海賊モア船長の遍歴 原作:多島斗志之(青春アドベンチャー)

格付:AA
  • 作品 : 海賊モア船長の遍歴
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AA
  • 分類 : 冒険(山岳海洋)
  • 初出 : 1999年1月4日~1月29日
  • 回数 : 全20回(各回15分)
  • 原作 : 多島斗志之
  • 脚色 : 西山務
  • 音楽 : 佐野芳彦
  • 演出 : 平位敦
  • 主演 : 渡部篤郎

大航海時代のインド洋。
そこは、イギリスとオランダ、そして東インド会社とムガール帝国の貿易船・軍船が縦横に行き交う、一大フロンティアだった。
イギリス人ジェームズ・モアは、東インド会社の貿易船で航海士を務める優秀な水夫だったが、海賊との内通を疑われて船を追われ、ようやく帰った母国では妻を亡くし、失意のどん底にあった。
そんなモアを再び海に誘ったのは昔なじみの水夫“大樽”。
彼の乗り組む海賊討伐船「アドヴェンチャー・ギャレー」へ水夫として乗り込むことにしたのだ。
しかし、一大決心をして乗り込んだ「アドヴェンチャー・ギャレー」は、何と最初の獲物すら捕らえないうちに海賊船への転身を余儀なくされてしまう。
海賊との内通を疑われて転落した人生。
再起をかけて乗った船で、本当の海賊になってしまうという皮肉。
モアは自分の人生に戸惑いつつも、仲間たちと共に生き残るために必死の行動を始める。
これは300年前のインド洋で数奇な運命をたどった一人の水夫の物語である。



多島斗志之さん原作、渡部篤郎さん主演のラジオドラマで、青春アドベンチャーでは異例の連続20回で制作された作品です。
ちなみに、青春アドベンチャーの20年以上に及ぶ長い歴史の中でも、連続20回で制作された作品は、「DIVE!!」や「少年H」など、ごく僅かしかありません(詳細はこちらの記事をご参照ください)。

なぜか長編が多い海賊もの

しかし、そのごく僅かな20話ものの中に、本作品「海賊モア船長の遍歴」と「レディ・パイレーツ」という2作品もの“海賊もの”があるのは、ちょっと不思議です。
ただ考えてみると青春アドベンチャーのご先祖番組である「FMアドベンチャー」の第1作が、一種の海賊ものである「無頼船長トラップ」であったわけで、この枠と海賊はもともと特別な縁があったのかも知れません。

痛快娯楽作品

さて、本作品は海賊となったモア船長の波瀾万丈の冒険を描く作品です。
原作は、「このミステリーがすごい! 1999年版」の17位だったそうですが、終盤にちょっとしたトリックで敵を欺くシーンがあったりするものの、特段ミステリー色が強い作品ではありません。
戦いあり、お宝あり、失敗あり、謎あり、裏切りあり、そして恋ありの冒険物語です。
特段のメッセージ性がないという点では、もうひとつの海賊物語である「レディ・パイレーツ」と同じです。
しかし、「レディ・パイレーツ」が差別や復讐や妄嫉といった負の要素が目立つ、よく言えば本格的な、悪く言えばやや暗めの作風であるのに対して、本作品は娯楽に徹した作品です。
本作品のモア船長もかなりきつい運命をたどるのですが、変に深刻ぶった雰囲気でドラマをつくっていないのが、むしろ好印象でした。

印象的なテーマ曲

この明るい雰囲気をつくっている要因のひとつが、佐野芳彦さんの音楽、特に本作品のためにつくられたオリジナルテーマ曲「明日のパイレーツ」でしょう。
毎回の冒頭で、適度に力の抜けたこのテーマ曲がかかることや、作中で酒を飲んで興に乗った海賊たちがこのテーマ曲を合唱することが、全体の雰囲気を明るくしていると感じました。

メリハリの利いた展開

また、なかなか先が読めないストーリー展開ではあるのですが、一回ごとの内容はメリハリがきいており明瞭です。
仮に冒頭5回の概要を一言で表すならば以下のとおりでしょうか。

  1. モア、海に戻る
  2. 海賊討伐船変じて海賊船に
  3. モア一党、独立する
  4. 相棒バロン登場、そしてモア“船長”誕生
  5. モア船長の初仕事

主演は渡部篤郎さん!

