- 作品 :アクアリウムの夜
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA
- 分類 : ホラー
- 初出 : 2002年7月15日~7月26日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 稲生平太郎
- 脚色 : 今井雅子
- 演出 : 保科義久
- 主演 : 松田洋治
1年前のあの日、僕、ギーこと広田義夫は、まだ普通の高校2年生だった。
思えば引き返すチャンスは何度もあった。
4月のあの日、親友の高橋と花見にさえ行かなければ…
花見の後、“カメラ・オブ・スキュラ”なる怪しげな見世物小屋に入らなければ…
そこに映し出された奇妙な階段を探しに水族館に行かなければ…
そして、あの日、幼なじみの涼子があんな話を始めなければ…
今は後悔ばかりだ。
しかし、もう取り戻せない…
今回は、稲生平太郎(いのう・へいたろう)さん原作のホラーラジオドラマ「アクアリウムの夜」を紹介します。
ちなみに、この稲生さんは本名を横山茂雄といい、奈良女子大学の教授で英文学者なのだそうです。
横山さんの研究分野は18~19世紀のゴシック小説であり、本作品の原作も(本作品自体はフィクションですが)もともとオカルト研究の業書の1冊として発行されたものだそうです。
この辺の内容は早稲田大学の吉田隼人さんという学生さんが書かれた、こちらの文章(外部リンク)に詳しいので、ご興味のある方はそちらをご参照ください。
ただし、これはちゃんとした評論でかなり本作品の内容に踏み込んでいますので、ドキドキを楽しみたい方は、視聴後(読後)にお読み頂いた方が良いと思います。
なぜか少ないホラー作品
さて、私、ラジオドラマとホラーは親和性が高いのではないかと常々思っています。
実際、青春アドベンチャー系列の番組でも、「アクア・ライフ」などの「ライフシリーズ」を始めとする、15分完結の短編集作品では、比較的ホラー作品を見ます。
しかし、どういう訳か、5回連続以上の長編作品にホラー作品は少なく、青春アドベンチャー系列の番組のラジオドラマを250作品以上紹介してきたこのブログでも、ジャンルが「ホラー」に分類された作品は6作品だけです。
ちゃんと怖いのは…
6作品とは「闇の中の子供」、「おしまいの日」、「夏の魔術」、「魔女たちのたそがれ」、「押入れのちよ」、「泥の子と狭い家の物語~魔女と私の七〇日間戦争~」です。
しかし、この6作品の中でもそれなりに怖いのは、「おしまいの日」と「泥の子と狭い家の物語」だけで、しかもこれらも後半はあまり怖くない、というのが実態です。
そうした中で、本作品「アクアリウムの夜」は、最後までちゃんとホラーであることを追求した、青春アドベンチャーでは希少な作品です。
ホラーを説明しても…
さて、本作品の内容紹介に移りたいところですが、本作品はホラー作品です。
「夏の魔術」の登場人物である北本老人の言葉を借りれば、「ホラーは感情の激動を目的とするものであって」、「状況を論じること自体がそもそも的外れ」だそうです。
実際、本作品も、登場人物のうち誰が正気なのか実はよくわかりません(語り手すら信用できない)し、作中にでてくる謎に対して、明確な回答は最後まで提示されません。
そのため、細かいストーリー紹介は避け、以降の出演者紹介で雰囲気だけ紹介したいと思います。
是非、直接、作品をお楽しみください。
松田洋治さんの安定感
そこで、早速、本作品の出演者の紹介に移りますが、本作の主要な登場人物は青春アドベンチャーを代表するような常連出演者さんがしっかりと固めており、すばらしい安定感のある配役です。
まず主役のギー役が松田洋治さん。
NHK-FMのラジオドラマでは長期間に亘り多くの作品に出演された常連出演者さんです。
アドベンチャーロード時代の「アルバイト探偵」、青春アドベンチャーになって以降の「ふたつの剣」、「645~大化の改新・青春記」など、このブログで紹介した作品も多岐に亘ります。
いつまでも青春
