- 作品 : 北海タイムス物語
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA+
- 分類 : 職業
- 初出 : 2019年2月11日~2月22日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 増田俊也
- 脚色 : 池谷雅夫
- 音楽 : 川崎良介、堀口純香
- 演出 : 吉田浩樹
- 主演 : 柄本佑
逆境とは!?
「早稲田大学教育学部卒業・野々村巡洋(ののむら・じゅんよう)入りますっ!!」
「整理部だっ!!」
逆境とは - 思うようにならない境遇や不運な境遇のことをいう!!
「そっそれは… 決定ですか!?」
「大手マスコミに落ち続け、記事の見出しすらまともにつけることができない。そんな若造を記者にすることは無駄だという圧力がかかってな…社会部には君の同期の浦ユリ子君が配属される。」
「なぜ…浦さんに…」
「彼女は力があるからな。力がある人間にしか私は興味はない!!」
「わっ私は新入社員ですよっ それも社会部記者になるためだけに北海道までやってきたのに…」
「ふだんの問題意識がないことが意欲の差にも現れる。なまはんかな職業意識なら記者になんかならないほうがましだ!!」
「部長!!」
「くどいっ」
これだ
これが逆境だ!!
(参考:島本和彦「逆境ナイン」)
ご自身が「北海タイムス」(1998年まで北海道に実在した地方紙)の元記者でもあるノンフェクション作家・増田俊也さんによる小説「北海タイムス物語」をラジオドラマ化した作品です。
七帝柔道記との関係
本作品の前日譚ともいえる「七帝柔道記」に続く自伝的・私小説的な作品ですが、「七帝柔道記」は北海道大学の学生であった増田さんご自身が主人公であるのに対し、本作品「北海タイムス物語」の主人公は早稲田大学卒業の野々村巡洋(ののむら・じゅんよう)なる若者であり、明らかに増田さんとは異なる人物像になっています。
一方で、この「北海タイムス物語」では元北海道大学柔道部で、北海道大学を中退して「北海タイムス」に入社する「松田」なる人物が登場するため、本作品において増田さんが擬制されているのはこの「松田」なのではないかと思います。
最初から2部作構想?
で、ここからがややこしいのですが、実は「七帝柔道記」も2016年に一足先に青春アドベンチャーにてラジオドラマ化されています。
そしてそこでは主人公の名前がはなぜか原作の「増田」から「松田」と変更されていたのです。
実は同様の名称変更はノンフェクションを原作とする「闘う女。~そんな私のこんな生き方」でも行われていたため、当時は、この名称変更も「本作品がノンフェクションではなくフィクションであることを明確するためにやっているのかな」と思っていました。
しかし、この「北海タイムス物語」で増田さん役を担うキャラクターが原作の段階から「松田」とされていることを知ると…
もしかしてこの(ほぼ続編として)「北海タイムス物語」を制作することを睨んで「七帝柔道記」ラジオドラマ化の時点から敢えて「増田」ではなく「松田」にしていたのかも?! …考えすぎでしょうか。
主演は同じだが違う役
で、さらにややこしいことに、両作品とも主役を演じた方は同じ柄本佑(えもと・たすく)さん。
つまり「七帝柔道記」で主役「松田」を演じた柄本さんが、「北海タイムス物語」では別人である主役「野々村」を演じており、「北海タイムス物語」での「松田」は別の俳優である桐山漣さんが演じているという複雑な関係にあります。
芸能一家
ちなみに両作品で主役を演じた柄本佑さんは、昨年、第92回キネマ旬報ベスト・テンにおいて主演男優賞を受賞した、まさに旬の俳優さん(受賞作は「きみの鳥はうたえる」、「素敵なダイナマイトスキャンダル」、「ポルトの恋人たち ~時の記憶」の3作品)。
柄本佑さんは俳優の柄本明さんの息子さんにして、女優・安藤サクラさん(2018年下期の朝ドラ「まんぷく」主演)の旦那さんです。
安藤さんの御父上は俳優の奥田瑛二さん(FMシアター「遥かなり、ニュータウン」紹介済み)ですので、奥田瑛二さんの義理の息子さんということにもなります。
ちなみに安藤サクラさんはNHK-FMのラジオドラマとしては2016年の「あいちゃんは幻」に主演されていますが、昨年の第92回キネマ旬報ベスト・テンでは夫・柄本佑さんと同時に「主演女優賞」を受賞されているとのこと。
