黒十字の魔女 ヴィクトリア朝怪奇冒険譚外伝 原案:田中芳樹、脚本:菊地百恵(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : 黒十字の魔女 ヴィクトリア朝怪奇冒険譚外伝
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B
  • 分類 : 幻想(海外)
  • 初出 : 2021年11月29日~12月10日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原案 : 田中芳樹
  • 脚本 : 菊地百恵
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 大内厚雄

1858年秋、大英帝国の首都ロンドン。
クリミア戦争から帰還して2年、数々の怪奇事件に巻き込まれ多事多難な日々を送ってきたエドモンド・ニーダムとその姪のメープル・コンウェイ。
ようやく落ち着いた日々がやってきたふたりだが、死体が集団で移動するという怪しい噂を聞きつけてしまう。
しかも、移動する死体の首には奇妙な形の痣のようなものがあったという。
知り合った医師のグレイはそれは感染症の発疹ではないかという。
確かにこの街の環境は相変わらず劣悪で感染症の危険とは常に隣り合わせ。
コレラで家族を失っているニーダムとメープルには頷ける話ではある。
しかし、やがてふたりはこの痣と同じ形を他でも見かけることになるのだった。





田中芳樹さんの小説シリーズ「ヴィクトリア朝怪奇冒険譚」は「月蝕島の魔物」、「髑髏城の花嫁」、「水晶宮の死神」の3作品が執筆され完結。
青春アドベンチャーでもそのすべてをラジオドラマ化し、めでたく2017年に完結!…したはずだったのですが、なんとその続編として制作されたオリジナル脚本のラジオドラマが本作品「黒十字の魔女 ヴィクトリア朝怪奇冒険譚外伝」なのです。
これでこのシリーズも4作品目となり直前に放送された「菩薩花 羽州ぼろ鳶組」のぼろ鳶組シリーズと並んで異例の長期シリーズになりました。

メープルにまた会えるとは

このブログは2012年、第1作の「月蝕島の魔物」が放送されたころにスタートしました。
そんなこともあり、個人的にも思いれのあるシリーズなのですが、「水晶宮の死神」が終わった時点でもうメープルともお別れだと思っていました。
それがまさかこのような形で再び「おじさまとメープル」の会話を聞くことができるとは思いませんでした。

原作付き→原案付き

類似の企画として、小説を原作とする「海に降る」(青春アドベンチャー)のラジオドラマオリジナルのスピンオフ作品「星を掘れ!」(特集オーディオドラマ)が制作されたことはありますが、同じ主人公による「続編」ではありませんでした。
原作付きとしてスタートし、途中から原作者は「原案」という扱いになり、同じ主人公でありながらオリジナル脚本でシリーズが継続した作品としては「タイムスリップシリーズ」(第1作は「タイムスリップ明治維新」)があるのですが、そちらは第1作の段階から登場人物等についてオリジナル色が強かったので、2作目からのオリジナル展開も自然でした。
それに対して本作品は原作シリーズの完全ラジオドラマ化後に、追加でオリジナル作品が制作されたものであり、初めてのケースと言って良いと思います。
ちなみに、公式ホームページ(スタッフブログ)では「言わば田中芳樹さん公認の“二次創作”」という表現をしています。
本作品のタイトルについている「外伝」という言葉はこのような経緯から原作がないことに遠慮して付けたのだと思いますが、いわゆる「外伝」ではなく実質的には「続編」であり、それを受けて作品名も「●●●の○○」(3文字+“の”+2文字)という形を踏襲しています。

キャラクターの蓄積

さて、実質的な第4作目ということもあり、本作品には過去の作品で登場した多くのキャラクターが再登場します。
具体的には作家のディケンズ(演:酒向芳さん)や、オックスフォード大のドジスン教授(実は作家のルイス・キャロル、演:吉田朋弘さん)、そしてウィチャー警部(演:近江谷太朗さん)やフローレンス・ナイチンゲール(演:池田有希子さん)といった面々。
さすがに4作目ともなると作品世界が豊かです。

ラスボスは魔女

そして加えて元宝塚歌劇団コンビが演じるハミルトン夫人(演:緒月遠麻さん)と、ジュリア(演:花乃まりあさん)という今回のゲストヒロイン?が花を添えています。
そう本作はタイトルの「魔女」のとおりシリーズ初の女性がラスボスの作品なのです。
そもそも、当シリーズの今までの作品は(「髑髏城の花嫁」は例外でしたが)折角積み上げた19世紀的な世界観を、終盤、わけのわからない怪物が滅茶苦茶にしてしまうのが通例でした。
本作品でも、ある有名な怪物(←ネタバレ注意)に似た怪物が登場するのですが、重要な役割を担うことはなく、ラスボスはあくまで人間としての苦悩を抱えたまま、人として罪を清算したことが、作品としての余韻に良い影響を与えたと思います。

コロナ禍ならでは?

ところで、本作品の特徴は感染症と絡めてつくられていること。
いうまでもなく当時のロンドンの衛生環境が劣悪であったことが前提にあるのですが、本作品が制作されたのが2021年であることを考えると、脚本家の頭のどこかに新型コロナウィルス感染症があったことは確かだと思います。
コロナが思いもよらないところで青春アドベンチャーに影響を与えたことになりますが、他にもクリミア戦争絡みの心の傷(トラウマ)もキーとして扱われています。
感染症と精神医学というキーファクターに、クリミア戦争やナイチンゲールなどを絡めたストーリーは流石だと思いました。
とはいえ、シリーズの基本的なフォーマットや内容の限界を覆すまでには至らなかったとも感じます。
まあ、メープルの「おじさま!」をもう1度聞けただけで十分ではあるのですが。


【田中芳樹原作・原案の他の作品】

※VHA=ヴィクトリア朝怪奇冒険譚


【パクス・ブリタニカの時代を舞台にした作品】
大英帝国の最盛期である19世紀から20世紀初頭にかけてのイギリスを舞台にした作品を整理しました。
ヴィクトリア朝から第1次世界大戦の勃発するジョージ5世時代まで。
あの作品とこの作品の設定年代の順番は?こちらをご覧ください。


コメント

タイトルとURLをコピーしました