- 作品 : ある暗号兵の告白
- 番組 : FMシアター
- 格付 : B
- 分類 : 日常
- 初出 : 2024年6月29日
- 回数 : 全1回(50分)
- 作 : 滝本祥生
- 音楽 : 森悠也
- 演出 : 真銅健嗣
- 主演 : 吉本実憂
アルバイトにあまり多くを求められても困る。
「市民健康だより」の取材の時だって実は怒られてばかりだったし、写真が笑顔だったのはたまたまに過ぎない。
気難しい陶芸家・前田正太郎さんが気を許してくれたわけではないのだ。
ましてや戦争体験の取材なんて受けてくれるとは思えない。
でも私はアルバイト、やれと言われたらやらざるを得ない。ああ気が重い…
本作品「ある暗号兵の告白」はNHK-FMのFMシアターで放送されたオーディオドラマで、2024年6月に放送されました。
NHKお得意の戦争体験継承もの?
NHK-FMでは8月の終戦記念日の前後に戦争に関するドラマを放送することが多いのですが本作品はそれとは異なり6月放送。
でも内容的には戦争体験を若い世代にどう伝えていくかがテーマであり、いかにもNHKらしい真面目な内容のドラマです。
そういった中で少し特徴的なのが戦争体験の中でも「暗号兵」という特殊な兵科を題材にしていること。
暗号兵といっても敵軍の暗号を傍受・解読するのではなく、自軍の通信を暗号化・送受信・復号する役割の兵隊さんです。
敵軍の暗号を解読すればスパイ映画的なサスペンスものになるのかも知れませんが、そこまでの要素はありません。
暗号兵ならではの脚本?
ただ、やはり特殊な体験ではあります。
その特殊性は本作品のストーリーでも、①過去の前田氏の犯罪のタネ、➁物語最後に明かされる元上官からのメッセージなどで生かされています。
ただそれを生かし切った脚本になっているかというと微妙なところ。
全般としてNHKでよくある戦争体験の追体験ものという枠は出ていないとは思いました。
吉本実憂さんの声と演技がイイ!
そうした中、本作品を興味を持って聞けるものにしているのが出演者さんたちの演技。
主役の24歳のアルバイト・夕奈を演じるのは吉本実憂さん。
第13回(2012年)全日本国民的美少女コンテスト出身の方で、特集オーディオドラマ「遥かな旅 蝶の道」(2019年)、「優しい死神の飼い方」(2022年)にも出演されていましたが、個人的には「コクハラ」(2023年)での可愛さがなんといっても印象的。
本作品でも自然な演技(夕奈は決して物事に前向きな人間ではない)の中にどこか色気があり好印象です。
戦争を伝えることの困難さ
また気難しい陶芸家・前田正太郎を演じるのはこれもNHK-FMではおなじみの山野史人さん。
最近のNHK-FMオーディオドラマの老人役の常連ですがさすがの演技です。
でもよく考えると山野さんは83歳で、役の設定年齢(98歳)よりはだいぶ若い。
考えてみると山野さんの年齢は現実世界では現役の最年長の部類にあるわけで、98歳で現役の人はごくわずか。
それを考えると実際の戦争体験者の話を聞くことがいまやどれだけ困難なのかわかります。
そういう意味でもドラマという形式で考えるきっかけをつくるのは意味はあるのかもしれませんね。
本作品は当ブログで実施した2024年リスナーアンケートのFMシアター・作品編で第4位の得票を得ました。
リスナーの感想等は以下をご覧ください。

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