- 作品 : 摩耶ぎつね
- 番組 : FMシアター
- 格付 : B
- 分類 : 伝奇(日本)
- 初出 : 2021年2月27日
- 回数 : 全1回(50分)
- 作 : 山本昌子
- 音楽 : 本間廉太郎
- 演出 : 小島史敬
- 主演 : 井頭愛海
狐族の姫君“摩耶ぎつね”は、人間の娘に化けることを願った。
行者堂に狐の嫁入り行列の屏風絵を描いた絵師に近づき、敵討ちをするためだ。
絵に描かれていた狐は、行方不明の母狐そっくりだった。
あの絵師は母狐を捕まえてモデルにしたに違いない。
そしてその後、母狐は…
しかし、狐の巫女が摩耶ぎつねに出した人間に化けるための条件は、冬が来る半年後までに敵討ちを果たすこと。
それができなければ命が終わる。
母狐の仇を討てるなら構わないと条件を飲んだ摩耶ぎつねだったが。
本作品「摩耶ぎつね」は、NHK大阪局が主催した2020年度のBKラジオドラマ脚本賞の最優秀賞を受賞した山本昌子さんの脚本をオーディオドラマ化した作品です。
ちなみにBKはNHK大阪局のコールサインであり、当然このオーディオドラマも大阪局の制作です。
異類婚姻譚
さて、本作品は狐が人間に化けて人間社会にやってくる、いわゆる「異類婚姻譚」(本作品の場合、結婚しに来るわけではないけど)に分類される話です。
日本の昔話でいえば「雪女」や「鶴の恩返し」、西洋の童話であれば「人魚姫」などが有名ですよね。
そもそも日本では狐は霊獣とされており、平安時代初期に成立した「日本霊界記」にすでに狐の異類婚姻譚が書かれているそうです。
本作品は狐がやってくる理由が復讐ですので、これらの典型的な「恩返し」系の話とは異なるのですが、男に幸運がもたらされる等、大きなストーリーラインは近いものがあります。
摩耶という名前
ちなみに「摩耶」とはもともとは釈迦の生母、摩耶夫人から来ている言葉。
さらにいうならこの「摩耶夫人」は固有名詞ではなく、母を意味するサンスクリット語が語源という説もあるそうです。
本作のヒロインの名前である摩耶に何らかのストーリー上の意味づけがあるのではないかと思って摩耶夫人について調べたのですが…
特に見つけられませんでした。
脚本の山本さんへのインタビュー(外部リンク)によれば「摩耶ぎつね」というタイトルが先にあったそうですので、あまりストーリーとは関係ないのかも知れません。
昔話風の抒情性
さて、以上から想像できると思いますが、本作品のストーリーは冒頭のあらすじから概ね想像できるとおりであり、ストーリーの奇抜さを売りにした作品ではないと思います。
どちらかというと、摩耶の気持ちの移ろいと葛藤、そして絵師・六興の執着といった登場人物の心情を昔話風の叙情的な展開の中で丁寧に描く作品です。
主演は井頭愛海さん
と、なると重要なのは出演者。
摩耶を演じたのは女優の井頭愛海さん。
第13回全日本国民的美少女コンテストで審査員特別賞を受賞された方ですが、2019年のFMシアター「砂浜クラブ」や、2020年青春アドベンチャー「ベルリンは晴れているか」などNHK-FMのオーディオドラマでの演技も定評があります。
そして赤井英和さん
また、絵師・六興を演じたのは元プロボクサーで俳優の赤井英和さん。
当ブログでは2009年の青春アドベンチャー「プリンセス・トヨトミ」を紹介していますね。
井頭さんは本作品放送時点20歳、赤井さんは61歳で、なんと41歳の年齢差があるのですが、この摩耶と六興はふたりによくあった役であり、なかなか聞き応えのあるやりとりになっています。
本作品は「令和3年度文化庁芸術祭」の参加作品に選ばれた作品であり、また本ブログで行った2021年の人気投票でも多くの票を得た作品です。
それはこの作品の全体を覆う昔話的な雰囲気と、それに乗せられるふたりの真剣な芝居あってのことだと思います。
本作品は当ブログで実施した2021年FMシアターアンケートの5位になりました。
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