あたしの嫌いな私の声 原作:成井豊(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : あたしの嫌いな私の声
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A
  • 分類 : 幻想(日本/シリアス)
  • 初出 : 1992年6月8日~6月19日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 成井豊
  • 脚色 : 成井豊
  • 演出 : 川口泰典
  • 主演 : 土屋智子

あたし、君原友里(ユーリ)は声優学校の1年生。
女らしくない自分の声が嫌いだったけど、この声を活かせる職業である声優を見つけてからは声の仕事で一人前になりたくて頑張っているところ。
ある日、代役で舞い込んできた「メアリーポピンズ」の出演者の顔合わせに出向いたときに、あたしとそっくりの声を持つ音楽家の波多野さんに出会ったの。
波多野さんは冷たそうだけどとても綺麗な男性。
だけど、本当はそれだけではないの。
波多野さんが話すと、あたしには表向きの波多野さんの声と同時に、感情むき出しのもう一つの声が聞こえてくる。
でも、そのもう一つの声はあたしにしか聞こえないみたい。
冷たく憎悪の込められた、あたしそっくりの声を聴いていると、とても不安になる。
波多野さんって一体、何者なんだろう。



演劇集団キャラメルボックス所属の劇作家・成井豊さん作のラジオドラマです。
番組名が「青春アドベンチャー」となってから5作品目の作品で、今まで紹介した青春アドベンチャーの作品の中では最も初期の作品です。

原作者による脚本

ちなみに、本作品の放送中では「作、成井豊」とアナウンスされますが、実はこのラジオドラマの前年に本ラジオドラマの原作にあたる成井豊さんの小説「あたしの嫌いな私の声」が発表されていますので、このブログでは「原作:成井豊、脚色:成井豊」と表記しました。
既に紹介済みの作品では「愛と青春のサンバイマン」(藤井青銅さん)、「昔、火星のあった場所」(北野勇作さん)、「恋愛映画は選ばない」(吉野万理子さん)を同じような表記にしています。
いずれの作品も、原作者が作家であると同時に脚本家又は役者でもあることから、実現できた例だと思います。

舞台化

なお、本作品は後に成井豊さん自身の手で舞台劇「嵐になるまで待って」として舞台化もされています。
また、更に余談ながら青春アドベンチャーではもう1作品、成井さん原作の「サンタクロースが歌ってくれた」もラジオドラマ化されていますが、こちらは別の方が脚色されています。

声がテーマ

さて、本作品は「声」がテーマの作品です。
声優志望ながら自分の声にコンプレックスを持つユーリ、声に特殊な力がある波多野、そして声を持たない波多野の姉・雪絵。
この3人に、ユーリの思い人である幸吉(演:渡辺いっけいさん)が絡んで、ストーリーが進んでいきます。

主演の土屋智子さんが2役

そしてその重要な要素である「声」に関する本作品の最大の特徴は、主人公ユーリとその敵役である波多野の声を、両方ともに土屋智子さんが演じていることだと思います。
ユーリと波多野は作中で何度も「声がそっくり」と他の登場人物から評されており、実際、同一人物が演じているので同じ声なのですが、土屋さんは波多野を演じるときは宝塚の男役の様なトーンで、ユーリを演じるときは女性っぽいしゃべり方で演じているため、聴いていて混乱することはありませんでした。
というより、ひょっとしたら言われないとすぐには同一人物が演じていると分からないくらい、雰囲気を変えていらっしゃいます。
ネットで検索しても今ひとつ土屋さんの来歴がわからないのですが、なかなかの熱演です。

