これは、私の落とし噺 作:本田誠人(FMシアター)

格付:B
  • 作品 : これは、私の落とし噺
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : B
  • 分類 : 少年(中高)
  • 初出 : 2021年1月9日
  • 回数 : 全1回(50分)
  • 作  : 本田誠人
  • 演出 : 尾崎達哉
  • 主演 : 白石聖

「母さん落語する。やってもいい?」
母が突然、落語家になりたいと言い出した。
若かりしあのころの夢にもう一度挑戦したいというのはわかる。
若いころオードリー・ヘップバーンに憧れていたのもわかる。
でも、なぜ落語?
恥ずかしい、絶対やめて欲しい…って言いたかったけど。
いつからだろう、相手の顔色を窺って感情を表に出さなくなったのは。
目立つな、騒ぐな、叩かれるな。
それが私の絶対条件、3箇条。



本作品「これは、私の落とし噺」は宮崎県日向市で開かれている「ひむかの国こども落語全国大会」をモチーフにしたラジオドラマで、NHK宮崎局が制作しました。

甲子園もの?

同じFMシアターで放送された「牧水 短歌甲子園」を舞台にした「いざ行かむ 短歌甲子園へ」や、全国高等学校珠算競技大会を題材にした「弾け!はじけろ!そろばん甲子園」と同様に、高校生女子の成長を描いたご当地ものの作品ですが、これらの先行作品と違うのは落語大会自体はほとんど描かれないこと。
ストーリー的にこれらのいわゆる甲子園ものとは違って、地元の落語界や家庭内及び親友との間の閉じた世界で進んでいく、家族ものに近い作品です。

白石聖さんが演じる落語

さて本作品はタイトルどおりその中心に落語がある作品です。
主人公の真夏(まなつ。宮崎っぽい名前ですね)が取り込むことになるのは、古典落語の演目である「かぼちゃ屋」。
終盤にほぼ全体を主演の白石聖さんが演じる(というのかな、落語の場合)場面があります。
白石聖さんはこの記事をアップする前週に放送されていた青春アドベンチャー「かがみ池のからくり」にもご出演されていましたが、現在23歳の女優さん。
結婚情報誌「ゼクシィ」CMガールにも選ばれたことのある美人さんですが、すでにいくつかのドラマでヒロインや主役を演じた経験があり、演技経験は豊富です。

落語は素人…のハズ

ただ、中学時代は吹奏楽部、高校時代は軽音楽部とのことなので、流石に落語経験はなさそうです。
本作品は落語指導として、実際に宮崎の「ひむかこども落語会」で落語指導をしている柱大黒さんと三遊亭小遊三門下の三遊亭遊喜さんがクレジットされていますが、白石さんが終盤の「かぼちゃ屋」のシーンを淀みなく話すためには相当練習したのではないかと思います。
その努力だけでも聴く価値はあると思います。
ちなみに本作品の放送直前に夕刊デイリーwebに掲載された柱大黒さんと脚本の本田誠人さんの対談は以下のページで読むことができます。

(外部サイト:柱大黒という男<対談>)
http://www.yukan-daily.co.jp/news.php?id=90265

なぜ落語?

さて、作品内容としては、あるワンテーマを中心に若者の成長と家族の絆を描くという、とてもFMシアターらしい作品です。
残念なのは、ある目的のために母親は落語を始めるのですが、母親が選んだのが落語である理由がいまひとつ伝わってこなかったこと。
聴取後に、上記の記事を読んで脚本家さんが落語をテーマに選んだ背景は理解できたのですが、できればもう少し落語の持つ何らかの特性と、ストーリー展開が結びついているとよかったと思います。

コロナ要素は必要?

また本作品も最近のFMシアターらしく、新型コロナウィルス感染症をストーリーに取り込んでいます。
このことは、今という時期に放送することによりリアリティを増しているとは思うのですが、あまり普遍的なテーマにつながるような使われ方ではなく、無理にコロナは入れなくても良かった気がします。
まあ、個人的に「いざ行かむ 短歌甲子園へ」のような若者の成長物語らしい外連味のある甲子園展開を期待しちゃっただけで、これはそういう作品ではなかったのかも知れません。

なんとなくモヤモヤ

その他、師匠や母親の言動に「てげてげ」(宮崎弁で「いい加減」「大雑把」「ほどほど」くらいの意味)感が強すぎるように感じましたし、最後の展開も娘が納得したのかやや疑問でしたが、この辺は個人の感じ方の問題でしょう。
タイトルにつながる終わり方は綺麗ですし、真夏がよしと思ったのならそれが真夏の成長だと思います。

山田キヌヲさんの落語は…

さて、主役の白石聖さんについては先ほど述べたとおり。
正直、個人的には落語の善し悪しはわからないのですが、今回の熱演が是非、今後につながって欲しいものです。
一方、あえてドヘタな落語を披露している(と思われるのが)母親役の山田キヌヲさん。
ぼろ鳶組シリーズで主人公源吾の妻・深雪を演じている山田さんですが、きっちりした性格の深雪とは全く異なったキャラクターを演じているのはさすがです。
また、ふたりの師匠となる柱大黒天(柱大黒さんがモデルですね)を演じたのは俳優のマギーさん。
さすがに柱大黒さん、ご本人の出演ではありませんでした。

合掌

さて、最後に1点だけ。
本作品の脚本を書かれ、出演もされている宮崎県出身の俳優、脚本家の本田誠人さんですが、本作が放送された10日後の2021年1月19日に、余命宣告を受けていることを公表。
1月30日に47歳の若さですい臓がんで亡くなられたそうです。
ご冥福をお祈り申し上げます。


本作品は当ブログで実施した2021年FMシアターアンケートの1位になりました。
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