- 作品 : 93番目のキミ
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A+
- 分類 : SF(日本)
- 初出 : 2014年1月6日~1月17日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 山田悠介
- 脚色 : 福田卓郎
- 演出 : 佐々木正之
- 主演 : 中山卓也
植木也太は(うえき・なりた)はロボットが好きな大学生。
他人は彼をロボットオタクというけれども、自分では大学生活を謳歌している普通のリア充だと思っている。
そんな也太は当然ながら、シリウス自動車が開発した個人向けのロボット“スマロボ”(スマートロボット)をすでに所有している。
しかし、今度新たに発売された“スマロボ2”は従来機とは一線を画した性能らしい。
特にスマロボ2に“相棒アプリ”をダウンロードすると、今までにはない人間的な反応をするらしいのだ。
居ても立ってもいられなくなった也太は、祖母を言いくるめて手にした60万円を握りしめて販売店に向かう。
こうして也太は、スマロボ製造番号93、通称「シロ」と出会ったのだ。
「リアル鬼ごっこ」などの著作で有名な山田悠介さんの小説を原作とするラジオドラマです。
ちなみに、この山田悠介さんは、青春アドベンチャーでは「ゴー・ゴー!チキンズ」に出演されている俳優の山田悠介さんとは同姓同名の別人です。
間口を狭めない
さて、青春アドベンチャーは、従来から漫画やライトノベルなど、ともすれば良識のある大人が“あんなもの”と眉をひそめそうな軽い題材を積極的に採用する番組でした。
最近でも、2013年に放送された「DINER」(平山夢明さん原作)は、NHKとは思えない暴力的な作品でした。
山田さんは、特に初期の作品における日本語の乱れっぷりがネットで猛烈に叩かれた作家さんです。
このような作家さんを採用するあたり、青春アドベンチャーのスタッフの新しい素材を求める積極性というか、柔軟性というか、悪食ぶりというかは相変わらず健在のようで、嬉しい限りです。
SF…か微妙
さて、ロボットの話なので当ブログでは一応、「SF(日本)」にジャンル区分しました。
しかし、スマロボ“シロ”が現代の科学力をやや超えた性能を持っている以外は、特段、SF要素はありません。
むしろ、「お気楽、極楽」な現代のイチ大学生の日常生活を描く作品であり、素材としてはごく身近です。
主人公の也太は、特に物語の冒頭では、かなり我が儘な人間として描かれているのですが、それすらエキセントリックな我が儘と言うより、ごく身近な、小市民的なものです。
大きな流れは割とありきたり
また本作品のストーリーも、その也太がスマロボ・シロと出会い、さらにヒロインの都奈(とな)さんやその弟の和毅(ともき)と触れ合っている内に、次第に成長していく…と書くと良くあるコテコテな作品を連想しますが、実際、かなりコテコテな内容です。
中盤に爆弾がでてきたりしてかなり唐突な展開な割には、ストーリー全体としてはどこかで聞いたような内容で、良くも悪くもアクがない。
また、展開は多分にご都合主義で説教くさい側面もあります。
さらに、個人的には当初かなりいい加減だった也太が、割とすぐによい子になってしまうのは少し拍子抜けでした。
意外といいぞ
…と、かなり批判的に書いてきたのですが、一方で、割とアラの目立たない、気持ちのよい作品になっているのも事実です。
薄味な作品であるのは確かですし、正直、結末の安っぽさというか、そんなに大騒ぎするほどのことじゃないというか、どうも腑に落ちない部分もあるのですが、全体を通して聴いてみると、視聴の際の“肌触り”的なものが悪くはないのです。
これが原作者の力なのか、脚本家(本作の脚本は「着陸拒否」や「夏への扉」の福田卓郎さんです。)の力なのかは正直原作を読んでいないので分かりません。
でも、他人の評判だけを聞いて食わず嫌いで読まないでいるのは良くないなあ、と反省した作品でした。
歌は小説に勝てる要素
ラジオドラマとしても、前半の也太が作中の人気アニメ(という設定の)「マジカルラビット」の主題歌を歌うシーンなど、小説ではどうしても再現できない音楽を上手く利用して楽しいシーンにしています。
ちなみに、スタッフコールを聞いていると、いつもは「選曲」という形でのみコールされる黒田賢一さんが、本作品では「選曲・作曲」としてコールされています。
この「作曲」は、この「マジカルラビット」の曲の作曲なのかな?
