夜叉ヶ池で見つけた命 作:西脇良典(青春アドベンチャー)

格付:C
  • 作品 : 夜叉ヶ池で見つけた命
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : C+
  • 分類 : 幻想(日本/シリアス)
  • 初出 : 2015年3月23日~3月27日
  • 回数 : 全5回(各回15分)
  • 作  : 西脇良典
  • 演出 : 秋山遼
  • 主演 : 田中俊介

クラスでも孤立気味で冴えない男子高校生タカシ。
唯一の親友が意識不明で入院したことにショックを受けた彼は、親友が語っていた秘境「夜叉ヶ池」を訪ねることを決める。
しかし、冬の夜叉ヶ池への道のりは、ひ弱なタカシが行くにはあまりに過酷だった。
案の定、遭難しかけてしまったタケシの身体の中で、免疫機能の司令塔である「T細胞」が必死の活動を始める。


夜叉ヶ池とは

本ラジオドラマ「夜叉ヶ池で見つけた命」のタイトルに入っている「夜叉ヶ池」は福井県と岐阜県の境界付近(福井県側)の山間部に実在する池です。
龍神の伝説があり、泉鏡花の戯曲「夜叉ヶ池」の舞台にもなっています。
ちなみに、作中で登場する固有種「ヤシャゲンゴロウ」も実在するそうです。

福井局制作の青春アドベンチャー

本ラジオドラマを制作したのは、いつものNHKの本局ではなく福井局なので、まさに地元を題材としたご当地ドラマです。
青春アドベンチャーは大部分を本局が制作し、その他も大阪局・名古屋局のなどの大都市の局が多いので、これほどマイナーな局の作品はかなり例外的です。
他には岡山局が制作した「風になった男」くらいしか思いつきません。

主役は高校生、準主役はT細胞

さて、冒頭の作品紹介のとおり、本作品の主役は普通の男子高校生タカシですが、準主役ともいえるのが、タケシの身体の中にある免疫機能の司令塔である“T細胞”。
つまり、身体の一器官が人間のようにしゃべるという設定なドラマであり、全体的に重苦しいトーンのタカシのドラマと、軽快にしゃべりまくるT細胞の活躍シーンのコントラストが妙に鮮明な作品です。

元ネタ?

本作品は脚本家の西脇良典さんの「作」と表記されており、青春アドベンチャー用に書き下ろされたオリジナル作品です。
ところで、「細胞が話す」というとどうしても思いださざるをえないのが漫画「はたらく細胞」。
アニメ化もされた人気作の「はたらく細胞」ですが雑誌の連載がスタートしたのは奇しくも本作の放送と同じ2015年3月。
前年にその原型となる読み切り作品「細胞の話」が「少年シリウス新人賞」で大賞を受賞しているので本作がアイデアを参考にした可能性がないわけではないと思いますが、「はたらく細胞」の人気に当て込んだ可能性はタイミング的にありえないと思います。

脚本家のオリジナリティ

さて、勝手ながら私としては、青春アドベンチャーはエンターテイメント作品に特化した枠だと思っています。
そのため、文芸色や奇抜さが色濃く打ち出されているオリジナル脚本の作品には違和感を感じることがあります。
本作品も娯楽作品としてのリスナーサービスよりは作家性の主張を感じる作品であり、西脇さんも参加されている1話完結の短編集作品、いわゆる「名古屋脚本家競作シリーズ」のロングバージョンといって良い雰囲気です。

少しついていけない

個人的には、内容の唐突さを消化できずに「T細胞?なに?」と思っているうちに終わってしまったような感を受けました。
生きることの尊さ、それを体験を通して体感していく青年の成長、的なものがテーマだとは思うのですが、いみじくも最終話でT細胞が言った「結局なんだったんだ、この旅は。」の方が率直な印象でした。

余韻のあるエンディング

ただ、途中からなぜか登山ものの雰囲気になった場面にはそれなりに迫力がありましたし、静謐でなかなか印象的な演出です。
また、全5話しかないのに、最終話はほぼエピローグ的なまとめに使っており、余韻のあるいい終わり方です。
正直、途中の展開が退屈で「これは格付Cかな」とも思っていたのですが、最終話でだいぶ印象が変わりました。
このブログにおける格付けの差なんて本当に小さいものだな、と我ながら再確認したところです。

チョウが冬を越す

あと、越冬型の蝶というのは初めて知りました。
探してみるとこんな写真も見つけました。
雪と蝶。なかなか新鮮組み合わせですね。

(外部リンク)http://www.tajima.or.jp/modules/nature/details.php?bid=313

田中俊介さん初主演

主人公の男子高校生・タカシを演じるのは、東海地方のご当地アイドルグループ「BOYS AND MEN」のメンバーの田中俊介さん。
7年後に放送される「鷗外 青春診療録控 千住に吹く風」でも主演されることになります。

その他の出演者

そしてT細胞を演じるのは、前週に放送された名古屋局制作の「カモメに飛ぶことを教えた猫」に続いて2作品連続で青春アドベンチャーに出演された吉沢悠さん。
本作品でも熱演です。
また、ヒロイン(白雪/ミユキ)は、元「ハロー!プロジェクト」メンバーの真野恵里菜さんが演じています。
NHK-FMでは、AKB48グループに関しては「AKB48の“私たちの物語”」(隔週金曜日)という専門のラジオドラマ番組で優遇(隔離?)されているですが、ハロー!プロジェクト関係の方がNHK-FMのラジオドラマに出演されるのは珍しいと思います。
真野恵里菜さんは特に福井のご出身でもないようですし、どういう経緯で選ばれたのか気になるところです。

脚本は西脇良典さん

さて、前で述べたとおり本作品の脚本は西脇良典さんが書かれています。
西脇さんは、第24回(平成20年度)NHK名古屋局創作ラジオドラマ脚本募集の入選作「手の中のコスモス」がFMシアターで放送され、NHK-FMデビュー。
青春アドベンチャーでは、長編の担当は初めてですが、過去、名古屋局が制作された短編シリーズである「五つの夢」(2011年)、「新・新動物園物語」(2013年)、「秘密の花園」(2014年)の中の短編を担当されています。

名古屋色強し

それにしても、本作品、福井局の制作であるとはいえ、西脇さんが脚本を書いていることといい、田中俊介さん・吉沢悠さんが出演されていることといい、公式ホームページに掲載されている収録時の写真といい、そして効果音などの全体の雰囲気といい、何となく名古屋局の臭いを感じる作品です。
福井は中部地方ですので、名古屋局の影響下にあるのかも知れませんね。


コメント

タイトルとURLをコピーしました