ピーチ・ガイ~ハリウッド・リメイク『桃太郎』~ 作:藤井青銅(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : ピーチ・ガイ~ハリウッド・リメイク『桃太郎』~
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B+
  • 分類 : コメディ
  • 初出 : 2021年11月1日~11月12日
  • 回数 : 全10回(各回15分・予定)
  • 作  : 藤井青銅
  • 演出 : 松浦禎久
  • 主演 : 戸塚純貴

A long time ago in a galaxy far,far away…
A long time ago…
State of GeorgiaのPeach Country,Fort ValleyにJamesじいさんとMaryばあさんが住んでいました。
One day,MaryばあさんがChattahoochee RiverにBarbecue Partyに行くと、大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこ、と流れてきました。
家に帰ったMaryばあさんがその桃を切ると中から珠のような男の子がでてきました。
Vietnam Warで一人息子を亡くしていた老夫妻はことのほか喜び、この男の子に“Peach Guy”と名付けて自分たちで育てることにしました。
大きくなったPeach Guyは、Maryばあさん手作りのDoughnutで、Greyhound DogとChimpanzeeとBald Eagleを仲間にして、廃液を垂れ流す諸悪の根源Devil IslandことDiversity Industrial社の工場に乗り込みます…



本作品「ピーチ・ガイ~ハリウッド・リメイク『桃太郎』~」は、「青春アドベンチャーに最も多くの脚本を書き下ろしている男」藤井青銅さん脚本のラジオドラマです。

元ネタも藤井青銅

本作品、ホームページでは「作:藤井青銅」とされています。
この「作」表記は通常、番組オリジナル脚本の作品の時に使われます。
しかし、藤井青銅さんには「ハリウッド・リメイク桃太郎『グランパ、グランマ。ぼく、悪い奴らを退治してきます!』」という書籍が先に出版されています。
この書籍は「日本の昔ばなしや童話(花咲か爺さんやサルかに合戦)をハリウッドがリメイクしたら」、「外国の昔ばなしや童話(人魚姫やアリとキリギリス)を日本のドラマとしてリメイクしたら」、という小ネタが集まった内容なのですが、このうち表題作でもある桃太郎の部分を取り出して元ネタとしたのが本作品です。

自分の作品を自分で脚色

しかし単に仮想のハリウッド版「ピーチ・ガイ」をラジオドラマ化したわけではなく、「ピーチ・ガイ」を劇中劇という位置付けにして、この企画に振り回される出版社の青年を主人公にした作品へと再構成しています。
この構造は、同じ2021年にラジオドラマ化された「人工心臓」に近いもので、本来であれば「原案:藤井青銅」とされるところでしょうが、何せ原案を書いたのもラジオドラマ版の脚本を書いたのも同一人物なので、「作:藤井青銅」だけで済ませているのだと思います。

?どこかで聴いたような…

さて、物語は傾きかけた童話専門の出版社の社長が代替わりするところから始まります。
新社長のエイミー(たぶん日本人)は、著作権フリーの童話「桃太郎」を原作としたハリウッド映画で一発あてることを目論んで、“黒澤ルーカスバーグ”なる、いかにも怪しい名前のプロデューサーを連れてきます。
そして「才能がある」とおだてられた若手社員・東森がその映画の脚本を書くことになるのですが、ルーカスバーグが次々と繰り出す「ハリウッド・ルール」に振り回され、「桃太郎」は徐々に、得体の知れない「ピーチ・ガイ」へと変貌していきます。
…と、ここまで聞いて「どこかで聞いたことがあるような…」と思ったあなたは相当なオールドファン!
そう、「サウンド夢工房」時代の藤井青銅さんの名作「愛と青春のサンバイマン」とよく似た展開の作品なのです。
全般にパロディや風刺が多めなのも同じですし、徐々に脱線がひどくなっていくのも同じ。
となると傑作にならざるを得ない!といいたいところですが…

もっと過激に!