さて、出演者に話を映しますと、まず主役のモア船長役を、冒頭で書いたとおり、俳優の渡部篤郎さんが演じています。
渡部さんの声質が低いことに加え、作品冒頭ではモアが失意の底にあることもあって、台詞がちょっと聞き取りづらく、ラジオドラマには向いていないのかな、とも思いました。
しかし、中盤以降、モアが生き生きとしてくるに従って違和感はなくなり、豪放・がさつな部下の海賊たちとは違った、機知に富んでいるけどちょっと内向的なモアの魅力がでていると感じました。

準主演の安原義人さんも魅力的

また、謎多き男として登場するバロンを演じるのは安原義人さん。
「洋画の二枚目の声」というイメージの強い安原さんですが、青春アドベンチャー系列のラジオドラマ番組では、80年代の「成層圏ファイター」・「最後の惑星」などから、2000年代の「ラジオ・キラー」や「イカロスの誕生日」まで多くの名作で活躍されています。

脇役陣も豪華

その他、大樽役の石井愃一さん、ドクター役の沢りつおさん、鍛冶屋役の八代駿さん、爺様役の外波山文明さん、コックの赤鼻役の祖父江進さん、大工頭役の江良潤さん、ビリー役の植田真介さんなどが中心的な出演者です。
しかしこの他にも、一部の回にしか登場しない役、たとえばアドヴェンチャー・ギャレーの初代船長であるキッド船長役の清水紘治さん(三匹のおっさん大黒屋光太夫)、ムガール皇帝役の熊倉一雄さん(封神演義闇の守り人)、東インド会社のマドラス長官トマス・ピット役の久米明さん(妖精作戦失われた地平線)、そして語りの家弓家正さん(Meg暗殺のソロ)などもなかなかの有名どころを揃えています。
ちなみにヒロイン(と思われる)スービア役は元アイドル・セイントフォーのメンバーの板谷祐三子さん。
大作にふさわしい充実した配役です。

担当作品が少ないスタッフコンビ

一方、スタッフは脚色が西山務さんで、演出は平位敦さん。
西山さんは青春アドベンチャーでは本作品と「新宿鮫・氷舞」のみを担当されていた方です。
また、平位さんは青春アドベンチャーは1997年から1999年の短い間しか担当されていなかった方で、演出された作品も少ないのですが、「分身」や「しゃべれどもしゃべれども」などの評価の高い作品を担当されています。

これだけの出来なら続編も欲しいところ

ところで、本作品の放送時には存在しなかったのですが、その後の2005年に原作小説の続編に当たる「海賊モア船長の憂鬱」が発売されました。
残念ながらこちらはラジオドラマ化されていません。
演出の平位さんが現在青春アドベンチャーに関わっていない、原作者の多島さんが失踪中など、難しい理由もあろうかと思いますが、是非、またモア船長とその仲間たちに出会いたいものです。


【30周年記念全作品アンケート】
2022年に当ブログが独自に実施した、青春アドベンチャー30周年記念・全466作品アンケートにおいて、本作品が14票を獲得して6位タイとなりました。
リスナーの感想等の詳細はこちらをご覧ください。



コメント

  1.   より:

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    高校受験の時、息抜きに聞いてました
    全話テープに録音し、原作の小説まで購入する程に大好きです
    苦労性のモア船長がとても魅力的でした

  2. Hirokazu より:

    SECRET: 0
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    コメントありがとうございます。
    おっしゃるとおり、モア船長って海賊らしい軽薄さやちゃらんぽらんさが全くないし、決断力はあるにしても、割と状況に対して受け身なんですよね。
    タイトルに「遍歴」とか「憂鬱」が付いてしまう海賊って珍しいですよね。

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