制作統括(小見山佳典さん)や演出(佐々木正之さん)の方と、黒田さんとの間で、「これの作曲もやってよ~」という会話が交わされていたことを想像するとちょっと楽しくなりますね。
ちなみに本作品、少しだけ話が重くなる後半の第6話以降は、各回のオープニングテーマ曲を変えています。
ほかの青春アドベンチャー作品にはない、細かい配慮ですね。
中山卓也さんの雰囲気
さて、出演者は主人公の也太役を俳優の中山卓也さんが、ヒロインの都奈さん役を杉本有美さんが演じていらっしゃいます。
本作品は主役兼ナレーター役を務める中山さんの演技が、作品全体によい雰囲気を与えていると思います。
特別に巧いとは感じないのですが、「蒲生邸事件」や「神去なあなあ日常」の主人公たちにも似た、適度に力の抜けたしゃべり方が、也太の普通っぽさを感じさせ好印象でした。
相変わらず好印象
また、杉本さんはモデル出身の方ですが、以前「幻想郵便局」で真理子さん役を演じられたときから、「モデルさんとは感じさせない演技だなあ」と思っていました。
調べたところ、NHK連続テレビ小説(ゲゲゲの女房)や大河ドラマ(江~姫たちの戦国~)にも出演経験があり、女優さんとしても本格的に活動されているようです。
2012年放送の「幻想郵便局」では**シーン(色っぽいシーンではありません)があり、とても印象的でした(スミマセン、こんな感想で…)。
ロボットを演じるのは声優さん
また、第2の主人公ともいうべきスマロボ・シロを演じるのは声優の皆川純子さん。
「テニスの王子様」など数々のアニメにおいて、少年役で主役を務められている方だそうです。
近年の青春アドベンチャーでは、少年又はボーイッシュな女性の役に、アニメでそのような役で実績のある声優さんを当てるのが流行のようです。
例えば、朴璐美さん(レディ・パイレーツ、太陽の簒奪者など)、斎賀みつきさん(エイレーネーの瞳)、竹内順子さん(やけっぱちのマリア)など。
皆川純子さんもこの流れに沿っていると感じます。
素晴らしい使い分け
本作品の舞台はほぼ完全に現代日本なのですが、スマロボの存在だけが、現在日本とは異なる要素です。
その点でシロは、ある種、作品世界から浮いた存在であるわけで、その声に皆川さんの声は良く合っていると思います。
こうして考えてみると、“ごく普通の青年”をほぼ同年代の俳優さんが、“一目で見ほれてしまうほどの美人”を本当のモデルさんが、そして唯一のSF要素であるロボットを専業声優さんが演じているわけです。
この辺の配役の使い分けは、青春アドベンチャーらしいところだと思います。
(追記:2014/1/24)
折角ですので、原作小説を読んでみました。
まず原作の文章については、ネット上で悪評されているような悪い印象は感じませんでした。
確かに、時々不自然に感じられる言い回しがあったり、状況描写の表現がひたすら素朴だったりはしますが、どこかで知らずに目にしたのであれば普通の簡潔で読みやすい文章です。
山田さんが小説家でさえなければ特段非難されることはなかったと思います。
また、ストーリーについてはラジオドラマがほぼ原作通りのストーリーであることが確認できました。
ラジオドラマで全く触れられていなかったスマロボⅠのその後が少しだけ書かれていたのはちょっと嬉しい発見でした。
一方、ラジオドラマとの関係を考えると、ラジオドラマの脚本もよくできていると感じました。
原作は三人称なのですが、ラジオドラマは也太がナレーションをする一人称の形式です。
ラジオドラマでは、この也太のナレーションによって最低限の状況説明をしたうえで、細かい感情表現や状況説明は役者さんの演技や音響効果に頼ることにより、原作以上にストレスの少ない展開にすることに成功していると思います。
小説では地の文で補足しなければいけないことを、セリフ回しだけで易ともたやすく表現できるのは、役者さんが演技をするドラマならではの強みですね。
本作品は、也太、都奈、シロの3人の役者さんがイメージ通りの配役のため、とても効果的だと思います。
中でもやはり都奈さん役の杉本有美さんがいいですね。
杉本さんの演技を得て、始めて都奈さんはリアリティのある人間として実体化できたような気がします。
また、原作ではあまりボリュームを割いていない最後の事件に、ほぼ2話分(=全体の5分の1)を使っているのも効果的だと思います。
本作品の脚本は福田卓郎さんですが、さすがにラジオドラマとして良くリファインされた脚本でした。
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