- 作品 : ハリネズミの願い
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : B-
- 分類 : 幻想(その他)
- 初出 : 2018年2月19日~2月23日
- 回数 : 全5回(各回15分)
- 原作 : トーン・テレヘン
- 脚色 : たかはしさとみ
- 演出 : 佐藤譲
- 主演 : 高野志穂
親愛なる動物さんたちへ。
きみたちみんなを招待いたします。
いや、みんなは無理かな。
やってくる動物によっては、僕の部屋も僕もめちゃくちゃになってしまうかも。
もう少し考えないといけないな。
だから、招待状を送るのはやめておこう。
今はまだ。
いやー来ましたな、今年も名古屋局らしい作品が。
名古屋局といえば「10人作家シリーズ」に象徴されるように、哲学的で、上品で、繊細。
云い方を変えれば、アンニュイで、アイロニカルで、スノッブ?(←言い過ぎ)
昨年3月には「青春離婚」なんていう甘酸っぱいヤツを放送して宗旨替えをしたのかとも思いましたが、今年も、屋外で聴いていると声が小さすぎてさっぱり聞えない、ごにょごにょしたセリフ回しのこの作品を送り出してくれました。
やっぱり、佐藤譲さん演出だとこうなりますよね。
毎年・年度末のこの時期に放送される名古屋局制作のラジオドラマは、もはや青春アドベンチャーの風物詩といっても過言ではありません。
本屋大賞・翻訳小説部門1位
さて、そういう訳で本作品「ハリネズミの願い」の紹介を始めます。
本作品は2017年の本屋大賞翻訳小説部門の第1位に輝いた、オランダの国民的作家トーレ・テレヘンによる小説をラジオドラマ化したものです。
ジャンルでいうと、2016年1月に同じ名古屋局が制作した「ちいさなちいさな王様」と同じ「大人のための童話」といったところでしょうか。
ハリネズミのジレンマ
主人公はハリネズミ。
といえば大体想像できるとおり、本作品はドイツの哲学者ショーペンハウアーの「ハリネズミ(またはヤマアラシ)のジレンマ」(hedgehog’s dilemma)を念頭においたと思われる作品です。
2匹のハリネズミ(またはヤマアラシ)が身を寄せ合おうとして近づくと、逆に針でお互いを傷つけあってしまう、というアレですね。
実際にハリネズミを触ってみるとそんなに痛くはないんですけどね。
ひたすら妄想
それはさておき、改めて作品内容を紹介しますと、本作品は1匹のハリネズミが傷つくことを恐れて勝手に妄想を繰り返すストーリーです。
そのため、通常の「ハリネズミのジレンマ」以上に悶々とした話。
ハリネズミはひとりで生活するのが気楽だけど、やっぱり友達も欲しい。
ある日思い切って、動物たちに招待状を書こうします。
しかし、実際にその動物たちの来訪を受けたら一体どうなってしまうのかを、ハリネズミはひとりで、ああでもない、こうでもないと妄想してしまいます。
ひたすら迷路に入っていくハリネズミのこんがらがった思考と、ハリネズミの妄想の中で嫌らしい言説を繰り返す動物たち。
そして名古屋局独特の静謐な音楽とSE。
寓意があるのだろうけど
なにか、なにかを感じるような気がする。確かにそんな気がします。
そう、きっとこの妄想の中に、様々な寓意や警句を取り込んでいる…のでしょうが、正直、私のような形而上的なことしか考えられない即物的な人間にとって、この作品は難しすぎました。
ネットで検索すれば、色々と内容を解きほぐしているページ(原作ベースですが)もでてきますし、それをみれば「ほうほう」とは思います。
でもそれをどうしても自分のものとして体感することは、私にはできませんでした。
名古屋局の作品も色々
誤解のないように書いておくと、私、名古屋局の作品が嫌いなわけでは決してないんですよ。
最近でも2015年の「カモメに飛ぶことを教えた猫」(これも小声のセリフが多かった)なんて、地主芽生さんの「私は幸福なカモメ」というセリフを聞くだけで泣けてしまうほど好きですし。
寓意に満ちた作品でも「ちいさなちいさな王様」みたいに割とわかりやすい作品なら大丈夫なのですが、本作品は、毎日疲れているこの季節に、会社の行き帰りに聞くには不向きでした。
すみません。
聴く人を選ぶのは確か
でもこれ、好きな人は好きなんだろうなあ。
ハリネズミを演じる高野志穂さん(2002年上期の朝ドラ「さくら」主演)の、独特の節回しでくるくる回るようなセリフは聞いていて心地よいですし、吉沢悠さん、木村庄之助さん、火田詮子さんなど名古屋局の作品ではおなじみの方がわきを固めており、とても安心して聴くことができる面でも点は高いです。
聞き逃い配信の範囲
ところで本作品について気になったのが、本作品がNHKネットラジオ「らじる★らじる」の聞き逃し配信の対象ではないこと。
2017年8月の「斜陽の国のルスダン」以降、再放送も含め、すべての作品が聞き逃し対応だったのですが、なぜか本作品は対応していないようです。
これでは幻の作品になりかねない。
何か事情があったのも知れませんが、作品ジャンルが幅広く、それに応じてリスナー層も幅広い(と思われる)青春アドベンチャーです。
この作品にも多くのファンがいると思いますので、配信は是非、もれなくお願いしたいものです。
各回のタイトル
最後に本作品の各回のタイトルを記録しておきます。
冬眠の前に無事にハリネズミは誰かと会うことができたのか。
それは聞いてのお楽しみです。
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