- 作品 : アナスタシア・シンドローム
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA+
- 分類 : 幻想(海外)
- 初出 : 1994年8月29日~9月9日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : メアリ・H・クラーク
- 脚色 : 香取真理
- 演出 : 川口泰典
- 主演 : 前田悠衣
「アナスタシア症候群(シンドローム)」とは、ロシア革命のさなかに謀殺されたロシア皇女アナスタシアが、現代の人間に憑依し人格を乗っ取ったとされた現象である。
アナスタシアシンドロームの提唱者である精神科医のパテール博士は、軽い薬と催眠術で、患者の過去だけではなく前世をも探ることが出来ると発表し、世間から多くの賞賛と、同じくらい多くの非難を得た。
ロンドンに滞在する歴史小説家のジュディス・チェースは幸せの絶頂にあった。
仕事では美貌の女流作家という名声を手にし、プライベートでは内務大臣スティーブン・ハレットから求婚されたのだ。
しかし、戦災孤児であるジュディスには、自分の出生を知りたいという昔からの悩みがあった。
しかも、最近になって頻繁に、養女になる前の断片的な記憶が蘇るようになった。
大きな爆発音、そして、幼い女の子の泣き声…
我慢できなくなったジュディスは、パテール博士のもとを訪れ、催眠療法により過去の記憶を探ろうとする。
しかし、それこそがジュディスの身に不思議な記憶喪失現象が起きる始まりだったのだ。
本作品「アナスタシア・シンドローム」(原題:The Anastasia syndrome and other stories)は、メアリ・H・クラーク原作の同名の小説をラジオドラマ化した作品です。
原作は中編
ちなみに、原題からわかるとおり、原作は表題作「アナスタシア・シンドローム」を始めとする5編の中・短編で構成された作品集です。
このラジオドラマは、そのうちメインの中編だけをラジオドラマにしたものです。
青春アドベンチャーでラジオドラマ化された作品は、15分×10回という枠に収めるために駆け足の展開になってしまうことが多いのですが、本作品は原作が短め(とはいえ文庫で238頁ありますが)であるからか、丁度、青春アドベンチャーの枠にあった作品であると感じました。
似た作品が連続放送
さて、本作品が放送されたのは、上記のとおり1994年8月ですが、実は本作品の一つ前の8月15日から8月26日の期間に放送された作品が、当ブログでは既に紹介済みの「あの夜が知っている」です。
両作品は、主人公が戦災を原因として過去の記憶を失っていること、精神科医のもとで催眠療法により自分の過去を探ること、という二つの点で筋立てがとてもよく似た作品です。
作品の舞台がロンドンとドイツ、主人公の性別が女性と男性という点で異なるほか、本作品にオカルト的な要素があるのに対して「あの夜が知っている」にはその要素はないなど、異なる点もありますが、連続で放送する作品としては、かなり似ていると言ってもよいと思います。
もうひとつの類似作
ちなみに演出も同じ川口泰典さんです。
川口さんといえば、本作品の前年に放送された川口さん演出の「五番目のサリー」も、多重人格的な要素の面で、本作品と類似しています。
さらに言うと、本作品と「五番目のサリー」の双方で主演している前田悠衣さんは、「あの夜が知っている」では脚色を担当しています。
単に川口さんがサイコミステリーや前田悠衣さんを好きなだけかも知れませんが、こんなにも似ている作品を敢えて続けて制作したのには何らかの意図があったのかも知れません。
興味深いところです。
パテール博士やりすぎ
さて、主人公のジュディスは自分の過去を知るためにパテール博士のもとを訪れるのですが、パテール博士が頑張りすぎ?てしまい、単なる過去探し以上のところまで踏み込んでしまいます。
その結果、丁度、ジュディスが小説の題材としていた清教徒革命時代に関連する数々の事件が引き起こされてしまいます。
そして、恋人のスティーブンが首相へと近づくための総選挙が近づく中、様々な出来事が同時に進行していきます。
後味は悪いが見事ではある
本作品に現代の科学的常識を飛び越えた要素があるのは好き嫌いが分かれるところかと思います。
個人的には超常的要素はあまり好きではないのですが、ジュディスが書いている小説の完成、引き起こされた事件の捜査、パテール博士によるジュディスの治療?、ジュディスによる家族捜し等の様々な様相が、総選挙の投票日という1点に向けてすべて収斂していく様はなかなか見事です。
後味の悪さが、逆に印象の強さにつながっているエンディングを含めて、なかなか展開が読めない良作だと感じました。
しかし、改めて考えてみると、結局、事件を引き起こした原因も、それが拡大してしまったのも全てパテール博士の無責任さのため、という気がしなくもありませんが。
幼女と中年女性
さて、本作品の出演者に話を移しますと、まず主役のジュディス役が、初期の青春アドベンチャーでは超お馴染みの常連出演者だった前田悠衣さん(わたしは真悟、悲しみの時計少女)です。
幼女の役と40歳前後の落ち着いた大人の女性の役を両方演じ分けているのは前田さんならではでしょう。
いつもの川口組
そのほか、恋人のハレット役の海津義孝さん(ジュラシック・パーク、カルパチア綺想曲)、パテール博士役の吉田鋼太郎さん(ブラジルから来た少年、平成トム・ソーヤー)、16世紀の人物・レディー・マーガレット・カルー役に毬藻えりさん(愛のふりかけ、アリアドニの遁走曲)といった、川口泰典さん演出作品の常連出演者がずらりと揃っています。
安心して聴けますが、正直言っていささか常連出演者が固定しすぎている観がないとはいえませんね。
脚色は様々
脚色は「ジュラシック・パーク」や「踊る黄金像」などの香取真理さん。
内容や出演者に類似要素の多い3作品ですが、「五番目のサリー」の「じんのひろあき」さん、「あの夜が知っている」の前田悠衣さん、本作品の香取真理さんと、脚色はきちんと棲み分けされています。
【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
こちらをご覧ください。
傑作がたくさんありますよ。
コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
この作品は面白い作品でした。特に、レディー・マーガレット・カルーがジュディスを完全に掌握したときは鳥肌が立ちました。