リスナーは不満かも

また最近の作品では女性の心理描写が重要な構成要素になる佐藤作品も増えた気がしますが、この作品を含めて比較的初期の作品における女性登場人物の扱いは「駒」に近かった気がします(大変失礼な言い方ですが)。
この辺は脚本家の腕の見せ所だと思います。
濃厚な描写はある程度上手くカットせざるを得ないでしょう。

裏ガリア戦記

さて、作品内容は、ガリアを征服しようとしている人類史上最も有名な侵略者カエサル(実はハゲを気にする冴えない中年男)と、多数の部族が割拠するガリアをまとめ上げローマへの抵抗勢力の中心となるヴェルキンゲトリクス(美しく残忍な若者)の相克を通して、ガリア戦争を描くものです。
歴史的にはカエサル自身が著した「ガリア戦記」で知られる話ですが、本作の主人公はヴェルキンですので、征服される側からガリア戦争を描いたいわば「裏ガリア戦記」です。

カエサル賛美の風潮を撃て

カエサル本人が書いている「ガリア戦記」や、カエサル大好きな塩野七生さんが書かれた「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル-ルビコン以前」などとは一味違うカエサルの人間像が描かれています。
「カエサルを撃て」は純然たる小説ですので、塩野さんの著作とは違うのは当たり前ですが、「ローマ人の物語」も歴史書ではないので、いずれも創作上のカエサルと考えた方が良いのかも知れません。
少なくとも、塩野さんの「カエサル愛」に満ち満ちた文章や塩野さん信者のカエサル全面肯定の書評の山に辟易した方には爽快に感じられるのではないでしょうか。

父と子あるいは兄弟

佐藤作品では「父と子」(あるいは兄弟)の相克というモチーフが何度も取り上げられています。
本作でもふたりの相克を通して若者の成長と中年の再生を描いており、テーマ的には青春アドベンチャー向きだと思います。
エンターテイメントとしても「ガリア総決起」からアリシアの包囲戦、そしてヴェルキンが取った最後の策まで見事なスペクタクルが展開されます。

赤目にはご注意

なお、最後に繰り返しますが、お勧めはお勧めなのですが、暴力・性表現(特に女性への)が苦手な方は本作あたりまでの初期の佐藤作品は避けて下さい。
「王妃の離婚」「二人のガスコン」あたり以降は比較的大丈夫だと思います。
特に「赤目」はダメですよ。

読者の皆様(及びNHKのスタッフの皆様)よかったら参考にしてみて下さい。


なお、またしても本記事で言及した他の作品についても一言書きたくなってしまったので、次の記事に続きます。




「青春アドベンチャーにしたら」面白いのではないか!と思う記事の一覧はこちらです。
私やリスナーの皆さんが自信を持ってお勧めする作品たち。
小説や漫画など色々な作品があります。
是非ご覧ください。


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