恐るべき芸能一家ですね。
ブラックな職場
さて、随分と脱線してしまいましたがストーリーの紹介に移ります。
本作品は北海道にかつて実在した極貧新聞社(すでに倒産しているからかNHKなのに言い換えなしの実名で表示されています)を舞台にしたお仕事ものの作品であり、若者の成長ストーリーでもあります。
それもド直球の。
就職試験に落ち続けて不本意ながら入社した地方の新聞社。
しかも配属されたのは地味な整理部。
給料は激安だし、先輩から理不尽なまでのシゴキを受けるし、挙句の果てには学生時代からの恋人にも愛想をつかされる始末。
今の仕事を腰かけと考えて嫌々こなす野々村もダメダメだけど、職場環境はあまりにブラック。
ただ、ダメダメっぷりもブラックさもテンポよく展開されるのがこの作品のいいところ。
怖い上司
そして、第7話以降は鬼上司・権藤との絡みで怒涛の展開が続きます。
そう、この鬼上司・権藤克司を演じる津田寛治さん後半の演技が良いのです。
「タイムス」に勤めていた父を早くに亡くし新聞少年をしながら工業高校を卒業した権藤。
制作局からたたき上げで記者になったのに「実力は他社も含めて北海道ナンバーワン」とまで呼ばれた、まさに「ミスタータイムス」である権藤を津田さんが熱演。
ビジュアル的には同じ津田さんが映画「シン・ゴジラ」で演じた「巨災対」の取りまとめ役にして「はぐれ者」森文哉(厚生労働省医政局研究開発振興課長)を思い浮かべればもうバッチリ!
名言だらけ
序盤のひたすら厳しい姿も、後半の憔悴した様子も、野々村と二人三脚で駆け抜ける終盤も、そして家族に見せるやさしさも、すべてが印象的です。
特に後半、権藤の紡ぐ「編集の名言」が熱い!
「冷静に急げ、大胆に細心に」
「正確さとリズムと遊び、この3つのバランスが取れたところに見出しというものは存在する」
「脳みそがカラカラになるまで考えろ、それ以外に道はない」
原作を読むとさらに細かい技術的な名言が続くのですが、その辺はラジオドラマとしてのリズムを考えると、ある程度、端折らざるを得ないのはやむを得ないところ。
リズムの良い展開
その他、同期の浦ユリ子さん関係の話がかなり喰い足りない感じに省略されてしまっているなど、青春アドベンチャーの枠ならではの制約も感じるのですが、その分リズムが重視された小気味の良い作品になっています。
各回の最後にかかってキャスト紹介にそのままつながる曲も毎回工夫されていて、このリズムは制作側も意図しているように感じました。
第9回の放送中に、寄りにもよって北海道で地震が起こって放送が緊急地震速報で中断されたことには驚きましたが。
ブラックすぎるが…
ただ、正直なところ、この作品には聴いていて微妙な後味の悪さが残る側面もあります。
例えば、ちょっと引いてしまうほどの職場環境(退職者に対する罵倒を含め)のブラックさ、カルトっぽさとか。
とはいえ、人が転職していくってどうカッコつけてもそういう面があるものでしょうし、まして「北海タイムス」の場合、異常な待遇の悪さ(この辺は原作小説の方が詳しい)が雰囲気をギスギスさせている訳で、第三者が軽々に責めるのもおかしな話なのかもしれませんね。
ちなみに冒頭で「七帝柔道記」との関連を紹介しましたし、実際、銀河万丈さんのナレーションなど両作品は雰囲気も良く似ています。
しかし、上記の「松田」の登場以外、ストーリー上のつながりは全くありません(シリーズものとして取り扱わなかった「天下城」→「獅子の城塞」以上に関係なし)。
この作品単体でも何の問題もなく聞くことができます。
ご安心ください。
各回サブタイトル
なお、各回のサブタイトルは以下のとおりです。
- 雪の舞う新聞社
- 鬼の権藤
- こんな会社を愛せますか
- こんな俺でもモテますか
- 本当の僕を愛して欲しい
- こんな会社でも愛して欲しい
- 北海道の短い夏に
- ささやく講義
- さよならなんて言わないで
- 北海タイムスとともに
(補足)
本作品は、当ブログが年末に実施した2019年のリスナー人気投票で第3位の得票を得ました。
本作品のほかに人気だった作品にご関心のある方は別記事をご参照ください。
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