2億トンのバッタが東北地方を食い尽くす。その時、東北民は?日本政府は? 西村寿行「蒼茫の大地、滅ぶ」をラジオドラマに!

ドラマ化希望作品

【特集:ラジオドラマ化推薦作品17】西村寿行「蒼茫の大地、滅ぶ」

今、昆虫が熱い!
えっ? 昆虫の季節はこれからだろうって?
いえいえ季節の問題ではないのです。
えっ? 私の子供が虫取りに夢中で家が虫だらけなのは私の家の問題だろうって?
まっ、まあそうなんですけど、わが家の話でもないのです。

昆虫すごいぜ

皆さん、なんとなく今、虫関連のヒット作が多いと思いませんか。
例えば、NHK-Eテレ(教育テレビ)で時々放送している「香川照之の昆虫すごいぜ」。
カマキリ先生こと俳優の香川照之さんが、毎回なぜかカマキリのコスプレで登場する謎の教育番組。
何でも香川さんは子供の頃から昆虫が大好きで、民放のバラエティ番組で「Eテレで昆虫番組をやることが夢」と熱く語ったところ、Eテレから声が掛かったとか。
毎回、忙しい俳優業の合間を縫って、香川さんが川原や田んぼで虫取りをする様を放送するのがメインの番組で、一応、教育番組の体裁を取っていますが、実質的にはバラエティ番組(むしろお笑い番組?)です。
というか単に香川さんの虫への思い入れを垂れ流しているだけかも知れないという、実にステキな番組です。

バッタを倒しに?

また、別の例としては、「前野ウルド浩太郎」さんのエッセイ?「バッタを倒しにアフリカへ」(光文社新書)。
著者名からしてすでに怪しいのですが、バッタのかぶり物と緑の民族衣装でバッタ風のコスプレをし虫取り網を構えている表紙の写真でうさんくささはもうMAX!
結構売れているらしく、平積みの書店も多いので、インパクトのあるこの表紙を目にした方も多いと思います。
中身も「風の谷のナウシカネタ」(まあ「蟲」つながりですしね)を中心としたサブカルネタがふんだんに散りばめられている上、特にバッタの勉強にはならないステキな内容なのです。

エッセイストの適性あり?

ポスドク研究者の人生を賭けた就職活動の話と読めば、色々と示唆に富んだ内容ではありますし、そもそも読んでいて面白い。
文章の出来が良すぎてむしろ心配になってしまいます。
前野さん、ひょっとして昆虫学者よりエッセイストの方があっているのでは…冗談ですよ。
ちなみに怪しさ満点のミドルネーム「ウルド」ですが、これには深いいわれがあり、前野さんは誇りを持ってこのミドルネームを名乗っていらっしゃいます。
そのあたりの事情を知りたい方は是非、本をお読み下さい。

でも紹介するのは「蒼茫の大地、滅ぶ」

さて、そういうわけで今回のラジオドラマ化して欲しい作品は「バッタを倒しにアフリカへ」です、といいたいところです。
実際、NHK-FMの帯ドラマの長い歴史の中では、「「日本の川を旅する」から カヌー野郎のロンリーツアー」、「スペインから」、「韓国・鉄道・グルメの旅」、「垂直の記憶」、「闘う女。~そんな私のこんな生き方~」など自伝的なエッセイをドラマ仕立てにして放送した作品が何作品もあります。
「バッタを倒しにアフリカへ」は、ある意味確かに「青春」+「アドベンチャー」ではありますし、ラジオドラマっぽく味付けする方向での青春アドベンチャー化は可能かと思いますが、これからようやく常勤の研究者の椅子に届こうかという実在の若者をドラマの主人公にするのは、まだ少し生々しすぎる。
そこで今回は、同じバッタ関連で、「バッタを倒しにアフリカへ」の中でも紹介されている、パニックサスペンス&ポリティカルサスペンス&バイオレンスアクション、西村寿行さんの「蒼茫の大地、滅ぶ」をラジオドラマ化推薦作品として紹介したいと思います。


立て!東北

「蒼茫の大地、滅ぶ」は日本の東北地方に大陸から大量のバッタが飛来してくることから始まる「昆虫パニックもの」の作品です。
飛来してくるバッタの総量は2億トン。
これだけでも東北6県の山野を全て丸裸に食害することが可能な恐るべき量です。
しかも冬に一旦全滅したバッタは、翌年卵から返った時点で140億トンという、一県を丸ごと覆ってしまうほどの言語を絶する量に膨れあがるという予想が立てられます。
この東北地方壊滅の危機に立ち上がったのが、時の青森県知事、野上高明。
中央政界で主要閣僚を歴任し与党・保守党の幹事長も務めた野上ですが、この時、思うところがあり郷里に帰って県知事の職にありました。
この動乱とも言うべき事態にあたり、野上が音頭を取り東北6県は一致団結。
東北6県知事会を中心に、飛蝗対策本部、そして東北地方守備隊を結成しバッタに立ち向かうこととなります。
人間対バッタの戦いの帰趨や如何に!…といいたいところですが、実はバッタの猛威に人間はほとんどなすすべがありません。

一番恐ろしいのは人間なのか

当初は野生動物パニックものになるかと思われた作品ですが、焦点は次第に人間対人間。
すなわち中央政界vs東北、日本国vs東北のポリティカルサスペンス、そしてバイオレンスアクションになっていきます。
蝦夷の昔から何度も、すなわち、ヤマトタケルの東征、坂上田村麻呂による併呑、奥州藤原氏の滅亡、奥羽越列藩同盟の敗北、そして明治維新による山林の強奪と、常に東北を虐げてきた中央政府の本性がこの度も露呈。
バッタ被害に対して日本国は東北の切り捨てで幕引きを図ります。
これに対して東北の怒りが爆発するも、日本国はその圧倒的な力で牙をむく。
一体、バッタ禍は日本に何を生み出すのか。
この作品で日本国、特に畦倉首相は徹底的に悪役ですが、野上も単純な善人とは言いがたいキャラクター。
その考えの底は最後まで読めず、東北民積年の思いを一身に背負う責任感や、100万人の流民を見捨てられず危険な賭に出てしまうという心底から東北の民を思う一面があるのと同時に、動乱期を自らの力で乗り切るために貪欲に権力を求める政治家の性といった凄まじさも垣間見えます。
そういった複雑な要素がこの作品の魅力だと思います。

怪獣パニックもの

過去の青春アドベンチャーでは怪獣パニックものとして「Meg」や「人喰い大熊と火縄銃の少女」などの作品がありますが、これほど暴力的な政治ものの採用例はありません。
特に本作品は「反権力」の要素も強く、NHKでは難しいかなとは思いますが、たまには本作品のような弾けた作品も聞いてみたいものです。


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私やリスナーの皆さんが自信を持ってお勧めする作品たち。
小説や漫画など色々な作品があります。
是非ご覧ください。




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