- 作品 : シブちゃん
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : B
- 分類 : 職業
- 初出 : 2015年11月2日~11月13日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 香取俊介、田中渉
- 脚色 : 香取俊介
- 音楽 : 川田瑠夏
- 演出 : 藤井靖
- 主演 : 小野賢章
“シブちゃん”こと、都立池袋西高・定時制2年生の大河原渋(おおがわら・しぶ)が姿を現したのは、行方不明になってから1週間後だった。
この1週間の間、何をしていたのかを一切語らないシブちゃん。
しかし、シブちゃんの中の何かが変わっていた。
父親は事業が失敗して破産・失踪、母親は難病でもう何年も生きられない。
すっかり人生を諦めかけていたはずのシブちゃんが、一念発起。
起業して母親の手術費用1億5千万円を稼ぐと言い出したのだ。
そう、確かにシブちゃんは変わった。
周りの人間には1週間でも、シブちゃんにとっては8年間の歳月が過ぎていたのだ。
それもただの8年間ではない。
幕末から明治に至る濃密な8年間を渋沢栄一という希代の偉人と伴に駆け抜けたのだ。
渋沢栄一の言葉を胸に、シブちゃんと仲間達の“エコ食堂”が動き始めた。
香取俊介さん・田中渉さん原作の「渋沢栄一の経営教室Sクラス」を原作とするラジオドラマです。
ちなみに、本ラジオドラマ放送の概ね3年半後の2019年4月に新しい1万円札のデザインに渋沢栄一の肖像画が採用されることになり、さらに1年半後の2021年1月から渋沢栄一を主人公にした大河ドラマ「青天を衝け」が放送されることになります。
時系列的にみて本作品が先行したのは単なる偶然のようですが、「タイムスリップシリーズ」を放送していた頃の青春アドベンチャーだったら大河ドラマの放送に合わせて再放送したかもしれませんね。
数少ないノンフェクション原作
さて、青春アドベンチャーは、小説を中心に児童文学や漫画などのフィクションを原作とするラジオドラマ番組です。
ただし、長い歴史の中では「垂直の記憶」や「闘う女。~そんな私のこんな生き方~」、「1985年のクラッシュ・ギャルズ」などのノンフィクションを原作とする作品、「少年探検隊」などのエッセイを原作とする作品(更に昔の「ふたりの部屋」などに多い)もありました。
そんな中でも本作品の原作である「渋沢栄一の経営教室Sクラス」は実用書・ビジネス書に分類される作品であり、特別に異例な原作選択です。
原作者自身による脚色
ただ、上記のノンフィクション原作作品と同様、あくまでドラマとして味付けされているため、ラジオドラマ番組で放送されても特段違和感のない作品になっています。
そのように巧みに脚色された原因のひとつが、原作者のひとりである香取俊介さんが自ら、本ラジオドラマの脚色をされていることにあると思います。
香取さんの本業が脚本家であったからこそ、なしえたことだと思いますが、原作者が自ら脚色した作品は「昔、火星のあった場所」、「ダーク・ウィザード~蘇りし闇の魔導士~」、「恋愛映画は選ばない」など青春アドベンチャーではかなり限られています。
二重の意味で本作品はなかなかレアな成り立ちをしている訳です。
タイムトラベル要素もあるが
さて、本作品は“シブちゃん”こと大河原渋(おおがわら・しぶ)が、高校の同級生達と伴に起業していく様を描いた作品です。
渋沢栄一は、シブちゃんがタイムスリップ(?)した時の記憶の中で出てくるほか、霊魂的な存在の「シブジイ」として時々現れては(あまり実践的でない)アドバイスをしていきます。
そのため、作品の本筋はあくまで現代における起業ストーリーであることから、本ブログにおけるジャンルは「タイムトラベル」ではなく「職業」としました。
ホントに流行るのか?
ところで、作中でシブちゃんが立ち上げようとするのは、「ヘルスジム付き食堂」、通称「エコ食堂」。
常識にとらわれないことを目指すシブちゃんらしい独特のアイデアですが、客観的に見て、全く成功しそうにないのが本作品のポイント。
本作品は香取俊介さんとともに田中渉さんも原作者として名を連ねています。
個人的には、本作品と同様に田中さんが原作を書いている「ウォーターマン」のように、本作品でも青春アドベンチャーの枠にあった巧みな展開により、このパッとしない起業アイデアが成功していくさまが巧みに描かれるのではないかと期待していたのですが、最後までどうにもご都合主義的な展開が続き、起業成功の感動がうまく伝わってきませんでした。
何を提供するのかが大切なはず
また、時々、挟まるシブジイの言葉には確かに含蓄があるものの、折角のタイムスリップ設定があまり生かされているようには感じませんでしたし、大体、食堂で起業するのに、メニューを薬膳料理にしようと考え始めるのが第6回って遅すぎませんか?
まあ、消防法がとても厳しいということはよくわかりましたが。
チャレンジ精神は買う
そのため、啓蒙書としてみても、エンタテイメント作品としてみても、中途半端な出来だというのが正直な感想です。
そのため、本作品に対する私の格付けは上記のとおり”B”となってしまい、”Sクラス”とはいえないのが残念なところでした。
ただ、このような単純なフィクションといえない特殊な原作本を採用するチャレンジ精神には素直に拍手を送りたいと思います。
これからも是非、積極的なチャレンジを見てみたいものです。
出演者紹介
さて、本作品で主役のシブちゃんを演じるのは青春アドベンチャーではおなじみの俳優・声優の小野賢章さん。
青春アドベンチャーでの代表作は「風神秘抄」でしょうか。
声変わり前の11歳の時の「王の眠る丘」から出演されおり、「光の島」(13歳)、「風神秘抄」(16歳)、「闇の守り人」(17歳)、「砂漠の歌姫」(22歳)、そして本作品放送時点で26歳と、青春アドベンチャーとともに成長してきたといってもよいほどですね。
また、本作品は、同級生の沙也香と、妹の美由紀がヒロイン的な位置付けにあり、それぞれ、タレント・女優の横田美紀さんと、女優の美山加恋さんが演じていらっしゃいます。
横田さんが小野さんと同学年、美山さんが年下と、役の年齢の上限関係をなぞっているのがNHKらしいところです。
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