いつまでたっても、少しだけ脳天気で、でも繊細で内向的な青少年の役をやらせたら、天下一品です。
本作品はホラー作品ではありますが、高校生3人の青春物語でもあります。
「オルガニスト」でも感じたのですが、「自分の望んだとおりに行かない、そもそも自分が何を望んでいるのかもよくわからない」という少年時代が内在している、鬱屈した感じ、やるせなさ、喪失感といったものを、松田さんは普通に演技しているだけで醸し出していると感じます。
有馬さん又は織田さん
また、親友の高橋役は有馬克明さん。
有馬さんも、織田優成名義でのご出演も含めて、保科義久さん演出作品を中心として非常に多くの青春アドベンチャー作品にご出演されている方です。
代表作とも言えるタイムスリップシリーズ(タイムスリップ明治維新など)のほか、「完璧な涙」、「ゲノム・ハザード」などなど。
典型的な2枚目声の方で、松田さんと対照的です。
本作品の高橋は頭脳明晰で論理的な美青年で、有馬さんの声にぴったりあったキャラクターですが、そうであるからこそ、「こっくりさん」や「白神教」、「金星人」、「霊界ラジオ」といったオカルト要素に支配され、狂気にとらわれていく様子が引き立つのだと思います。
國府田マリ子さんを忘れてはならない
また、ヒロインの良子を演じるのは、有名な声優の國府田マリ子さん。
國府田さんは、青春アドベンチャーでは「魔女たちのたそがれ」での高笑いがとても印象的な方です。
正直、途中まではキンキンした高音の声がちょっと馴染めなかったのですが、終盤のテンションの高い演技や、本作品のラストを締めるあの台詞を聴くと、やはり良子の役は國府田さんで良かったと思います。
この最後の演出は、ラジオドラマである本作品の特性を生かした秀逸なものだと思います。
清水紘治さんも渋い
その他、“カメラ・オブ・スキュラの男”を演じる清水紘治さんも、主役クラスで思いつくのは「三匹のおっさん」くらいですが、「大黒屋光太夫」、「海賊モア船長の遍歴」など、渋いおっさんの脇役としての枚挙に暇がないくらいたくさんの作品にご出演されています。
今井雅子さんの脚色が光る
最後にスタッフについてですが、本作品の脚色を担当されているのは脚本家の今井雅子さんです。
青春アドベンチャーの長編のご担当は本作品だけですが、NHK連続テレビ小説「てっぱん」などの脚本を書かれている方だそうです。
本ラジオドラマは原作からかなり改編されているようです。
今井さんがどんな脚色をしたのか、機会があったら確認してみたいと思います。
【保科義久演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
名作、迷作、様々取りそろっています。
こちらを是非、ご覧ください。
【30周年記念全作品アンケート】
2022年に当ブログが独自に実施した、青春アドベンチャー30周年記念・全466作品アンケートにおいて、本作品が8票を獲得して15位タイとなりました。
リスナーの感想等の詳細はこちらをご覧ください。
コメント
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楽しく聴けました!やっぱりホラーとラジオドラマは相性抜群です。
良子役の國府田さんの可愛い声が良かったですね。しかし、ラジオドラマへの出演が少ないのは残念です。
出門鬼三郎の記録から重要なところが切り取られているところから佳境に入り、喫茶『ヴォイス』のお姉さん多佳子と図書室の司書英子の証言の食い違い、そして良子が行方不明になったあと多佳子と英子も姿を消してしまいますが、この二人はぐるだったのでしょうか。
初出からおよそ20年前の作品ですが、今聴いても楽しめる素晴らしい作品です!原作を読みたい気持ちになりました。
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コン様
コメントありがとうございます。
ホラーとラジオドラマは相性がいいと思うんですよね。
もっとつくってほしいなあ。