全体的にパロディとしてはかなり薄味。
ハリウッドはもちろんのこと、異世界転生とか伏線回収とか今風のネタも盛り込んでいるのですが、あまり内容が具体的ではない。
ジャンルや手法を丁寧に説明するのではなく、具体的な作品のパロディを、リスナーがついていけないくらいガンガン出して欲しかった。
「スター・ウォーズ」や「インデペンデンス・デイ」なんて日本から見ると距離がありすぎてネタとして安全過ぎます。
もっと火の粉が飛んできそうな身近なネタでやって欲しい。
ゾンビネタの回は「鬼滅の刃」とかぶっ込んじゃうくらいでよかったと思います。
「愛と青春のサンバイマン」の頃は、作中でネタにしていた「宇宙戦艦ヤマト」などとの距離が近かったと思われる藤井青銅さんですが、今では自分事としてリアリティを持って書くのが難しいくらいサブカル界隈と距離が空いてしまったのかなと少し悲しく思いつつ、原作本をみてみたのですが…

まだまだいけるのか?

その中に「転生したら茶釜だった件」というぶんぶく茶釜リメイクネタがあるではないですか。
おー!まだまだいけるじゃんと思って読んでみたのですが、そこで…

「おそらくこんな「世界」なんだと思うのですが、作者(藤井青銅)がオッサンのため、異世界転生モノはよくわかりません。間違っていたらゴメンナサイ。」

などとい言い訳の一言を発見してしまいました。
いくらなんでもこれは…
人の作品を茶化すのにラノベ1冊読むくらいの労力を掛けられないのでしょうか。
それとも読む価値がない、時間が勿体ないとでも思ったのでしょうか。
いやそれならそれで立派な主張ですが、少なくとも火の粉が飛んできそうな状況をこんな一言で逃げようとするのはプロの文筆家としてどうなんだろう。
原作本のこととは言え、すっかりがっかりしてしまったころ、このラジオドラマ版も中途半端な恋物語が挟まったり、SDGsやダイバーシティなど一見世相を皮肉っているようで弱者を馬鹿にするような匂いがしたりして、「これは久しぶりに格付け”C”だ。それ以外ありえない。」とひとりで盛り上がっていたのですが…

気軽に聞ける

最後まで聞いてみるとうまく収まっていて意外と悪くない結末。
正直、さすがにうまいです。
青春アドベンチャーには気軽に聴ける作品も必要、と常日頃から思っている身としては、全体としてみると悪くない印象になりました。
そもそもサンバイマンがあるから私が勝手に期待してしまっただけで、今の藤井青銅さんにパロディとか毒とかを求めること自体が間違っていたのかもしれません。
藤井青銅さんスミマセン(←こういう逃げが格好悪いのか)。

出演者の紹介

さて、「イーストウッド」のペンネームで「ピーチ・ガイ」の脚本を書くことになる主役の出版社員・東森賢治を演じるのは(東森=イーストウッド、というネタはとり・みきさんによる「クルクルくりん」が先ですね)、俳優の戸塚純貴さん。
2010年の第23回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト出身で、「仮面ライダーウィザード」奈良瞬平役などで有名。
実は東森と同じ岩手県出身です。
その他、東森が憧れる書店員の百合役に元宝塚歌劇団花組トップ娘役の蘭乃はなさん、女社長エイミー役に七味まゆ味さん、劇中劇のピーチ・ガイ役に丸川敬之さん、怪しいハリウッドプロデューサー・ルーカスバーグ役に三上市朗さんなどが配されています。
三上市朗さんは2000年前後の藤井青銅さん作品、「笑う世紀末探偵」、「踊る21世紀 Part2」などにも出演されています。

【藤井青銅原作・脚本・脚色の他の作品】
青春アドベンチャーの長い歴史において、最も多くの脚本と最も多くの笑いを提供しているのが脚本家・藤井青銅さんです。こちらに藤井青銅さん関連作の一覧を作成していますので、是非、ご覧ください。

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