前田さんの演技が印象的

また、上に書いたとおり波多野の姉・雪絵はしゃべれないという設定なのですが、本作品では雪絵が紙に書いた文章を読むという形で前田悠衣さんが演じています。
悲しみの時計少女」、「五番目のサリー」などの名演が強烈な印象を残している前田さんですが、本作品でも終盤にしか登場しない前田さんの演技がとても効いています。
さすがは青春アドベンチャーを代表する常連出演者さんです。
ちなみに、雪絵との会話シーンでは、文章を書いてメモを手渡す都度に、メモを切り取る効果音が入ります。
この音だけで筆談中であることが自然にわかるだけでなく、一定のリズムとドキドキ感が生まれており、なかなかの効果だと思います。
ただ、今、この作品を作るとしてらスマホへの入力になってしまい音で表現するのは難しいかもしれませんね。

上川隆也さんがちょい役

その他、上川隆也さんや西川浩幸さんといったキャラメルボックスの看板俳優さんがちょい役で出演しているのも本作品の面白いところです。
特に上川さんは、その後の青春アドベンチャーでは、「サンタクロースが歌ってくれた」や「天使のリール」でそれなりに重要な役で出演されるのですが、本作品が放送された当時はまだまだ一般にはブレイクしていない時期でした。
そのためか本作品では実質的に序盤にしか登場しない端役です。

ダミーヘッド

なお、本作品は「声」をテーマにしていることもあって、当時の青春アドベンチャーで頻繁に用いられたダミーヘッド(バイノーラル録音)を使用して制作されています。
このダミーヘッド、どこまで効果を実感できるかは微妙なところもあるのですが、ラジオドラマならではの表現をしたいという意欲は素晴らしいと思います。
本作品では序盤でタイトルナレーションの渡辺いっけいさんがダミーヘッドだということをしつこく強調しているのが印象的です。
最近の青春アドベンチャーではダミーヘッドという言葉を聞かないのですが、やっぱり制作するのが相当大変なのでしょうか?

伊藤守恵さん選曲

また、ラジオドラマならでは言えば、この作品の選曲も相変わらず冴えています。
エンディングテーマがあの曲であるだけで、この作品の印象はかなり強まっていると感じます。
選曲を担当したのは先年亡くなられた伊藤守恵さんですが、伊藤さんを亡くしたのは青春アドベンチャーにとって大きな損失であった気がしてなりません。

印象が変わった

本作品、正直なところ、昔聴いた際にはさして面白い作品だとは思わなかったのですが、記事を書くにあたって再聴してみたところ、出演者は豪華だし、音の使い方など演出も意外とドキドキさせられるもので、意外と聴かせる内容でした。

さて、物語は波多野が不思議な力を使ってユーリの声を奪ってしまうあたりから大きく展開していきます。
自分の声が嫌いだった少女が声を奪われてどのような変わっていくのか、その辺は聴いてのお楽しみにしましょう。


コメント

  1. 匿名 より:

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    この話は覚えています。もう一つの声が聞こえるあたり、聞いててものすごく怖かったのを覚えていますね。懐かしい。また聴きたいな。

  2. Hirokazu より:

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    昔はさほど良いとは思わなかったのですが、改めて聞いてみると結構良い音響効果で意外とドキドキします。
    それにしてもNHKさんにはぜひとも気軽に再視聴できる環境を整えてほしいものです。

  3. コン より:

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    最初声優の物語かと思いましたが、悪人と戦う物語でしたね。「波田野」と書いてある部分があります。最初「波多野」と聞いてAV女優の波多野結衣さんを思い出しました。w
    ダミーヘッドはよかったです。イヤフォンで聴くと左側右側交互に聞こえてくるので本当に目の前で会話しているみたいな感じでした。
    前田悠衣さんは「アナスタシア・シンドローム」という作品で初めてお声を聴きましたが、雪絵役が前田悠衣さんだなんて全然気付きませんでした。

  4. Hirokazu より:

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    コン様

    コメントありがとうございます。
    また間違いのご指摘もありがとうございます。
    ダミーヘッドが効果的に使われている作品って少ないですよね。
    ホラーに効果的だと思うのですが、なぜか青春アドベンチャーってホラーが少ないんですし。

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